修と恵那のイチャラブコメ
金貨珠玉
オムライス
「うん〜。むにゃ〜」
「んにゃー、ふ」
私の起きるのに合わせて、猫のあくびの声が聞こえる。
でも、私のそばにいないぞ!!
「むむっ!」
私の飼い猫二匹は「成田修」が隣に来ると、いつもいっつも! 体温が高くて寝返りしないで動かない丸太のような脚の股の間やふかふかの胸の上に乗ってしまうのだ。
「修ばっかりずるい!」
そんな事を言うが、私「楯野恵那」は寝返りを何度もうつため、猫もほとほと呆れてるのか、一緒に寝ることは少ない。
自分自身が三匹目の猫のような恵那の定位置は、修の腕枕だ。
「うーむ。起きてしまった。おーい修ちん、朝だよ」
「う……馬鹿いえこのクソ……俺ァ連勤明けで寝たばっかりなんだよ」
「ムー! つまらんのだけども!」
ガバッと抱きついて無精髭の生えた顎にチュッとしてあげたのに、今の修には恋人よりも眠気らしい。
「あと……1時間で起きる……それまで飯作ってくれよ。頼む……」
珍しい修の懇願の言葉に、びっくりと同時に嬉しくなった恵那は、言葉通り料理でもしてやろうかと思ったのだった。
「ふふふ〜ん。何が良いかな〜」
修は「よっ! 日本男児!」みたいな見た目のくせして、洋風のものが好きなのだ。
がそれを知った私が「これが好きなんだろう!」とオムライス屋さんに行ったら「けっ! 女々しい食いもんだな」と馬鹿にされた経験がある。
その時は、結構シャレにならない喧嘩に勃発したが、まだ二人が付き合いたてで、修のこともよくわかってなかった。
どうやら「男のプライド」とやらが邪魔して、外ではチャラついたものが食べれないようなのだ。
あの時、家でオムライスを自分が作っていたら。
もし、それを馬鹿にされてたら今の二人はいないだろう。
でも、今ならちょっとぐらいの辛口な軽口ぐらい受け流せるし、それにきっとあれは外だから言ったのであろう。
「よし! オムライスにきーめた!」
卵と〜玉ねぎと〜修がチルドにいつも常備してるサラダチキンも使っちゃえ!!
あっ! ご飯は……レンジでチンするご飯でいいかな?
あと、私がにんじんが好きだから、にんじんも入れよっと!
微塵切りは、私はまるで得意ではないので「ブンブンチョッパー」という微塵切り特化性能を持つ神アイテムに任せる。
買う時に修は「こんなの使ってたら、どんどん堕落するぞ」と文句を言ったが、餃子を作るのに使ってあげたら、文句は言わなくなった思い出。
「ふふふ、これからも酷使してあげるぞ! ブンブン君!」
ヘタをとり大きめに切ったにんじんを入れ、紐を引っ張りブンブンさせると、否応なくテンションが上がる。
ルンルンでにんじんを微塵切りというか原型無くなり切りにして、中華鍋に入れる。
ブンブン君に張り付いて取りきれないにんじんもあるが、無視して皮を剥いて軽く切った玉ねぎも入れる。
そして火をつけそのまま放置!
そして再びブンブンブン!
普通は肉から入れるだろうが、サラダチキンは修があらかじめ茹でて火を入れてあるからいいのだ。
ちなみに、私達はびんぼーしょーなので、鶏胸肉を茹でた汁は鶏ガラスープとして飲む。
これが美味いのだ。
そんなこんなしてると、にんじんに軽い焦げ目がつく。
おっと、焦がしてしまいこの料理は早々に失敗ですね?! と思ったそこの君!
「メイラード反応」というものがありましてねぇ、軽く焦げた食材は風味がついて美味いんですわぁ〜。
「焦げてるじゃねぇか!」
と修に文句を言われた時に、華麗に論破した甘い経験を思い出し、ふふふ、とほくそ笑む。
しかし、これは焦げすぎかもしれない。
そういえば、油をしかなかったな、にんじんは油で炒めると栄養がなんちゃらとか聞いたことあるのにな。
まぁ、大丈夫。一休み一休み。
私は慌てずに火を消して、ブンブンしてた玉ねぎ(あとちょっと残ってたにんじん)を入れる。
私も修も、玉ねぎが辛くても食べれるタイプの人間なので、ここは軽く火を通すだけでいいだろう。
この間に、サラダチキンを切ろう。
これは、ブンブンチョッパーで切ると食感が悪いかな?
