Kiss×Witch Over Drive
プレリーがバビロンに突入する少し前、
機械の前で何かしらの作業を進めている複数の仮面を被った人間達の中に煌びやかな装飾を纏った祭司と思われる男性と背が低く小太りで趣味の悪い眼帯をした目つきの悪い男性が何やら話し込んでいた。
「トラグエティア様、黒魔女がこちらに向かってきているとの報告が。」
「ふん、奴らしくったか。まぁ良い、我らには飛空艦隊がある。あの防衛網を突破するのは容易くないだろう。それよりザハブ、準備は出来ているか?」
「ええ、それはもう。後はトラグエティア様の一声だけです。」
「そうか、聞こえているだろう白魔女……シエルと言ったか、これから貴様に洗礼をくれてやろう。そうだな……洗礼名はカエルムと言うのはどうかな?」
「ふん、そんなのこっちから狙い下げだわ。それより早くこの機械から放してもらえないかしら?」
「ククク……慌てるな白魔女よ、これから始まるのだよ全ては。諸君!洗礼を開始させよ!」
トラグエディアの号令と共にワルプルギスの構成員がコンソールを操作し始めると機械が作動し、ヘッドギアがシエルにかぶせられる。
「ちょっと!何する気よ!?……きゃあぁぁぁああぁぁあぁぁああぁぁ!?」
ヘッドギアから電流と同時に不快極まる電波が脳内に流し込まれ、シエルは絶叫する。
電波はシエルの脳を浸食していき、意識を闇へと誘い堕落させていく。
「さぁ白魔女よ!我らがワルプルギスの忠実なる尖兵として生まれ変わるのだ!」
高笑いをあげるトラグエディアの下にザハブが息を切らしながら走り寄ってきた。
「ドラクエティア様!黒魔女が艦隊を突破し、バビロン内部に侵入したようです!そのうえ、多数の空中要塞が飛空艦隊との交戦を開始しているもよう!」
「奴らめ……逃げ出した腰抜け共かと思っていたが……、ザハブ!黒魔女がこの教会に近づこうものなら巨大機兵と共に奴を叩き潰せ!」
「仰せの通りに……!」
ザハブは踵を返し、その場を去る。
交戦が始まった影響で僅かに揺れる教会でトラグエティアは一人呟く。
「ようやくマスターピースが手に入ったのだ……!誰一人として邪魔はさせんぞ……!」
一方そのころ、
数え切れぬほどの敵や罠を踏破し、プレリーは遂に最後の障壁をぶち破りバビロンの最上層に辿り着く。
バビロンの最上層は天井が無く草原が広がっており。その光景は要塞だということを忘れさせる程壮麗な光景だった。
そしてその草原の中央には天を突く程の高い塔がそびえ立っていた。
「あの塔が
プレリーは一人毒づくと、アルゴルのアクセルを踏み込み、
走り出して数分、ようやく塔の根本が見えてきた時である。
アルゴルのレーダーから危険を知らせるアラームが鳴り響いたと同時にプレリーの周囲にミサイルの雨が降り注ぐ。
プレリーは降り注ぐ弾幕の雨を搔い潜り、背後から迫る追尾ミサイルを迎撃しつつひた走る。
「なんなのよこの火力!?自分たちの攻撃でこの要塞を墜とすつもり!?」
絶え間なく飛来する過剰なほどの弾幕に毒づくプレリーは速度を落とさず
しかしそんなプレリーの行く手を遮る様に無数のロボット兵達が隊列を組み、何重もの障壁として立ちふさがる。
「本当に……!面倒くさいわね!!次から次へと!!」
プレリーはアルゴルの前方に円錐状のバリアを展開し、速度を落とさずにロボット兵の群れへと突っ込んでいく。
殺到するロボット兵を蹴散らしながら
「外にいたロボット達はこの中に入ってこれないみたいね……。」
追手がいない事を確認したプレリーは一息ついてこれから何するべきかを考える。
────とりあえず
スマグラドスから聞き出せたのはこの塔にシエルがいることだけ……殴る前にもうちょっと聞いとけば良かったと内省しながらプレリーはとりあえず上階へ向かうことにした。
