『俺達のグレートなキャンプ』

海山純平

第1話 『俺達のグレートなキャンプ リンボーダンス』

俺達のグレートなキャンプ

「よーっし!今日も最高のロケーションだな!」

石川は両手を広げ、目の前に広がる湖畔のキャンプ場を見渡した。澄み切った青空の下、木々に囲まれたサイトには、すでに数組のキャンパーたちがテントを設営し始めていた。

「まあまあかな」富山は肩をすくめながら、車から荷物を降ろし始めた。「でも石川、今回は普通にキャンプを楽しもうよ。前回のヨガキャンプは筋肉痛で一週間苦しんだんだから」

「へぇー!ヨガキャンプ?それ面白そう!」千葉が目を輝かせて言った。彼は初めてのキャンプ道具を箱から取り出しながら、嬉しそうに周りを見回していた。

石川は千葉の肩を強く叩いた。「お前、キャンプ初心者なのに勢いだけはあるな!でも安心しろ。今日のキャンプは歴代最高にグレートになる!」

富山は疑わしそうな目で石川を見た。「なに企んでるの、また…」

「企んでるなんて酷いな~」石川は胸に手を当て、傷ついたふりをした。「ただのキャンプじゃつまらないだろ?キャンプの醍醐味は"非日常"を楽しむことだ!だから今回は…」

石川は大きなバッグから長い棒を取り出した。「リンボーダンスキャンプだ!」

「リンボー…ダンス?」千葉と富山が同時に首をかしげた。

「そう!みんなでリンボーダンスをやって盛り上がるんだ!」石川は棒を掲げ、上機嫌で言った。「キャンプファイヤーの周りでリンボーダンス大会!優勝者には特製スモアをプレゼント!」

富山はため息をついた。「なんで普通にキャンプを楽しめないの…」

「だって普通じゃつまらないじゃん!」石川は大声で叫んだ。「生きてるうちに楽しまなきゃ損だぞ!千葉、お前はどう思う?」

千葉は笑顔で頷いた。「面白そう!やったことないけど、一緒にやれば絶対楽しいよね!」

「そうだ!その意気だ!」石川は千葉とハイタッチをした。


テント設営と昼食を終えた三人は、午後の時間を過ごしていた。石川はリンボー用の棒を二本の木の間に設置し、テスト用にくぐってみせた。

「ほら、こんな感じ!簡単だろ?」

富山は複雑な表情で見ていた。「ほかのキャンパーに迷惑かけないでよ…」

「大丈夫だって!」石川は楽観的に言った。「むしろ喜ばれるさ!みんなで楽しめるんだから!」

そのとき、隣のサイトから好奇心旺盛な子どもたちが寄ってきた。

「お兄さん、それ何してるの?」

石川は満面の笑みを浮かべた。「リンボーダンスっていうゲームだよ!この棒の下をくぐるんだ。やってみる?」

子どもたちは目を輝かせながら頷いた。

「よーし!じゃあ特別に参加していいぞ!」石川は棒を高めに設定し、子どもたちが簡単にくぐれるようにした。

子どもたちは歓声を上げながら次々と棒の下をくぐり抜けた。その様子を見た親たちも微笑みながら近づいてきた。

「面白そうですね」一人の父親が言った。「私たちも参加していいですか?」

石川は勝ち誇ったように富山を見た。「ほらな!やっぱり人は楽しいことに惹かれるんだよ!」

富山は半分呆れ、半分感心したような表情を浮かべた。「まあ…みんな楽しそうではあるけど」


夕方になり、キャンプ場では次々と焚き火が灯り始めた。石川たちのサイトではキャンプファイヤーを中心に、なんと二十人ほどのキャンパーが集まっていた。

「みなさん、お集まりいただきありがとうございます!」石川はまるでイベント司会者のように声を張り上げた。「これから『第一回!グレートなキャンプ・リンボーダンス大会』を開催します!」

