最終話

今日は目出し帽を被らず、バールも手にしていない。

なぜなら私は今、コンビニでバイトをしているからだ!


TCGの強盗は趣味としてやるべきだと気づいたのだ。

このバイト代は新しい目出し帽を買うための資金だ。


レジでお金を数え「これで丁度ですね」と言うと、男は無言で一万円札を一枚渡してきた。

お釣りだろうか? まあいい、ここは店員としての真心を見せてやろう。

「ありがとうございます!」

お礼を言うと男もニコリと微笑み「また来てください」と言った。

このバイトも悪くない。

愛想よくしていれば楽だし、クソ客はバールで殴ればいい…私の日常は充実している!



TCG強盗太郎として名を馳せた私。

日曜日に自宅の郵便受けを開けると、そこに1通の手紙が入っていた。『拝啓 目出し帽を被った貴方様へ』とだけ書かれた手紙だ!


ファンレターはありがたい。

早速読むことにした。

『拝啓、目出し帽を被った貴方様へ。私はとあるカードショップの店員です。先日は当店にて強盗を働いていただきありがとうございました。』


驚いた!

まさか私のファンがこのような形で手紙をくれるとは!

あの後警察が追ってこなかったのは、こうしたファンの助けがあったからだろう。


『さて、本題ですが...実は貴方にお願いがありこうして筆を取った次第でございます。そのお願いとは他でもない、我が店にてまた強盗を働いていただきたいのです。』


絶句した!

つい先日まで私に怯えていた連中が急に態度を変え、今度は強盗を頼んでくるとは!

予想外だった。

しかしふと閃いた。

この手紙は罠ではないだろうか?


翌朝、郵便受けをのぞくとまた手紙があった。恐らく熱心なTCG愛好家なのだろう。

その熱意にバールを見舞うことで応えてやろう。


読み進めると、驚く一文があった。

まさかの事実!

私はTCGショップ同士の抗争に巻き込まれる立場となったのだ!

新たな世界への進出感はあるが、これから私の身はどうなるのだろうか?



コンビニバイトをしつつTCG強盗を快諾し店を襲い続ける傍ら、そのTCGショップでバイトを始めた私だが、次第に売れ残りの商品を押しつけられるようになった。

プレミアが付いた商品もあったが、基本的には不良在庫をこの身に押しつけられる日々だった。


ある日の深夜0時過ぎ、店のレジ金が用意されていた。

当然貰うべきものは貰ったが、その後眠ろうとした私にまた手紙が届いた。


読み進めると、どうやら私に警察の内偵が入っているという情報だった。


穏やかじゃない。

私は冷蔵庫から缶ビールを取り出し飲んだ。

私はまごうことなきTCG強盗太郎。

目出し帽でバールを片手にレジ金を盗み去った正義の味方だ!

この立場が覆ることはあるまい...フフフ。


2日後、警察が来て私を逮捕した。


しかし私は諦めない!

私の人生はTCG強盗から始まったのだ!

取り調べ室では毎回刑事たちに、私のTCG強盗太郎としての活躍を誇らしげに演説した。


そうして私は裁判にかけられ、心神耗弱状態を認められて医療刑務所に入所することになった。

しかし、私は諦めない!


それから半年経ったある日のこと。

私が入院していた医療刑務所が漏電が原因で火事になったのだ。


深夜2時の出来事だった。

私は右往左往する刑務官や医師たちを横目に独房を抜け出し、ついに自由の身となった。


私のTCG強盗太郎としての人生は、これからが本番だ。



終わり。

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TCG強盗太郎の奇妙な日常 芥子川(けしかわ) @djsouchou

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