プロローグ2

 気が付くと道端に倒れていた。


 特に痛い所とかは無く、道行く通行人も疎らな所為か誰も人が倒れていたと言うのに気にする人は居なかった。


 これ幸い・・・なのかな?

 人が倒れてても無視って、どこのニュー○ーカー?怖い。


 そんな事を考えていると、ふと思い出す。


 そう言えば俺って死んだんだっけ?


 いや、夢?それとも本当に死んだのか?


 そうだ、鏡を見よう。

 自分の姿を見て知ってる顔だったら死んじゃいない。

 知らない顔だったら、多分死んだって事だろう。


 そう思うが早いか俺はトイレを探すことにした。











 トイレを見付けて鏡を見た俺の結論。


 死んでた。おれ、死んでたらしい。


 服装は死ぬ直前とほとんど変わらないんだけど、体形に合わせてサイズ調整されたのか微妙にスタイリッシュにカスタムされてるのが謎。それに妙に似合っているのもなんかムカつく。

 と言うか、一番謎なのは・・・なんで美男子になってんだよ?!

 俺平均って言ったよな?


 ・・・ワンチャン特殊メイクって可能性もあるか、虚空蔵菩薩様ってあれだったし。


 そう思って顔を引っ張ってみるが残念ながら自前であることが発覚・・・結構痛い。

 もしかしてこっちの平均モブがこれなら、こっちの美男美女って半端ないのか?


 いや、その前に現状を確認しよう。


 今の俺には何があるんだ?

 ひょっとすると何も持っていないのか?

 手荷物と言うか鞄らしきものは持っていない。


 ・・・無一文?


 俺は慌ててポケットをまさぐると、胸ポケットからスマホが、尻ポケットから財布が出て来てホッとした。


 幾らくらい入ってるんだろう?


 恐る恐る財布を開いてお札を確認すると、見知らぬおばさんが描かれた紙幣が現れる。


 偽札・・・と言う訳ではなさそうだよな。


 ふむ、こっちの世界のお札って事か?


 そう思って紙幣をじっくり見てみると、お金の単位は円だった。

 共通点が見付かり少しホッとする。


 でも、なんか古臭い感じがする。

 なんだろうこの違和感・・・透かしはある。

 他には・・・あ、ホログラムが無い。よく見ると使われているインクの種類も少ないのか色味が地味?


 紙幣1つをとっても色々な違いが見付かり、改めて違う世界にいるんだと実感が深まる。

 所持金は38,666円だった。

 どうやら1万円札以外の各種お札と硬貨が1枚ずつ入っていたようだ。

 2千円札も入っていたのには驚いたけど、新しいのに何故か懐かしさも感じた。

 結構な現金が手に入ったので少し安堵した。


 さて、次はスマホかな?


 そう思ってスマホを開いてみると、これまた微妙にデザインが異なるアプリが並んでいて、パチモン臭さが拭えない。

 微妙だが、確かに違うデザインや名称。でも何となく理解できる程度には似ていると言う絶妙のラインで思わず笑ってしまった。


 そんな時、タイミングよくスマホが震え、俺は驚き奇声が漏れた。


「うぉ?! って、え?誰?はぁ?」


 震えるスマホに表示された名前を見て俺は首を傾げる。

 表示名は『虚空蔵』となっていた。



 まじまじと見詰めてしまったが、意を決して電話に出る。


「もしもし・・・」


「あー、出た出た!

 いやぁ、ごめんね。

 ばいばーい!って言っておきながら早速やらかしちゃったよ!

 本当にごめんね!」


「は、はぁ・・・やらかしとは何のことでしょうか?」


「いやぁ、君の名前を決めてなかったよ!

 ごめんごめん!」


 ・・・あー、そう言えば決めてなかったな。

 それなら誕生日とかはどうなってるんだろう?

 素朴な疑問を投げかけてみると、返事が返って来た。


「生年月日とか血液型とかはこっちの時と同じにしといたよ。

 君そういうのあんまり頓着しないでしょ?

 だから気が抜けてる時や咄嗟に話しを振られた時なんかにボロが出ない様にしといたんだ。

 まぁ、それでも誕生年だけは違うんだけどねー!

 名前を同じにしなかったのは流石に新しい人生を始めるんだから名前くらいは自分で決めて欲しいなぁ~って思ってね。 それで決めるの忘れてたんじゃ意味なかったかもだけどね。

 それでごめんね。

 申し訳ないけど早速名前を決めてくれないかな?」


 答えは返って来たけど、結構考えてたみたい。

 ただ、話し方が軽いせいか深刻さが今一伝わってこない。


 それでも名前を忘れるってのは相当ではなかろうか?

 多少の憤りを感じなくもないが、取り敢えず少し時間貰えないかな。


「少し考えてる時間をもらえませんか?」


「少しならいいよー!」


「ありがとうございます」


 さて、名前か、名前。何にしよう。


 カッコいいのが良いかな?雅治とか・・・


 ・・・


 雅治と呼ばれるのを想像したら、なんか恥ずかしくなった。

 俺じゃない感が、違和感が凄い。


 誰かの名前を参考にするのはやめよう。


 ゲームの時に使う名前は・・・横文字だから合わないか。

 それに仮だから直ぐ決められるんだけど、これから長く付き合う自分の名前となると、ちょっとどころじゃない恥ずかしさを感じる。


 カッコいい名前や巫山戯た名前はやめよう。うん。恥ずかしい。


 うーん。俺は生まれ変わったんだよな?

