錯綜する思惑、揺るぎなき目的
「クラゲンさん! この球コロ野郎は信用しないほうがいいぜ! この街で殺人があっただろ!? こいつがその犯人だ! こいつ、俺たちの『目玉』を潰しやがったんだ!」
冒険者団『
名前もさっき改めて聞いたけど、別に名前で呼びたいってわけじゃないんだよね。トレイシーが「別に知りたいわけじゃない」と言った気持ち、今更わかった気がする。
「ええー? 何を証拠にそんなこと言うのさあ」
「気付かれてねえとでも思ってんのか! このタコ!」
暴露されちゃったね。事実無根の中傷ならともかく、多分普通にやってるしなぁ。
これで信用を失っちゃったら、流石に仕事には参加できないかもしれない。まぁ、そうなったらなったで、また別のことを探せばいいんだけどね。
「ほーん。それで?」
「それで、って……いや、出せる証拠はねえんですが、こいつがその犯人なのは間違いねえんすよ!」
「ふーん。だから? ……君、なんか勘違いしとらんか?
まぁ確かに、それはそう。クラゲンさんはクラーケの街の有力者ではあるかもしれないけど、衛兵さんでもなんでもないしね。
「信用できるか、
そうだね。もちろん、等級の問題でもない。
「……後悔するぜ、クラゲンさんよ」
「後悔を恐れて冒険なんぞ出来るかい。今更やな。……これは余計なお節介やけどな。『
クラゲンさんは、トレイシーを尻目に言った。トレイシーが例の事件の犯人だって事実は、言われる前から既に把握してたのかもしれない。
「なぁ、トレイシー。わかっとるやろな? 目の届かんとこでなら好きにすりゃええけど、
「大丈夫、そのくらいは弁えてるよ。だから、今はちゃあんと大人しくしてるだろ?」
「せやろな。ま、取り敢えず『
わたしたちだけ居残りさせられた。親交を深めるって言ってたけど、実態はお説教かもしれないね。あるいは事情聴取かもしれない。
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「……これでよし。これくらいはハンデやらんと、あいつら造作もなく殺されるやろしな。ナズナちゃんは言いたがらんかったけど、トレイシーは話してくれるよな? お前のその殺意の動機を教えてや」
やっぱり気付いてたんだ。トレイシーはそんな素振りは見せてなかったと思うんだけど、いったいどこで判断してるんだろ?
「大したことじゃないんだけどね。ナズナ、話してもいい?」
「いいよ、別に。わたしは思い出したくもなかったから言わなかったってだけだし」
「じゃあ、話そう。この前、ダンジョンに行ったときに、あいつらに絡まれたんだよね。その時に兄さんがいわれもなくぶん殴られたから、お返しに全員ボコボコにしてやったんだ。リーダーは確実にぶっ殺したけど、他のやつが生きてたかは、興味なかったから正確には覚えてないな」
確かに、そんな感じだったね。死んでたのはリーダーだけじゃないかな? わたしもちゃんと確認したわけじゃないけど、多分ね。
「……はぁ? つまり、
「その時は、相手の方が多かったから……」
「関係あるかい。別にナズナちゃんなら、今日のカスどもくらい、全員まとめてかかってきたって余裕で
……いや、流石に難しくない? そんな簡単なことじゃないと思うんだけど。
「それか、力が出せんかった理由でもあったんか? ……もしそこの足手まといを守るためやった、とか言うんなら、素直に縁切る方がええんちゃう?」
「それは嫌」
「あっそ。即答かい。……ま、好きにしたらええわな。なぁ、そこの腰抜け。こんな可愛い
見習いは歯噛みして俯いている。むぅ。言わんとしてることはわかるけど、人それぞれペースってものがあるんだから、できるだけのことをすればいいじゃん。見習いだって、頼りになるところはあるんだから。それを知りもしない人に、馬鹿にされたくない。
「ほんで? その場で報復したなら、別にそれで手打ちでもええんちゃうの? まだ何かあるんやろ? 全部隠さずお兄さんに話してみ?」
「うん。ずっと絡まれてるのも鬱陶しいから、その時に警告しといたんだよね。『また関わったら殺す、それ以降は見かけ次第殺す、何回も目に入るようなら擦り切れるまで殺し続ける』ってね。その後すぐに、あいつらの差し金で『風食み』に絡まれたから、面倒だけど有言実行しなきゃなあ、ってさ。そんだけだよ」
「あぁ……そういうことな。合点がいったわ。そら、あいつらが悪いわな。大した能力もない凡百の分際で、身の丈もわからんまま増長して、喧嘩を売るべきやない相手に喧嘩売ったか。完ッ全に自業自得やな。ご愁傷さん、って感じやわ」
うーん。話は分かってくれる人、なのかなぁ。掛け値なしに味方ってわけじゃないんだろうね。もちろん友達ってわけでもない、まだ請けてすらいない仕事の依頼主だから、当たり前ではあるか。
「事情はわかったけど、
「
「ええ返事や。それが返事だけやないことを祈るわ。ほな、行ってよし」
トレイシーはさっさと行っちゃったね。きっと掃除に向かったんだろうな。それにしても、さっきは無名の冒険者がどうなろうと知ったことじゃない、みたいなことを言ってたはずなんだけど。どっちが真意なんだろ?
一足先に退散するトレイシーを見送ったクラゲンさんは、溜息をついて呟いた。
「……異界の問題児、ねぇ。
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