こぼればなし
はじまり:星を読む者、掴む者
海辺のクラーケの街。満天の星が空に輝く深夜、やらなあかん大仕事を前に、途方に暮れて
「あらあら、こんな夜更けにどうしたのです?
「
『星読み』ステラガゼルの
随分前に、龍級生物『
その二つ名の由来にあたる、えげつない洞察能力やら、神秘の力やらの色々で、
「これは失礼いたしました、クラゲン。おおかた、力を増し続ける『
「えぇ、えぇ。全くその通りでございます」
説明するまでもなく、よぉわかっとるやんけ。うふふ、やあらへんわ。毎度のことながら
目は全く笑っとらんな。怒気に満ちとるわ。
「そう。クラゲン。何発殴ってほしいか言いなさい?」
「ゼロ。
「伝わることを承知の上で、挑発する方が悪い。殴られたいのと
そう
----
「相変わらず、タフで殴り心地の良い
満足そうな声で、いつもの調子に戻った
「せんよ。するわけあらへんがな。
「そうですか。では、また今度殴ってあげます。まぁ、そんなことはいいでしょう。わたくし、これでもあなたを心配して、わざわざ来てあげたのですよ?」
「
暇潰しに殴りに来ただけ、とかのほうがまだ説得力あんぞ。
「随分と疑り深いですねぇ。本当に、あなたの事が気になったから来てあげたのに……。信じてくださらないなんて、悲しいです、わたくし」
ちょっと目ぇ伏せて、えらいわかりやすう落ち込んだ、みたいに見せよるな。絶対ただの演技やんけ。
……気になった、ねぇ。どうせいつも通り「
「はぁ、まったく。あなたはいつも、
「三点倒立でもせえっちゅーんかい」
「いえ、もちろん頭だけで支えていただいて」
誰がやるか。そもそも、それ感謝のポーズやあらへんやろが。
「まあ、文句ばっかり。……とはいえ、別にそんな格好を見ても、特に面白くもなさそうですし。仕方がないので、無償で占ってさしあげましょうか」
どんな理屈じゃい。要求しときながら、えらい言いようやんけ。
無償は無償で、なんか後が怖いねんけどなぁ。謝礼については、また考えとこ。
「成程、成程。……『遥か異界の彼方より来たるもの、浪漫を求めて大海に至る。仲間の冒険者たちとともに、星を掴む者の腕を抑え、あなたの命を守るでしょう』とのこと。死にたくなければ、その勝ち筋に賭けるのがよろしいかと。それ以外は全部死にます。勝敗に関係なく」
負けはともかく、相討ちの筋もあるんか。ま、どうせなら完全勝利したいわな。
しかし、『星を掴む者』か。でっかいタコのバケモンの分際で、なかなか格好ええ異名やんけ。ちょっと嫉妬してまうな。
「異界の彼方より来たるもの、ねぇ。それって、どんなやつ?」
「そうですねぇ。
なんやそれ、珍妙生物やんけ。一目でわかりそうな特徴やな。細部の解釈がブレやすい、
「ありがとさん。参考にさせてもらいます。謝礼については、また見繕わせてもらうわ。次に会うときまでにな」
「どういたしまして。ですが、謝礼など本当に必要ありませんよ? 感謝くらいはしていただきたいですけれど、あなたの言う通り、わたくしは面白そうだから、と傍観しにきただけなのですから。あなたの生死も、事の顛末も、どうなろうと
まぁ、せやろな。
それでも。
「それでも、
「……そう、ですか。それでは、期待しておりますね。クラゲン」
珍しく、目ぇ細めて柔和に笑うその表情は、元の美人さを最大限に発揮して、全てを魅了するような、魔性の笑顔やった。ドキッとしてまうやんけ。
……普段からそんな風に
目ぇ
台無しやな、
「おい。調子乗んなよイカ野郎コラ」
「なんやねん、褒めたんやないかい。照れ隠し?」
「わかった。そんなに殴られたいんなら、もう百発ね」
今度は二百くらい殴られそうやな。
---
「わたくし、スッキリいたしました。ありがとうございます」
あぁ、そう。そら何よりやな。ボッコボコにぶん殴られた甲斐があるわ。
結局、三百くらい殴られた気がすんで。数もマトモに数えられへんよ、もう。
「
「おうよ。任せとけ」
「ええ。もちろん、わたくしといたしましては、どちらでも。
そう言うと、
それにしても。
「殴られたいんか、か。まぁ……そうなんかもなぁ」
「謝礼の方も吟味せんとな。何がええかなぁ」
なんにせよ、『
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