上階へと向かう術を探しにプレリーがアルゴルのアクセルを踏み込んだ瞬間である。
突如として眩い光が階層全体を包み込み、謎の声が響き割る。
「ブッハハハハハ!壁をぶち破って侵入とは育ちが知れるなぁ黒魔女!だがしかしこのワルプルギス最高幹部、ザハブがいる限りここから先は通させんぞ!」
そう叫ぶ小太りの男は、自分の身の丈以上のアーマーを身に纏い、真っ白な扉の前に仁王立ちをしていた。
「……探す手間が省けたわ。そこから上に行けるのよね!!」
プレリーはアルゴルのアクセルを踏み込み男に向かって加速していく。
「真っ直ぐに向かってくるとは血迷ったか黒魔女!この火力で消し炭にしてくれるわ!!」
ザハブのアーマーに備え付けられた銃火器から放たれた弾幕をプレリーは避け続け、目と鼻の間にまで迫る。
プレリーの接近を許したザハブは迎撃しようと拳を振り上げるが、プレリーはその拳が振り下ろされるより先にアーマーを纏い、ザハブの顔面に痛烈な一撃を与える。
「ホグワーッ!?」
顔面に強烈な一撃を貰ったザハブは数回の回転の後、地面をバウンドしながら壁に叩きつけられる。
「な、なんなんだそのパワーは!?本当に
「そんなの知らないわよ、それよりその扉、エレベーターよね?シエルがどこにいるか教えてくれる?」
「だ、誰が教えるものゴファーーッ!?」
「次は2発いくわよ?」
「ゴフッ……、白魔女とトラグエディア様はこの塔の最上階……、儀式の間にいる……。これ以上話すことはない!さっさと行け……!」
両頬をパンパンに腫らしながら悪態をつくザハブを横目にエレベーターに乗り込んだプレリーは儀式の間を目指す。
エレベーターに暫く揺らされていると、目的の階に着いた事を知らせるベルがなる。
扉が開き、プレリーを出迎えるたのは巨大な祭壇のような機械と階層中に張り巡らされたパイプとコード。
その巨大な機械の下に佇む司祭のような格好をした男を目視したプレリーは即座に飛びかかり最大出力の光の刃で切りかかる。
しかしその急襲はバリアによって阻まれた。
臨戦態勢を取るプレリーの前でドラグエディアは顔色を変えることなく語りだす。
「ほう、とんだご挨拶だな黒魔女。しかし一足遅かったようだな。」
「何をいって……っ!」
その瞬間、上空から漆黒の雷を纏った斬撃がプレリーとトラグエディアを引き離すように放たれた。
漆黒の斬撃の後、プレリーに立ちふさがる様に一つの影が舞い降りる。
目元を覆うヘッドギアとフェイスベール、黒のドレスの上には拘束具に似たとげとげしい漆黒の鎧、そして黒く染まった機械の羽根。
「あら、随分と思い切ったイメチェンしたじゃない、シエル!」
プレリーの言葉にシエルは微塵も反応を示さない。
そればかりか、鋏のような両手剣を構え、戦闘態勢をとる。
「……そっちがその気なら、やってやろうじゃないの!」
プレリーは啖呵をきると、カーボンブレードを構える。
「丁度良い、性能テストと行こうか。やれ白魔女よ、黒魔女を打ち倒すのだ!」
ドラグエディアの命令に反応し、ヘッドギアが怪しく紫の光を放ちプレリーに斬りかかる。
シエルの斬撃は重く、刀がぶつかるたびに火花を散らす。
「この斬撃の重さと太刀筋……、アンタシエルに何をしたのよ!」
「その鎧とこのバベルの棺によって力が引き出されているのだ、まぁ限界を超えた力だから反動は凄まじいがね?そういう訳だ、さっさと倒されてくれないかね?」
「ほんっとうに趣味が悪いわね……!」
プレリーは一度、距離を取りシエルの装備を観察する。
シエルを操っているのは……多分、アレね。
呼吸を整えたプレリーは瞬時に踏み込み、ヘッドギア目掛けて刀を振り下ろすが、その斬撃は防がれてしまう。
