第二話 元Cランク冒険者のギール
夜はさらに深くなる。アリシアさんのフォローはとりあえずミーニャに任せた。
先ほどの冒険者はとりあえず帰らせた。あいつの実力は、直に触れたおかげで少しわかる。おそらくはDランク以上だろう。
ここら辺ではあまり見ない顔だった。おそらくは、他の街からきた冒険者、きっと他地域でのやり方が板についた野蛮人。
でもだとすると、クレアさんがやつを知っていたのが少し疑問だ。
ともかく、この事態を早く収集しないと。
まずはこの完全に白けた雰囲気をどうするか、
酒場の職員たちも冒険者も完全に萎縮してしまっている。
この場をもう一度盛り上げる方法を考えていると、後ろの方からミーニャが戻ってきた。
戻ってきたミーニャはまるでなきそうな表情で、ヒソヒソと声を顰めながら話しかけてきた。
「クレイドさん、さっきの人誰ですか?」
「さあ、知らない。でも、多分ここの冒険者じゃないだろう」
「やっぱりそうですよね、あんな人私知りませんもん!」
「クレアさんがなんか知ってるみたいだから、ちょっと今度聞いてみる。とにかくまずはこの場をなんとかしないと」
もう一度、ギルドのフロアを見てみる。
冒険者の奴らはみんななんだか罰の悪そうな顔をしている。とてもこれから飲み直そう、という雰囲気ではない。彼らは同職に対してどこか仲間意識や同族意識を持っている。おそらくは自分よりもランクの高い冒険者が職員に迷惑をかけてしまって罪悪感に近いものを感じているのだろう。
職員の方は、そんな冒険者の様子を察してオロオロしている。彼女らの仕事は冒険者に寄り添うこと、この場で変に盛り上げて、よりこの場を乱しては行けない。
ここは、当事者の一人であり、職員、冒険者両方の気持ちのわかる俺がなんとかしなければ。
そう思い、俺がカウンターからフロアへ行こうとすると、ミーニャが心配そうに俺の袖も引っ張った。
「ど、どうする気ですか?」
「……なんとかする」
そう言って俺は彼女の腕を軽く払った。正直、俺もどうすればいいかわからない。
「冒険者のみんな、さっきの騒動は一切気にしなくていい!こっちの都合だ、こっちでなんとかする!なので、あー、俺が一杯奢る!飲み直そう!」
そう、この場にいる全員に聞こえるように話した。こういうのは早さが命と思い、喋りながら考えたので正直めちゃくちゃ言っちゃってると思う。
しばらく、俺がなんと言ったのか理解できない様子だったが、冒険者たちは、互いの目を合わせたのち、大きな歓喜の悲鳴をあげた。
しばらく、このギルドを動かしかねないほどの大きな歓声が続いた。
たちまちに「悪いなクレイド」「さすがだぜクレイドさん!」という俺への賞賛の声がちらほらと聞こえるようになり、すぐに職員たちも笑顔で酒を運び始めた。
大体全員に酒が渡った後、ベテラン冒険者のニーガスさんがテーブルの上に立ち、酒を持ってこういった。
「おいみんな、酒は持ったか?それじゃあクレイドさんに免じて飲み直そう。
クレイドさんに!」
「「「「「クレイドさんに!」」」」」
一度だけ、一瞬だけギルドが静まり返った。そして、この場の冒険者全員がほぼ同時に酒を飲み干し、ギルドは再び喧騒を取り戻した。
もう完全に、先ほどまでの静まり返ったギルドは消え去っていた。
それはいい、それはいいのだが。
知っての通り、いや知らない方もいるだろうか、冒険者とは乱雑でまともな仕事を得られない連中がなる職業だ。当然、お金に対してもかなり開放的である。
そして何より教養と常識がない。
見ればわかる、ここにいる冒険者のほとんどは俺が「全額奢る」ように勘違いしたものがほとんである。俺が言った「一杯奢る」というのを都合よく解釈し、やがて記憶を改竄し、なんとしてでも俺に奢らせるだろう。
まあ、それくらいは覚悟している。
最も、あの新人一人のために、俺がそこまでしなければいけない理由はない。後々、この時の金額は全てアリシアさんに請求する。
というのは半分冗談で、これでひとまず事態の収集はついた。俺はこれから再び仕事を続け、一刻も早く次の段階へ進まなければいけない。
「あれ、クレイドさんどこ行くんですか?」
「仕事だよミーニャ、君も早く仕事へ戻れ」
そう言って、俺は仕事場へ戻った。顔は見えないが、ミーニャはおそらく不満げな表情をしていたことだろう。
それから約2時間が経った。気づけば先ほどよりもギルドは落ち着きを取り戻していて、俺は明日の分の仕事を進めていた。
とりあえずはここまででいいだろう。俺は仕事を切り上げて、散在する資料やメモを書き分けながら自分の仕事部屋を出た。
