神戸開港物語

避難港の工事が終わり、一段落したとき、紺は幸吉に「姉にあって欲しいと」と云いました。紺に姉が、一度も紺の口から聞いたことはありませんでした。そういえば幸吉は、紺がどこの生れで、どのように育ってきたのか聞きもしなかったことに気づきました。

紺が連れて来たのは、あの桜姫と逢った桜の木の所でした。そこには茶店も出来ていました。一人の女性が優雅にお茶を飲んでいました。紺は姉ですと紹介しました。

　幸吉はびっくり、あの桜姫ではありませんか。すると紺は狐？

「そうです、私は狐です。暫く人間になって色んな経験をさせて頂きました。特に幸吉さんの、名を捨て実を取る、度量の大きさには感服しました」

「なぁ～に、それは桜姫から聞かされた尼御前の言葉があったからよ」

「幸吉さんいいお仕事をなさいましたね。私たちの役目は終わりました。どうかお幸せに、何と桜の綺麗なこと」その言葉で幸吉は桜を見上げました。目を戻すと二人の姿は既になく、茶碗が３つあるだけでした。

幸吉には男の子はありません。娘おあきも年頃になり、養子を取る話が四方から聞こえてきました。桜姫ほどではありませんが、それなりにお北に似た器量よしでした。幸吉のとこならどこからでもと思われたのですが、おあきが望んだ先に嫁がせたのです。

　おあきを欲しいと挨拶に来た青年を見て幸吉は気を抜かすほどびっくりしました。紺そっくりなのです。「紺の奴今度は娘を貰いに来やがったのか」とさえ思ったのです。紺はおあきをよく可愛がり、おあきは紺になつき「大きくなったら紺のお嫁さんになるの」が幼い頃の口癖でした。

「お前、尻尾はないだろうなぁ～」と、幸吉が云ったかどうか？青年の名前は偶然かどうか北村宗男と云いました。「北村の家は一代とはならずにすまぁ～」が幸吉の返事でした。宗男はその当時出来だしたパン屋を始めており、北村のパンとして代代続いたと云う話です。

資料　　

平清盛

平安時代末期の日本の武将、伊勢平氏の棟梁・平忠盛の嫡男として生まれ、平氏棟梁となる。保元の乱で後白河天皇の信頼を得て、平治の乱で最終的な勝利者となり、武士としては初めて太政大臣に任じられる。日宋貿易によって財政基盤の開拓を行い、宋銭を日本国内で流通させ通貨経済の基礎を築き、日本初の武家政権を打ち立てた（平氏政権）。

勝海舟の海軍操練所

1864～65年（元治元年）幕府が海軍士養成機関、海軍工廠　現在の中央区新港町あたりににあった。5.7ha 塾頭坂本竜馬に見られるように、幕府機関でありながら、討幕派にも門徒が開かれていた。後に兵庫県知事になる陸奥宗光も在籍した。

神戸港開港　1868年（慶應３年）

開港式とは名ばかり税関の他３棟の倉庫３か所の波止場だと居留地の工事が一部行われただけであった。式典から２日後には京都で政変が起き、幕府役人は神戸から逃げ出し無政府状態であった。しかもこの時に神戸事件が起きている。

神戸事件　1869年（慶應４年）

三宮神社前に於いて備前藩兵が隊列を横切ったフランス人水兵を負傷させ銃撃戦に発展した事件。明治政府初の外交事件となった。これに尽力、解決に努力したのが伊藤博文で、功績によって初代兵庫知事（明治２年）になっている、２８歳であった。

伊藤博文(1841~1909)長州藩士、松下村塾で学ぶ.1863年藩命によりイギリスに密航留学、開国論者となる。1885年（明治21年）初代内閣総理大臣。神戸時代肉食好きであった。

陸奥宗光(1844~1897)紀州藩士、海援隊・亀山社中時代宣教師について英語を学ぶ。２代目兵庫県知事（明治２年）第２次伊藤博文内閣で外務大臣、不平等条約の撤廃に成功。余談であるが宗光が駐米公使時代、妻亮子夫人はその美貌と聡明さによって「ワシントン社交界の華」と呼ばれた。

北風正造(1834～１８９５)兵庫の豪商北風家に養子に入る。幕府御用掛を勤めながら、資金面から勤皇の志士を後援した。維新後は友人でもある伊藤博文とともに神戸の発展に貢献した。神戸駅用地（２４万㎡）を無償提供した。明治政府になってからも運用上用達（税関や神戸事件にも奔走、兵庫県会計官、為替会社頭取、兵庫米会社頭取等の要職を勤めるも、藩閥政治に反発、伊藤博文の忠告を聞かず官職を辞退。理想主義的な考え、行動によって、1893年倒産。北風の家門は潰える。

エドワード・チャールズ・キルビー（生年不詳-1883）

1865年来日、横浜で貿易業を営むも上手く行かず、神戸居留地に来て「キルビー商会」を設立。居留地で最初の肉店を開業。造船業に着目し1878年に小野浜造船所を設立、しかし軍艦「大和」の建造に失敗、資金繰りに失敗、ピストル自殺を遂げる。

このキルビー商会で造船業に携わったE・Hハンター（ハンター坂で知られる）が大阪安治川河口で大阪鉄工所（当時船を作るには自社で鉄を作る必要があった）を設立、造船業で後の日立造船所に繋がる成功を納める。

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