作業工程6 向ヶ丘2型駆除作業(大祓井暁)

第35話 えっ!承認おりた!



翌日。調布市、仮設キャンプ。


 多摩区民が一時的に避難している元スタジアムである。

秋村郁実はスマホから顔を上げ、憂鬱な目で濁った空を見上げた。


「郁実。気持ちは分かるがよ…未練だぜ」

「ごめん、おじいちゃん」


 郁実が見つめる空の下には多摩区がある。

40時間後、清掃兵器によって焼き払われる運命の多摩区は、

今や無人となってひっそりと最期の時を待っているはずだ。


「どうかしたかい」

「浄さんが電話に出ないの。金城さんも白鳥さんも」

「仕事で忙しいんだろ」

「ならいいけど…」


 一度やると決めた仕事を中断するなど、プロのデブルス清掃員として

誇りを持つ彼らにとって断腸の思いだっただろう。

 それでも依頼主に対してアフターフォローをしない訳がない。

短い付き合いであっても、郁実も長十郎もその他の多摩区民も

そう信じて疑わなかった。


「なんだか、イヤな予感がして」

郁実の肩に手を置き、長十郎は頷いた。


「分かるぜ。俺も朝からよ、妙な胸騒ぎがしやがるんだ」

「…おじいちゃん…」


そして郁実と同じように空を見上げた。


「…なんてェ色だ」


デブルス粉塵で濁った空の色…

それは郁実と長十郎の胸の内に抱える

不安そのままの色をしていた。



 ****



同時刻 川崎市多摩区 枡形山近辺


『 作業装甲 緊急事態特例承認 』


「えっ!承認おりた!」

「は?なんでだよ?!」

「いやぁ助かったね」


 浄・鐵也・響司の三人はダメ元で出した作業装甲装着申請が、

あっさり承認されて驚いていた。

 

「清掃庁も一枚岩じゃねェって確定した訳か…」

「俺達のこと、応援してくれる職員さん達もいるんだね」

「ありがたいね…用意した防護服はしまっておこうか」


 もはや特務清掃員にとって第二の皮膚とも言うべき作業装甲。

これが有ると無しとでは作業効率は段違いだ。

 承認が下りなかった時のためにと用意していた

市販の防護服を、各自畳んでSKにしまう。

防護服は作業装甲ほどの頑丈さも身体能力向上機能も何もない。

しかし生身でいるよりは断然マシなのだ。


「作業装甲を着た今となっちゃあ、こんなペラペラの防護服で

デブルス核をブチ壊そうとしてたとか、バカでしかねェな…」

「ま、その時はその時でどうにかしたさ」

「違いない。…では諸君、行こうじゃないか」


 浄・鐵也・響司の三人は各自のカワイイAIを伴い、魔窟の入り口に立った。

生田緑地・枡形山の一画に口を開ける巨大なガス穴…



この奥にデブルス隕石『向ヶ丘2型』が巣食っている。



 


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