異世界ならば全身鎧を脱ぐべし
石見つづり
第1話 モチベーションの維持は大切です
この世界はクソッタレだ。
21世紀の日本からこのクソッタレ異世界に生まれ落ちて幾星霜。俺だ出した結論がこれだ。
俺は異世界ファンタジーに一種の憧れの様なものを抱いていた。
魔法に異種族、幻想的な風景に心踊る冒険譚。さぞ楽しく、美しいものだと。
この世界に転生した当初はそれはもう喜んだ。そんな剣と魔法の王道ファンタジーの様な世界に転生したのだから。憧れの世界へと足を踏み入れたのだから。
だが、だがしかし。
たった一つだけ。絶対的に許せないところがあった。
───装備が全てクソダサ全身鎧というところだ!!!
俺は怒りで我を失いそうだった。
なぜだ!? なぜ王道ファンタジーのような世界でそんなクソダサ全身鎧を着ている!? それも、漏れなく全員がだ!!
騎士はまだ分かる。冒険者もまあ、まだ理解の余地がある。だが、魔法使いや弓兵、果てには盗賊まで、揃いも揃って全身鎧を着ているんだ!!
異世界なら全身鎧を脱げっっ!!
もっとこう……せめてデザインを拘れよ!!!
そう叫ばずにはいられないほどだった。なんなら街中で膝から崩れ落ちた俺に人だかりができていた。
この世界は全身鎧が標準装備なのだ。ジョブや種族など関係なく、全員が全員なんの疑いもなく、当然のように全身鎧を装備する。
この事情を知った時、俺は萎えた。それはもう萎えた。
いっそ、何もかもが全て残念すぎる異世界の方がマシだった。ガッカリ過ぎて逆に笑えそうだからな。
だが、こうも見事にストライクゾーンを掠める様な残念加減だと、期待した分ダメージが大きい。
転生して10年程は片田舎の小さな農村で過ごしてきた。世界がクソダサ全身鎧で埋め尽くされているなど知らない純真無垢で毎日を楽しく暮らす少年だった。
町に来た騎士や冒険者などがクソダサ全身鎧を着ていたのは偶然だろうと、金銭的に良い装備が買えないなどと勝手に思い込んでいた。
蓋を開けてみれば、このザマだ。
町で魔法を知り期待に胸を膨らませ、この世界の英雄譚や図鑑に描かれてあったドラゴンなどの魔物に心を躍らせていた頃が懐かしい。あの頃は純粋にこの世界を異世界ファンタジーを楽しめていた。
そんな期待していた頃からの落差だけあって、俺は心のダメージの余りに寝込むほどだった。
絶不調のまま布団の中で横になる。何日もそうして過ごす。この世界の呪詛を吐きながら寝込む日々。そして、ある日俺は一つの考えに至った。
理想の王道ファンタジーじゃなかった?
装備がクソダサ全身鎧一択だった?
───逆に考えるんだ、俺が理想通りの世界にしてしまえば良いのだと……!
それから俺の行動は早かった。理想を叶える為の研究開発に没頭した。
全身鎧を駆逐……はしないが、デザイン性に富んだ装備を生み出さんと。
肌面積が多くとも、全身鎧に負けない装備をと。
ビキニアーマー姿の女戦士が街中を闊歩する世界を作るのだと……!
■
人里離れた山中。鬱蒼と生い茂る木々に隠れる様に、小屋がポツンと建っていた。
そこからカンコンと金槌の打つ音だけが響き───「おいゴルァ!!」怒声が響き渡った。
男は金槌を置き蹴破られた扉の方を見ると、そこには正に修羅の形相をした少女がいた。
「どうした?」
「どうした? やないねん! こないだダンジョンで手に入れた売却用の素材は!?」
「ここだ」
「な、なんや。まだあったんかい。なら良かった……」
男が指差したのは轟々と燃え盛る炉。その中には真っ赤になったモンスターの素材だったものが……
「売却用の素材で装備作ってんじゃねええええ!!!」
「インスピレーションが湧いてな」
「悪びれろや! プロフェッショナル風な事言っとらんでええねん! それより借金どないするんや……この素材売る前提で資金繰りしとったんやぞ……!!」
「装備を売れば問題ない」
「売れてへんから借金まみれなんやろうが!!」
「ふっ……それはコイツを見てからにしてもらおうか」
そう言って男は部屋の隅にあった装備を手に取り、少女に見せる。
「……なんやこれ」
「ビキニアーマーだ」
「売れるわけないやろこんなカッチカチな下着!!」
「下手な全身鎧より優秀だ。防御力に加えて管理の容易さとあらゆる面で勝ってるぞ」
「肩とか腹とか尻とか色々モロだしやんけ!」
「不思議パワーでそこに攻撃が当たっても防御判定がある」
「そもそもこの格好で外歩いてたら速攻憲兵に連れてかれるやろ!!」
「むっ……全く、この世界はロマンに欠けるな」
「そんなこと言っとらんでせめて売れるもん作らんかいいいい!!!」
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