神北高校事件ファイル
じゅん うこん
序章 水攻めの死者
第1話 雨上がり
『朝からついてない。昨日からだけど……』
昨日の放課後、軽音部の部室に筆記具を忘れてしまったのだ。
帰宅途中には気が付いたのだがその時には生憎と急なゲリラ豪雨が降り出したのだ。
お陰でいつもより早く起きて職員室で鍵を借りないといけない。
しかも雨上がりの湿気で、慌ててセットした前髪が額に張り付き美祢のテンションが下がる。
『部室棟って遠いのよね』
部室棟の部室に入るには鍵がいる。
鍵は職員室にあるので、正門から入って西側の教場棟で職員室に立ち寄り、部室の鍵を借りる。
そのためには教師に忘れ物をした事を一々伝えないといけないのも煩わしい。
部室棟へは渡り廊下を通って正門正面の第一体育館と剣道場の横を通過する。
『脚太くなりそう……』
美祢はため息をつく。ここ神北高校は小高い丘の上にあり通学するだけで足腰が鍛えられる立地だ。それに加えて朝から校舎を隅から隅まで走破したので運動不足気味の美祢は疲れを感じていた。
渡り廊下の一番奥が第二体育館、通称『部室棟』だ。
増築された部室棟は他の棟と比べて築浅で最新の設備が投入されている。
特に耐震、防火には注力しており、免震構造に加えて全室スプリンクラー配備だ。
しかも遮音性も良いので音楽室を吹奏楽部に取られてしまったいた軽音部が部室で演奏しても周囲へ音が漏れず
『あれ?』
美祢が軽音部のドアを開けようとしたところ北門から野球部のグラウンドを真っ直ぐに部室棟まで伸びる一組の足跡を見つけた。
北門は鍵が掛けられ普段は使われていない。
3年生の美祢の記憶でも野球部に新型のバッティングマシーンが納入された時くらいしか開いている所を見たことがないのだ。
『気になるなあ』
部室棟の外廊下は腰壁が設けられているためグラウンド側の様子が見えない。
上から覗き込むか、靴を履き替え腰壁のスリット部分からグラウンドに出るしかない。
美祢は当然に手軽な前者を選択した。
『一番端は歴史部か』
軽音部の北隣は空室で又隣が歴史部だ。
美祢は腰壁から下を覗き込む、
『脚だ』
学校指定のローファーが見えた。
恐る恐る視線を手前へ移動させる。
ずぶ濡れのグレーのスラックス、紺のジャケット、身長180センチと言った所か。
うつ伏せに
『男子生徒、1年かな?』
美祢の知らない生徒だ……。大柄な生徒の様だが、成長を見越してかジャケットのサイズが大きく身体に合っていない。
さらに視線を手前に寄せると男子生徒の後頭部……。
挫創が見えた。
『死んでる?110番?取り敢えず職員室に』
美祢は悲鳴をあげる間もなく職員室に走ったのだった。
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