「本当に厄介ね、その身体強化……!」
距離を取り、吐き捨てる様に呟いたプレリーの側腹部には薄っすらと血がにじむ。
側腹部の痛みを堪え、プレリーは再びシエルとの剣戟を交わし始める。
「シエル、聞こえてるなら返事ぐらいしなさいよ!」
刃と刃のぶつかる音が響き合うなかプレリーはシエルに呼びかけ続ける。
自らが傷つくことも厭わずに、何度も何度も叫び続けた。
しかしシエルの攻撃の手は緩まずに、プレリーは徐々に追い詰められていく。
刀を弾かれ、全身を切り刻まれた満身創痍のプレリーにシエルの刃が迫る。
しかし、その刃はプレリーを切り裂くことはなく、紙一重のところで止まっていた。
「プ……レリー……離……れて……。」
「シエル!?」
プレリーが手を伸ばした瞬間、ヘッドギアから電流が流れ出し、プレリーが呻き声をあげる。
「ぐうぅぅ・・!!うわあぁぁぁぁぁ!!」
突如として頭を抱えて苦しみだしたシエルは、無茶苦茶に斬撃を繰り出し始める。
「……っ!シエルっ!」
無造作に繰り出される斬撃の波を搔い潜り、プレリーはシエルへと手を伸ばす。
多少の被弾を顧みずプレリーがシエルの手を取ろうとしたその時である。
「が、がぁぁぁぁぁぁぁ!!」
シエルから凄まじい衝撃波が放たれ、プレリーは弾き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされバランスを崩したプレリーは襲い来る衝撃波と斬撃を避けるために何とか体勢を立て直すも、全ては避けきれず、アーマーが破壊されていく。
「はぁっ……!はぁっ……!はぁっ……!」
スーツはズタズタに切り裂かれ、アーマーの殆どが砕かれ消失してもなお、プレリーはシエルの前に立ちふさがる。
暴走が収まったシエルはプレリーを見下ろし、無慈悲にも衝撃波を放つ。
衝撃波に飲み込まれ、墜落していくプレリーの脳内にシエルとの想い出が蘇る。
シエルとの出会い、シエルとの日々、シエルと共に戦った記憶。
そして、シエルの笑顔。
プレリーは見ていた、衝撃波が放たれる瞬間にシエルの頬に涙が伝うのを。
鼓動が高まる。
諦めて、なるものか。
動け、動け、私の身体。
届け、伸びろ、掴め!
もう二度と離さないって決めたじゃないの!
「諦めて……!たまるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
魂の咆哮。
その咆哮に応えるかのように残ったアーマーから蒼い炎が吹き出しプレリーの身体を包み込む。
身体が、心が、熱い。
魂が、己が全てが燃え上がる。
蒼い炎がライダースーツを燕尾服を模したスーツに変化させ、身体に決意が宿る。
プレリーは決意を握りしめ、炎を振り払い、叫ぶ。
「待ってなさいシエル!今、目を覚まさせてあげる!……来て!アルゴル!!」
叫びに応えるかのようにプレリーの下に砕け散ったアーマーが集い巨大なガントレットと全身のブースターに変化して蒼い炎と唸りを上げる。
「エネルギーの増大を確認。要注意対象に変更、対処します。」
暴走が収まったシエルは剣を構え、プレリーに接近する。
シエルは再び切り裂こうと二振りの剣を振り下ろしたが、ガントレットに防がれる。
そのままプレリーは片方の剣を破壊し、拳を繰り出した。
剣を砕かれたシエルは咄嗟にバリアを展開しプレリーの一撃を防ぐ。
攻撃を弾かれ回転するプレリーはその勢いのままガントレットのブースターの出力をあげ、遠心力を加えた一撃をバリアに見舞う。
凄まじい轟音と閃光。
身体が引きちぎられそうになる程の斥力の中プレリーは咆哮する。
「くうぅうっ……!ぅうるぅああああああああ!!」
咆哮と共に全身のブースターから蒼い炎が吹きあがり、炎を纏う流星となったプレリーは遂にバリアを打ち破った。