カウンターにはもうすでにミーニャ以外の受付嬢はいない。そして、フロアにいる冒険者も、2時間前までの半分以下になっていた。
そして今も、「クレイドさんにツケといて」という言葉を残して、次々と去っていく。
その言葉に不安を覚えながらも、俺はミーニャに話しかけた。
「ミーニャ」
「ひゃっ、クレイドさん、いきなり話しかけるのはやめてって何度も言いましたよね…。で、仕事終わったんですか?」
「ひとまずは、それでちょっと例の男とアリシアさんとの会話について聞きたいんだけど…」
「それはもちろんいいですけど、私も冒険者と話してたんであんま知らないですよ」
それからミーニャが話してくれた内容によると、アリシアさんはずっと小さな声で喋っていたようで、アリシアさんが大声を出すまではアリシアさんが男の話を無視していたように見えたらしい。そして、ミーニャがアリシアさんの方を見た時にはすでにアリシアさんは泣き始めていて、向こうの男は怒っていたようだ。
「ミーニャ、お前……先輩としてさ」
「あーあー!わかってますよ!私だって反省してます。でもアリシアさん、色々と優秀だから、きっと大丈夫だと思ってしまって……」
「まあ、確かに少し意外だったかもしれないな」
いや、意外というのは相手のことをある程度知った上で出てくる言葉だ。まだ出会って大した時間も会話も重ねていない俺が、印象だけで語るのはよくないかもしれない。気をつけよう。
それから1時間ほど仕事を続け、ふと見た時、ミーニャは窓口周りの片付けをしていた。
すでに
「ミーニャ、帰っていいぞ」
「え、いやいや、まだ仕事残ってるし」
「今日はお前も疲れたでしょ、先帰ってなよ、俺やっとく」
ミーニャは奇妙なものでも見るように俺を見つめたまま、帰って行った。帰り際にアリシアの制服をどうするのかと聞いたら、どうやら忘れていたようで、慌てて取って帰って行った。
さて、とりあえず俺はギールだとかいう奴について調べよう。
確かクレアさんが言っていた『ここらでは有名』。ここらってなんだ?ミーニャは知らなかった。俺も知らない。とりあえず、王都のギルドに登録してあるやつから調べよう。
俺は資料室に連絡し、本部に登録してある冒険者の中からギールと言うCランク冒険者を検索させた。
結果が送られたのはその日の深夜一時。この本部に登録してあるCランクのギールは1人しかいなかった。
しかし、どう言うことだ?
「見た目が全然違う……?」
見た目、というよりも顔が違う。今日見たギールの顔は今にも血管が飛び出そうなほど、暴力的な健康さが見えた。しかし、資料に映る青年は、確かに野生を感じるものの、もっと安心できる、普通の顔だ。
やはり、あのギールとは別人だろうか。
そう考えながら資料を見ていると、資料室から追加で資料が送られた。
ああ、なるほど、そう言うことか。合点がいった。
※以下、資料より抜粋※
登録名:ギール・カトレイオス
登録日:479年06月12日
魔力指数(最終更新489年12月07日):9,180
(個人情報及び魔力指数内訳、称号、能力は省略)
初期ランク:G
「ランク更新履歴」
F(479年09月28日)
E(480年02月01日)
D(481年03月02日)
C(489年05月21日)
F(489年12月08日)
※以下、資料2より抜粋※
『本冒険者は、Cランクになった後、魔力増強剤の違法所持、使用。また、ギルドの女性職員、女性冒険者に対する暴行を働こうとしたため、一度CからFランクに降格している。理由の詳細は、素行不良と契約違反、また違法薬物を使ったランク不適正疑惑が挙げられる。』
クレアさんなら、確かにギールのことを知っていてもおかしくはない。
俺が入ったのは六年前、この冒険者が活発だった時期は十年以上前だ。俺やミーニャが知らないのもしょうがない。
危険人物。というか犯罪者じゃないか、ギルドはなぜこいつを残してるんだ。と思い資料を確認していると、どうやら闇ギルドと繋がりがあるらしい。
本人は闇ギルドに騙され、薬物を所持していて、正気を失っていた。と証言していたおかげで、追放を免れたようだ。
闇ギルド、フリーの殺し屋や犯罪者が利用、運営している政府及びギルド非公認の組織。その足取りは、日のあたるものには掴めないとされている。世界中にあるとされており、その総本山がどこにあるのかは未だ不明だ。
これは少し厄介になってきたな。
こんな深夜に取り合ってくれるかはわからないが、一応グランドマスターに報告しよう。
できれば、今回でこいつは完全追放しておきたいが。
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