One night

 全力で逃げる俺を助けてくれたのは、奈々だった。彼女が風俗店の中に俺を隠してくれた。

 薄暗い部屋で二人きり。

 俺は事の経緯を説明した。


「そんな...天音ちゃんがストーカーだったなんて...」


 だが早くここから出たいのが本音だ。

 付き合ってもいない女性と2人きりだなんて。

 それに加え、ここは風俗。


「震えてるね。蓮君なら無料だよ?」


「やめろよ。セックスで人を慰めることはできない」


「できるよ?」


「できない」


「できます」


「...だとしても俺はシたところで変わらない」


「変わるってば」


「しつこいな!なんでそう思うんだよ!?」


 すると彼女は前かがみになって俺の耳元で囁く。


「だって、私たちが付き合ったのは、ここで性交したからだよ?」


 吐息で身体がビクンと震え、陰部がちはじめた。大学生にもなって、囁かれた程度で、勃ってしまうなんてみっともない。

 そもそも、風俗嬢と恋人になるなんてありえない。


「だが、今金を持っていないし、ツケにもしたくない」


「だから言ったでしょ?蓮君なら無料。何度でもしてあげる。我慢しないでいっぱい出して」


 断りたい気持ちとは裏腹に、下半身はどんどん起き上がっていく。

 さっきまで命の危険にさらされていた俺は、いい気分になれるものに、目がなくなったようだ。


「この私、源氏番号1105番、榊奈々がお客さまの相手をします。今宵は楽しんで」


...ぬぷ...




 建物に囲まれているため、太陽が見えないが、この暗い街にも光は差す。

 火照った体に当たる冷たい風が心地よかった。


「じゃあ、また」


 彼女はそう言って、家に帰ってしまった。

 俺はぽつんと立ち尽くす。


「勢いでやってしまった」


 昨日、一晩中、さっきまで、ずっと。

 ベッドの上で激しく上下する身体に、夢中になってしまった。



 それと同時に、記憶が戻った。行為がきっかけで思い出したのだ。

 俺の、本当の彼女は...

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