春の日、ある宴

獅子2の16乗

第1話

 コブシの花びらがひとひら。


 山幸彦やまさちひこがマメに手入れしてくれるおかげね。


 今年は、私もネモフィラを作ったのよ。



「ところで、今年の春の宴はウチがホストでしょ?」

『うん、豊玉姫とよたまひめ。テーマ何にしようか?』


「ビジターは?」

『ギリシャからガイア、末っ子のテューポーンを連れてくるそうだ。崑崙こんろんから西王母サイオウボ、アナトリアからキュベレー、インドからパールヴァティー』


「テューポーンはともかくみんな山の神ね」

『そうなんだ。だから兄貴に頼んで魚を、というのはどうだろう? みんな豊葦原瑞穂国とよあしはらのみずほのくにの魚は知らないだろ』


「うーん……魚もいいけど、ここは私達の得意分野で勝負してみない?」

『と言うと?』

「山の幸を使って、かつてないほど洗練したメニューで唸らせちゃう!」


『豊玉姫の料理上手は知ってるけど、あの一癖も二癖もある連中を唸らせるのは容易じゃないのでは?』

「フッフッフ、去年までの私とは違うのだよ、山幸彦君。豊宇気毘売神とようけびめに祝宴料理を習ったのよ」

『えっ、豊宇気毘売神って天照大御神あまてらすおおみかみの料理番の……さすが豊玉姫。メニューも考えてるんだろ?』

「もちろん! 祝宴料理を応用したの」


『おお、季節にマッチしてるし、なによりメニュー名が“私は美味い”と主張しているようだな』


『よし、俺は材料を集めてくるよ』

「お願いできる?」

『お安い御用さ』

「じゃ、コブシの花、これはテーブルに飾るからその分もお願い。それから野蒜ノビル独活ウドセリ――」


『わかった。それでお酒なんだが、ディオニューソスさんちの葡萄酒でもいいんだけどテューポーンが酔うと暴れるからちょっとな』

「だったら、毎年作ってるコブシの種子のリキュールのうち、オーディーンさんちのスットゥングの蜜酒みつしゅで作ったものがあるでしょ、あれがいいんじゃないかしら」

『おう、あれか』

「飲めば誰でも詩人や学者になるんでしょ。格調高い宴になるかも」

『詩を吟じるテューポーン……ハハ、面白そうだな。それで行こう』



四阿あずまやに何か飾りつけがしたいな』

「んーと……父さんが置いてった魚籠びくを掛け花入れとして使ってみたらどうかしら?」

『え、綿津見わたつみお義父さんの魚籠……であれば、あれにモモの枝を挿して飾るってのはどうだろう』


「魚籠の飴色、桃のピンク、辛夷の白……いいんじゃない。さすが山幸彦!」

『賛成してくれてありがとう。じゃ、それで行こう』


 …………


『そろそろ寝るか』

「うん。材料集め頼んじゃってごめんね」

『なーに、大丈夫さ』

『「おやすみ」』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 野菜は、4月が旬の日本固有種を取り揃えてみました。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る