 つまり新しい人生が始まったってことで、これから新しい俺の人生が始まる。


 新しい・・・


 ・・・


 あらた


 うん。俺の人生新しく始まるんだし、取り敢えずあらたに決定!


 新 何某なにがし

 何某 新


 名字にも名前にもどっちにも使えるな。


 あー、じゃぁ、もう一つ考えるか。


 えーっと、俺は異世界転生したんだよな。


 『異世界』・・・はない。全くない。全然ない。論外だな。

 残りの転生・・・は、なんかしっくりこない。


 うーん、異世界転生に似た言葉は・・・異世界転移、輪廻転生・・・位しか思いつかんな。


 『輪廻』か、意味合いは少し違うけど、いいかもな。


 輪廻りんね あらた


 あらた 輪廻りんね


 どっちが良いんだ?


 うーん。


 と暫く悩んでいると虚空蔵菩薩様に急かされる。


「ねぇねぇ、まだかな?」


「あ、すみません、もう少し待ってください」


 結構な時間悩んでいたみたいだ。

 もう直観で行こう。


 輪廻 新 新 輪廻・・・


 何となく『新 輪廻』の方が響きが良い気がする。

 よし!

 『新 輪廻』にしよう。


「・・・と言う事で俺の名前ですが、名字は新しいと書いて『あらた』下の名前は輪廻転生の『輪廻』と書いて『りんね』でお願いします」


「おー!中々凄い名前にしたね。

 あらた 輪廻りんねだね?わかったよ!

 これこれこうして・・・登録よし! 反映完了!

 これで君は『新 輪廻』だよ!

 これで一件落着っと!

 でもさぁ君、自分の名前ちゃんと書けるの?」


「え?

 あ、あぁ!

 しまった・・・かな?」


 『あらた』は問題ないけど、『りんね』の方はちょっと自信ない。

 名前書くの練習しないと。


 余計な課題が出来てしまったが、これで虚空蔵菩薩様の要件は終わりかな?


「まぁ、頑張って覚えてね!

 私からはこれでお終いだね!

 何か質問とかあるかい?」


「あのぉ、私の当面の生活基盤は用意して頂けると仰られていたのですが、私は取り敢えずどこへ行けばいいんですかね? 正直、ここが何処なのかもわからないんですよ。

 あと、私のお家ってあります?」


「あー、それも伝え忘れてたね。

 ごめんごめん。

 君のお家はあるから安心して、場所は後で住所をメールするから見てね。

 それと生前君が使っていた私物なんだけど、流石にパソコンみたいな情報端末は無理だけど、衣服はそのままお家に入れてあるからね!

 家具や生活必需品に家電なんかは多少こちら風にアレンジされてるけど使えるようになってるから大丈夫!

 それと預金通帳なんだけど、大学出る位までは生活できる位の金額が入ってるよ~。

 あ、あと生前お前・・・いや、輪廻と呼ぼうか。

 輪廻が貯めてたお金も入れてあるから余程豪遊したり無駄遣いしなければ何とかなると思うよ~

 通帳とキャッシュカードはお家に仕舞ってあるから帰ったら確認してね」


 捲し立てるように虚空蔵菩薩様は話し続ける。


「最後に、現在地についてはスマホの地図で調べるか近くにいる人に聞くか交番で聞いてね。

 他に何かあるかな?」


 そう言って言葉を切ると虚空蔵菩薩様は待ちの姿勢に入る。


「あ、あのぉ、私の顔が美形になっているんですけど、何故ですか?

 確か私は平均でお願いしますってお願いしたと思うんですけど・・・」


「え?だって輪廻が平均って言ったんだよ?

 だからそうしたんだけど?」


「いや、それが、思いの外、美形になってまして・・・」


「いやいやいや、そりゃ当然だよ?

 平均顔仮説って知らないかな?

 色々な人の顔を集めてその平均をとると極端な特徴の少ない整った顔になるんだ」


「整った顔?」


「そう。

 整った顔って言うのは、美形と言って良いと思わないかな?」


「そ、そんな?!

 じゃ、じゃぁ、俺は自分で美形にしてくれと言ってしまっていたのか・・・」


 思わぬ衝撃を受けて膝をついてしまう。


「一応考えてることと言ってることがかけ離れてたからその時に確認はしたよ?

 『本当に平均で良いの?』って聞いたでしょ?」


 いや、それだけじゃ意図まで汲み取れませんって・・・


「因みに今回輪廻の年齢は18歳って事だったから18歳の男性の平均顔にしたんだ。

 しかも完璧なシンメトリーにしたからね。

 より魅力が増してるでしょ?

 あ、既にこっちに来てるからもう顔を変える事は出来ないからね?」


 俺が何か言おうとしたのを察知したかのように先手を打たれてしまった。


「それじゃぁ他になさそうだから、これで暫くのお別れだね。

 新 輪廻!

 新しい人生を楽しんで精一杯生きるんだよ!

 頑張ってね~♪」


 そう言うと電話は切れた。











 暫く自身のやらかしに呆然としているとメールの着信音が鳴り、自宅の住所をゲットした。


 ・・・取り敢えず、お家に行こう。

 いや、帰ろう。



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