渾身の力を込めた炎の拳は漆黒の鎧とヘッドギアを砕き、シエルを縛っていた呪縛を焼き払う。
呪縛から解き放たれたシエルの眼に光が戻り、目頭に涙が溜まり、こぼれ落ちていく。
「プレリー!こんなに……こんなに傷ついて……!ごめん……ごめんなさい!」
シエルはボロボロになったプレリーを抱きしめ泣きじゃくる。
子供の様に胸元で涙を流すシエルの頭を撫でながらプレリーは優しく語りかける。
「いいのよ、シエル。貴方が戻って来てくれた事が一番嬉しいんだから。」
プレリーはそう言うとシエルの頬に手を寄せて唇を重ねる。
「プ、プレリー!?」
突然キスをされ慌てふためくシエルにプレリーは告げる。
「言ったでしょ、世界で一番愛してるって。」
「────そんなの、こっちもよプレリー!」
お互いの愛を確認する様に抱きしめ合う二人を祝福する様に、誓約を告げる鐘の音が鳴り響く。
祝福の鐘の音と聖なる光がシエルの漆黒のドレスを白く染め上げ、温かな力が全身を駆け巡る。
砕かれた漆黒の鎧が二振りの白銀の剣になり、ヘッドギアは煌びやかなティアラへと変化する。
背中には大空へと羽ばたく純白の翼を広げ、光の羽が舞う。
「綺麗じゃない、シエル。」
「ありがとね、プレリー。」
その一部始終を見ていたドラグエディアは信じられないとばかりに声を荒げる。
「バ、馬鹿な……!?洗脳が……フィディスの鎧が……!?WITCH如きに砕けるはずが……!黒魔女、貴様、何をしたぁ!!」
「そうねぇ、自分で言うのもなんか恥ずかしいけど、コレも愛の力って奴なんじゃない?」
「ハ、ハハハ、ハーハハハハハ!!愛!?そんな不確かなモノで洗脳をうち破ったとでも!?」
半狂乱に陥ったかのように、ドラグエディアは笑いながらバベルの棺に近づいていく。
「だが、だが、だが!!白魔女を取り返した程度でいい気になるなよ黒魔女!言ったよなぁ、バベルの棺は適応者の身体能力を極限まで引き出すと!」
ドラグエディアは叫びながら杖で数回ほど床を叩く。
するとバベルの棺が開き、金色の鎧が飛び出した。
飛び出した金色の鎧を装着したドラグエディアは高らかに笑いをあげる。
「ハーハッハッハッハッハッハッ!見よ!この金色の輝きを!この偉大なる姿を!崇高なる我の前にひれ伏すが良い!この金色の輝きで貴様らの愛を叩き壊してくれるわ!……げぶぇあーっ!?」
ドラグエディアの顔面に拳が叩き込まれ、バベルの棺に叩きつけられる。
「説明が長ったらしいのよ!」
右ストレートを決めながらプレリーは吐き捨てた。
「ぐ……ぐぅ……、まだだ、まだ終わらんぞ……!まだバベルの棺は動く!黒魔女!お前だけは、お前だけは絶対にぃ!!」
黄金の鎧を砕かれ、満身創痍の身で呻きながらも、杖に備え付けられたコンソールを操作しようとしたその時である。
突如としてバベルの棺が開き、中から伸びる無数のコードがドラグエディアを絡めとる。
「な、何をする!?や、やめろ!やめろぉぉぉぉぉぉ!!」
抵抗も虚しく、ドラグエディアはそのままバベルの棺に引きずり込まれていく。
「私が、私がこんな、こんなところで終わるわけが……!!ふざけるな……ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ドラグエディアは完全に取り込まれ、叫び声を遮る様にバベルの棺が閉まる。
「よくわからないけど……終わった……のよね?」
目の前の光景に呆気にとられていた二人はハッと我にかえる。
ドラグエディアはバベルの棺に取り込まれ、周囲には敵の気配は無い。
全てが終わったと二人が安堵した束の間、バベルの棺は再び動き出した。