面倒だが、ちゃんと包丁で切ることとしよう。
ザクザク切りにして、中華鍋に入れる。
「よっしゃー! 炒めるぞぇ! 私は炎の〜料理に〜ん〜♩」
謎の歌を歌いながら、テンションを、あげにあげる。
料理が好きそうな印象を持たれるかもしれないが、違うのだ。
そこまで好きじゃないから、テンションを上げねばやっていけないのだ。
普段は修が作る人、私食べる人だ。
でも「ようつべ」のご飯作って食べる動画とかは大好きなので、知識だけは修よりあると自負してる。
具材の段階でケチャップとコンソメを入れて、味を馴染ませることにより、酸味も消え一体感が産まれる!!
本気で挑むなら「オムライス、レシピ」で検索して料理研究家が作るところを見ながらやるのだが、今回は自分の腕前1000%を見せてやるのだ!!
チンしたご飯も入れ、混ぜ混ぜしてケチャップと塩胡椒で味を整えて……
「ふー。チキンライス! 完成いたしました!!」
パチパチパチパチ
自分で語って自分で拍手する。
ちょい虚しい。
修はまだ寝てるかな?
「修ー。出来たよー。あと卵乗せるだけだよー」
「んん……あぁ、出来たかよ?」
多分30分ぐらいしか経ってないけど、修は揺らすと起きてくれた。
私だったら寝てる時に起こされたらキレて暴れるのだが、ここは修の偉いとこだ。
「何作ったんだ?」
「ん〜? 何だと思う〜?」
「あー、味噌汁。か? いや、この匂いはケチャップだな……オムライスか……?」
ちょっと顔を顰めてる。
失礼な奴だ。
「ピンポーン! 大正解! ご褒美のちゅー!」
「ん。」
「む、んむ〜」
軽いキスをと思ったら、舌を入れられガッツリ口内を蹂躙される。
強引! 好きだが! くそ! なんか悔しいぞ!
流されないように、顔を離しておでこをごつんとした。
「こら! 先にご飯!」
「わーったよ。飯、作ってくれてあんがとな」
「むふふ」
猫を起こさないようにそーっと動く修を見ながら、嬉しくてちょっと踊った。
「へんてこ踊りはやめろ」
「いいから〜。さ、箸出しててね〜。私は最後の仕上げに入るから!」
「おう」
最後の仕上げといっても、やる事は簡単だ。
間違いなく大量に食べる修にはラーメン丼にチキンライスを盛り、大きい皿を上に乗せ、えいやっ! とひっくり返す。
こうすればラーメン丼の形に、つまり綺麗な半球状にふっくらとチキンライスが大きい皿に乗る。
これが、いわゆる道具を使うということなのだよ明智くん。
誰にともなく知識を誇りながら、今度は卵を3個しっかりほぐして油をたっぷりしいたフライパンで焼いていく。
修は目玉焼きもゆで卵も硬めが好きなので、ここはしっかり火を通してやろう。
ふわふわ〜なんてのを作ったら、多分顔を顰めるぞ。
「おい、箸置いたぞ。おっ。美味そうじゃねぇか」
「でしょでしょ? 期待しててね〜」
卵に火が通ったので、ほい! と半球チキンライスに乗せる。
「あぁっ!」
「はははは、何だよ。変なふうに出来たな」
最後の卵を置くところで失敗した!!
ぐちゃ、と半分に折りたたまれてしまい、綺麗に出来なかったのだ。
「もっかい! もっかい!!」
「腹減ったからこれでいいだろ。恵那のは作ったのか? 俺が作ってやろうか?」
「いらない……」
私は、見るからにもんのすっごい、落ち込んでしまった。
しょんぼり顔を見て、修は長身を屈ませて私の頬にキスしてくれた。
「馬鹿。落ち込むなよ。美味そうじゃなくても、恵那が作ったんだから、俺にはご馳走だ」
「……修の馬鹿」
もう一度、今度は唇にちゅ、とした。
「美味しそうだよ」とか嘘を言わないで正直なとこが、好きだ。
大好きだ。
「……修……しゅきぃ」
「うぉっ! お前、やめろよ。さっきお預けしたくせによ。頼むから煽るのは食った後にしてくれ」
「じゃあ! 早く食べよ! それで、それでめっちゃイチャイチャしよ!!」
「おうおう、元気出たか。よし、食うぞ!」
「うん!」
オムライスは、美味しかったけど、たまにガリッとなるにんじんがいて、またちょっと落ち込みかけた。
が、修は文句一つ言わずに食べてくれた。
もう、私の心は修にメロメロなのだなぁ。全く。
修と恵那のイチャラブコメ 金貨珠玉 @pearl4129
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