彼女率100%?

 デートは後半戦に突入。最後の舞台は本屋。

 天音と本屋に入って、それぞれ欲しい本を買って天音の家で読もうということになったのだ。


 十分後、俺達は本を選び、天音の家でゆっくりしていた。

 彼女の部屋に入ると、静かな空気がすっと体に染み込んでくる。

 しかし、壁にはアニメのポスター、机にはゲーミングPCとフィギュア、棚には漫画やラノベ。ベッドの下からは、急いで隠したであろうBL小説がはみ出ている


「ソファ、使っていいよ。コーヒー、すぐ淹れるね」


 そう言って、彼女はキッチンに向かう。

 私は促されるままソファに腰を下ろし、さっき買った本のビニールをゆっくり剥がす。

 しばらくして、二つのマグカップを持って彼女が戻ってくる。


「ブラックでよかったっけ?」


「ああ、ありがとう」


 それからしばらくは、ただ黙って本を読む時間が続いた。

 話さなくても気まずくない。そういう空気が、妙にありがたかった。

 ふと視線を上げると、天音がこちらを見ていた。目が合うと、少しだけ照れたように笑って、言った。


「なんか、変な感じだね。誰かとこうして本読むの、久しぶり」


「俺もかも。部屋に誰かがいるのに、こんなに静かなのに落ち着くって、ちょっと不思議」


 それから少しして、彼女が不意に声を出した。


「ここ、読んでてちょっと笑った。なんか、すごく分かるって感じで」


 彼女が開いていたページをこちらに見せてくれる。目で追ってみると、日常のちょっとしたすれ違いを描いた短いエピソードだった。

 たしかに、誰もが一度は経験しそうな些細なできごと。

 が、経験した覚えがない。記憶を失うと、そこら辺の共感能力にも支障がでるようだ。


「うん、わかる。こういうとこ、変に気にしすぎて自滅することあるよな」


「そうそう!でも読んでると笑っちゃうの、なんでだろ」


 笑いあうと、部屋の空気がすこし柔らかくなった気がした。

 ページの先にあるものより、いま目の前にあるこの空気が、ずっと大切に思えた。

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