風と共に去ってくれ

白川津 中々

◾️

彼の言葉は風と共に去っていく。


「自分の仕事が分からないんすよね。なんか、バック支えて、売り込みまでして、なんなんすかね。上にはもっと明確に指示を出してほしいですよ」


聞いたようなセリフをつらつらと得意気に語る彼はイキイキとして不満な顔を見せる。会社に対して誰かの言葉を用いて、さも正しい批判をしていると思い込んでいる姿勢の幼さと危うさ。プライドが高いくせに能力がないから攻撃する他に自己を主張する手段を持たないのである。それ故に、滑稽や哀れといった評が、自然と彼に貼られていく。何もできないくせに口だけは達者だなと、影で嘲笑されているとも知らずに、軽薄で退屈な言葉を並べ立てるのだ。


それについて。私は「大変ですね」と相槌を打ち話を合わせる。反を述べるのも、同調してやるふりをするのも疲れてしまう。とにかく気持ちよく、言いたい事を吐き出させてやるのが、双方にとって一番楽なのだ。


……そうとも。どれだけ馬鹿にしたくとも呑み込むのが最適解。言わぬが花。表に出さないコミュニケーションこそ社会人にとって最も尊く必要な能力。どれだけぐだぐだごたごたごちゃごちゃと甘ったれた戯言を喚き散らそうが我慢して「そうだね」と聞き流しておけば問題ない。そうとも、そうとも、そうとも……


「そんなに言うなら辞めてしまえばいいのに」


あ、しまった。つい口から出てしまった。


「そりゃあ、そうなんすけど……」


歯切れの悪い返事に返す言葉を失い沈黙。気まずい時間を過ごした。


以来、彼は俺の前で口を噤むようになった。影でなにやら噂しているのは、見て見ぬふりをしている。

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