『敵対者を補足、戦力の増強を開始します。敵対者を補足、戦力の増強を開始します。敵対者を補足、戦力の増強を開始します。敵対者を補足、戦力の増強を開始します。敵対者を補足、戦力の増強を開始します。ててててききききたいしゃをほそそそそく……。』
ひとしきり音声が流れた後、一瞬の沈黙の後にバベルの棺は縦横無尽にコードを伸ばし始めた。
バベルの棺は目に付いた周囲の機材を強引に引き抜き、自らのパーツとしていく。
機材を取り込む度に太く、長く、強靭になっていく触手を塔全域に伸ばし、全てを取りんでいく。
「ねぇ。あれってもしかして……、暴走……してる?」
「とりあえず逃げるわよ、シエル!」
「わ、わかったわプレリー!」
塔の崩壊から逃れるため、落下するガレキを避けながら何とか脱出を果たした二人は、ひとまず
「あの司祭め……厄介なモノを残してくれたわね……。」
プレリーは崩れていく塔を見ながら吐き捨てる様に呟いた。
二人の目線の先にあったのは轟音を立てながら崩壊していく
コードやパイプ類が筋線維や血管の様に絡まり、塔の外壁が外皮の様に連なっていく。
塔の全てを食い尽くし、白き悪魔が今ここに降臨した。
白き悪魔は、二人の魔女を見据えると咆哮する。
はるか先の空域にまで届く程の絶叫の後、悪魔はその口を裂けんばかりに大きく開く。
開かれた口内から、砲身が現れ、砲口に光が収束していく。
「……っ下がってて!プレリー!」
何かを察したシエルはプレリーの前に立ち、全力でバリアフィールドを展開する。
次の瞬間、膨大なエネルギーを帯びた光の奔流が砲身から放たれ、シエルの展開したバリアと衝突した。
凄まじい閃光が周囲を照らし、反射され飛び散るビームの雨が空を焼く。
光の嵐が過ぎ去り、バリアを解除したシエルは大きく肩を揺らす。
「シエル、大丈夫!?」
「ええ、平気よ、プレリー……!それよりも二射目が来る前に、決着を付けないと……!」
「……そうね、さっさとケリをつけるわよ!」
プレリーは怪物を見据え、刃を向ける。
その決意に応えるように、プレリーの刀とシエルの両手剣が輝きだした。
二人は顔を見合わせ、頷く。
光り輝くお互いの武器を導かれるように交差させる。
交差された刃が更に強い輝きを放ち、光が三本の刃を包み込む。
二人はその光の中に手をいれ、光輝く剣を引き抜いた。
「プレリー……!これって……!?」
「なんだかわからないけど……行ける気がするわ!」
二人はその剣を握りしめ、悪魔に向かって飛翔する。
光の軌跡を描きながら向かってくる二人の魔女に悪魔は二射目を放とうと砲身に光を溜め始めた。
「やらせないわ!!行くわよシエル!」
「ええ、ここで決着をつけるわ!」
二人が剣を振りかざすと天を突き抜ける程に巨大な光の刃が形成され、周囲を照らす。
「これで……終わりよ!!」
振り下ろされた光の刃を迎撃しようと、悪魔は光の奔流を放つ。
二つの光はぶつかり合い、激しい閃光を散らす。
お互いの力は拮抗しているように見えるが、徐々に二人の魔女が押し始める。
「……いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!」
二人の魔女の叫びと共に、光の刃は光の奔流を切り裂きながら突き進み、白い悪魔を両断した。
両断された白い悪魔は咆哮をあげながら、バビロンごと爆発していく。
「終わった……のね。」
夕焼けに照らされながらプレリーはシエルに語りかける。
しかしシエルから反応は無く、嫌な予感に振り向いたプレリーはシエルを探す。
「シエル!!」
プレリーは気を失い落下するシエルを追い、猛スピードで下降していく。
全身のブースターが悲鳴を上げるほど加速で、なんとかシエルに追いついたプレリーだったが、落下する二人分の重量を停め、再び飛行できる程のパワーは既に残っていない。
このままじゃ……!