参加者たちは拍手や歓声で応えた。

千葉は興奮した様子で石川に近づいた。「すごいね!こんなに人が集まるなんて!」

石川は得意げに胸を張った。「キャンプの神髄は"つながり"だからな。知らない人同士でも、一緒に楽しむことで絆が生まれるんだ」

富山は遠くから様子を見ながら、小さく微笑んでいた。「あいつ、やっぱりこういうの得意だよね…」

「それでは大会開始!まずは高さ120センチからスタート!」

音楽が流れ、参加者たちが順番に棒の下をくぐり始めた。最初は簡単な高さだったが、ラウンドが進むにつれて棒は徐々に下がっていった。

大人も子どもも、隣のサイトの外国人観光客も、みんな笑いながら体を曲げてチャレンジしていった。失敗するたびに歓声と笑いが起こり、キャンプ場全体が一つの大きな輪になっていった。

特に盛り上がったのは、大柄な外国人男性が驚異的な柔軟性を見せた時だった。

「Incredible! I didn't know I could bend like this!」(信じられない!こんなに体が曲がるなんて知らなかった!)

そして最終ラウンド、棒の高さはわずか30センチになった。残っていたのは千葉と、隣のサイトの小学生の女の子だけだった。

「千葉、負けるな!」石川は声援を送った。

千葉は真剣な表情で棒の前に立ち、深く腰を落とし、背中を反らせてゆっくりと前進した。見事に通過し、周りから拍手が沸いた。

次は女の子の番だった。彼女は小柄な体を活かして、驚くほど低い姿勢で棒の下をスムーズに通り抜けた。

「これは凄い!最終決戦だ!」石川は棒をさらに5センチ下げた。「勝者には特製ゴールデンスモアを進呈します!」

千葉と女の子は互いに健闘を祈るように手を合わせた。千葉が先に挑戦することになり、彼は集中力を高めるように深呼吸をした。ゆっくりと腰を落とし、背中を限界まで反らせたが、バランスを崩して棒に触れてしまった。

「おーっと!残念!」石川はドラマチックに叫んだ。

女の子の番になり、彼女は全員の視線を集めながら、見事に25センチの高さをくぐり抜けた。会場からは大きな歓声と拍手が起こった。

「優勝者はユカちゃん!おめでとう!」石川は特製のスモア(チョコレートとマシュマロをグラハムクラッカーで挟んだお菓子)を彼女に手渡した。


夜も更け、他のキャンパーたちが自分のサイトに戻った後、石川、千葉、富山の三人は焚き火を囲んで座っていた。

「今日は最高だったな!」石川は満足そうに言った。「これぞグレートなキャンプの真髄だ!」

千葉は疲れた表情ながらも嬉しそうだった。「本当に楽しかった!まさか初めてのキャンプでこんなに盛り上がるとは思わなかった」

富山はマシュマロを焼きながら微笑んだ。「認めるわ。石川の突飛なアイデアが、今回は大正解だったね」

「だろ?」石川は得意げに言った。「キャンプは自然を楽しむだけじゃない。人とのつながりも大切なんだ」

「次回のグレートなキャンプは何をするの?」千葉が興味津々で尋ねた。

石川は不敵な笑みを浮かべた。「それはまだ秘密だ。でも絶対に面白いから楽しみにしててくれ!」

富山はため息をつきながらも笑みを隠せなかった。「また何か突飛なことを考えてるんでしょ…」

「人生は冒険だ!」石川は星空を見上げながら言った。「普通のキャンプより、奇抜でグレートなキャンプの方が絶対に思い出に残るだろ?」

三人は満天の星空の下、焚き火の暖かさに包まれながら、次のグレートなキャンプについて語り合った。夜は更け、キャンプ場は静けさを取り戻していったが、彼らの心の中ではすでに次の冒険が始まっていた。

(終

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『俺達のグレートなキャンプ』 海山純平 @umiyama117

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