さよならの花を君に咲かそう。

葉月咲

プロローグ

「私といてくれて、ありがとう。きっと私はあなたを苦しめるわね。でも、ごめんなさい。それを私は、今、とても嬉しく、そして幸せに感じるわ。またね。春樹」

 そういうと、花凪は去っていった。

 僕は何も言えず、振り向くこともできず、ただその場に佇んでいた。

 頬を撫でる風の感触がやけに鮮明で、手の温度がやけにぼやけていた。

 それから一日と経たずに。数時間で、彼女は消えた。

 もう二度と、彼女と話すことはない。

 もう二度と、彼女に触れることはない。

 もう二度と、彼女を見ることは、叶わないのだ。

 僕はその日、未来を失った。



「またね、春樹」

 そう言って私はその場を立ち去った。

 またなどない「またね」に、私の心は鋭く突き刺されて。

 きっと私は、もう春樹には会えない。けど、彼には生きていてほしい。

 そうすれば、私は彼の中で生き続けることができるから。

 怒るかな。軽蔑するかな。でも、ごめんなさい。春樹、あなたが好きで、大切で、それ以上にあなたは私の存在の証明だったの。

 これは、私の愛で、これは、私のエゴだ――。

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