万策が尽き、諦めかけたプレリーの耳に聞きなじんだエンジン音が届く。
プレリーが見上げると見慣れた影がそこにあった。
エンジンの唸りで揺れる黒い車体に、白銀のマフラー。
黒魔女の箒として、あらゆる局面を切り抜けてきた、歴戦の
「アルゴル!!」
プレリーはシエルを抱えながらアルゴルにまたがり、ハンドルを握る。
しかしプレリーはふと気づいてしまった。
「……アルゴル、アンタ飛べないじゃない!!」
しかしそんなプレリーに見せつけるように、アルゴルは滑空翼を展開した。
「え?」
あまりの出来事に言葉を失うプレリーをよそに、アルゴルは姿勢制御を行い、地面に軟着陸した。
「えっと……、そうだシエル!大丈夫!?」
「ん、んん……プレリー……ここは……地上?」
目を覚ましたシエルを見て、プレリーは胸をなでおろす。
「良かったぁ……。」
二人はお互いの無事を確認し、肩を寄せ合い座り込む。
暫しの休憩を挟んだ後に、プレリーはグリフィスとの通信を試みる。
その後二人は何とか通信が繋がったグリフィスと連絡を取り、合流することになった。
暫くして降り立ったグリフィスからの飛行艇に乗り込み、二人はグリフィスに帰還する。
指令室に入るとノクトが二人を出迎える。
「プレリーさん!この度は本当にありがとうございました。それで新しいアルゴルの調子は?」
「ええ、バッチリよ、この子はノクトさんが作ったの?」
「作ったと言いますか……、元々アルゴルに近いタイプのWITCHが倉庫にあったんです。それをアルゴルのデータを元に改造したのがその機体なんです。」
ノクトはもしもの時の為にアルゴルのデータを元に、予備機体を造っていたこと、その機体が突然起動し、飛び出して行った事をプレリーに説明した。
「なるほどね……、それでこの子は貰っちゃっていいのかしら?」
「勿論です!貴方は恩人ですので……それだけでは足りないくらいです。」
そんな二人のやり取りを少し離れた所から見ていたシエルにプレリーは声をかける。
「シエル、言いたい事があるんじゃないの?」
急に呼びかけられたシエルは、戸惑いながらもノクトの前に立ち口を開く。
「えっと……、ただいま、お……父さん。」
「……ええ、お帰りなさい、シエル。」
こうして、長かったワルプルギスとの戦いは幕を閉じた。
戦いでの傷を癒すために二人は暫くグリフィスで休養をすることにした。
休養中、シエルの両親との挨拶を済まし、正式に婚約することを伝える。
急の申し出に最初は驚いた顔をしていた両親だったが、二人の婚約を受け入れてくれた。
二人は外れにある教会で小さな式を挙げた後、シエルの実家にお世話になることにした。
暫くしてWITCHの再調整や、スーツ新調が終わり、グリフィスから立ち去る時が来た。
「行くんですね。」
「いつまでもお世話になるわけにも行かないからね。……それに私達は
そう言うと二人はWITCHのエンジンを点し、グリフィスから飛び立った。
グリフィスを立ち去る二人を見送るグリフィスの住民の声を背に、二人は地上へと降りていった。
◆
二人の魔女が荒野を駆ける。
一人は大型のバイクを駆り、一人は小型の鳥型飛行機械で空をゆく。
白と黒、空と大地、しかし二人は共に同じ道を行く。
二人の魔女は笑いながら、今日も荒廃した世界を駆ける。
明日も明後日もいつまでも、二人の世界は続いていく。
「今日はどんな依頼なのかしら、プレリー?」
「ワルプルギスの残党がまた集まってなんかやらかそうとしてるみたいね……。本当に飽きないんだから……、さっさと片付けるわよ、シエル!」
「わかったわ、プレリー!」
Kiss×Witch Over Drive 葵杜蒼石 @AomoriLABO
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