第29話 自分を信じろって話だけどな
「外傷はなし。表情を見ても、あんまり苦しんだ顔はしてないね。……びっくりしているのかな? 突然襲われたりしたんだろうか」
「不意打ちか。そりゃあマズイな」
「そうだね。気をつけないと」
割葉が吹き出して笑う。
「気をつけてどうなるもんなのか? 嫌だぜ? おれ、こんなのに一緒くたにされるの」
「そのときは、もう死んでるから嫌もなにもないよ」
積まれている死体の山に片膝をつき、軽く黙祷する。これになんの意味があるかわからないが、一応大仏のお膝元だ。そうしておいて悪いことはない。合唱すると割葉が怒るのは目に見えていたため、心の中で手を合わせ、
そのあと、死体を弄った。
「お……おい! いくら死んでるからってイタズラすんなよ! 恥ずかしくないのか」
「してないよ! 失礼だな! ぼくはちゃんと温かい人が好きなんだ。冷たくされるのは口調だけで十分。ツンデレってやつだよ。わかる? ああ、でも、たまに勘違いしてただの罵倒をツンデレっていうバカがいるけど、あれは全然違う。悪口と毒舌を混同しているようなもんだ。なんだいあれ? ツンデレと言えば、毒舌と言えば許されると思っているのか? そんなものただの戯言だろう? 言い訳にもなっちゃいない。愛がないといけない。受け取る側と発信する側の両方に愛があって初めて罵る言葉が心に染み渡るんだ。片方だけではいけない。両方ないといけない。愛。愛だよ、割葉、キミの言葉には愛が溢れている! キミはまさにツンデレだ!」
「………………」
「そういう冷たい目もいい。冷たい目で愛を感じ取れるっていうのは貴重だよ。お互いが理解してないと、いけない。ツンデレと同じくね。ということは、どういうことかわかるかな? ……あ、ねえ、帰らないで。まだやることが残ってるんだから」
背を向けてスタスタと来た道を戻ろうとする割葉をなんとか引き止め(といっても彼はお金を持っていないので帰るフリに決まっているのだろうが)、また死体をまさぐる。
「……ふむ。財布はなしか」
「あ、なんだ。火事場泥棒しようとしてたのか」
「なんでそこで安心してんの?」
行動理由がわかったからか、もう割葉はなにもいわなかった。ぼくはその後、いくつか死体を探ったが、目当てのものは見つからない。これだけ死体があるのだ。誰か一つくらいは財布があるかと期待したが、この魔法使いは相当がめついようだ。財布どころか、金目のものなにもない。どうやらここで手に入れたものを換金して、そのお金で立て籠もっているらしい。
死体の山の中には相当古いのもあり、ぐずぐずに溶け出してしまっているのもある。流石にそれは嫌悪が勝り、さわれなかった。結局、盗人は大仏の前ということで諦めることにした。
「そろそろ行くか」
「その前に、手見上げをひとつ、『一撃必殺』に持っていこう」
「手土産? 律儀だな」
そんなわけないだろう。手土産というのは、比喩だよ。
ちょうどいい『手土産』を見繕っている間、割葉を待たせるのも悪いので、軽く今回の作戦を話すことにする。作戦といっても、割葉の役目はぼくの補助みたいなもので、実行はぼく。今回、キリングフィールドが建物内なので、割葉お得意の『地割れ』は使えない。使ってもいいのだが、そしたら『一撃必殺』になにも聞けなくなってしまうし、これだけの大仏を落とすには割葉も時間がかかるだろう。
「そんなもんでいいのか?」と、ぼくの作戦を聞いた割葉は言った。「できることはできるだろうが、その間にシギが殺されたりしねえだろうな」
「絶対はないけど、多分生き残れるよ。運が味方すれば」
「運ね。そんなもんより、自分を信じろって話だけどな」
「なら、大丈夫だ。結構、この作戦には自身があるんだ」
手頃なものを見つけ、ようやく大仏に乗り込む準備が整う。思えば、入り口まで来といてずいぶんダラダラしていたものだ。一撃必殺は待ちくたびれているだろうか。それとも、ぼくたちが来たこともまだ知らないだろうか。
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