海神 リヴァイアサン
巨大なアーマーを纏った男を退けて、中心部にあるメインブリッジを目指してプレリー達はひた走る。
道中、襲い掛かる荒くれ者の残党を蹴散らしメインブリッジへと辿り着いた二人は内部へと突入した。
洞窟かと見間違うほど広い通路を駆け抜けて、二人は操舵室に突入する。
そこには縛られた軍服のような物を着た女性と複数の荒くれ者、そして荒くれ者のリーダーと思わしき男がそこにいた。
「ちっ!もう来やがったか、しょうがねぇ!野郎ども行くぞ!数はこっちが有利だ────あ?」
リーダーが掛け声をあげる前に荒くれ者達は一瞬で蹴散らされ、地面に倒れ伏す。
「数がなんですって?」
「へ、へへへ、最初から雑魚共なんて当てにしちゃいねぇよ!!俺ぁデビルフィッシュ海賊団、船長のヒフラーだ!何が魔女だ……ただの女じゃねぇか……!俺の敵じゃ────。」
右ストレート一閃。
プレリーの拳はヒフラーの顔面を捉え、ふっとばす。
「ふん、話が長いのよ。」
気絶しているヒフラーと荒くれ者達を縛り上げ、女性の拘束を解く。
「海賊なんてアナタ達の敵じゃないわよね?一体何があったの?メディシア。」
「ふぅ……、助かったよ!コイツら
自由になった手足を回しながらメディシアは顛末を話し始めた。
「事の始まりはそうさね、アイツが現れた時からかね……。」
話は少し前に遡る。
メディシアは貿易船の船員からとある噂を耳にしていた。
「巨大なクジラの化物?それは見間違えとかじゃないのかい?」
「いえ、それがサルベージ船の連中が口を揃えて見たって話なんです。」
それはとある海域でサルベージ作業をしていると突如海中から巨大な影が現れては消えるというものだった。クジラの鳴き声の様な奇怪な音を発しながら現れるそれはその海域を守っているかのような行動をとるのだという。
「ふぅん、こっちも気を付けるとするかね……。」
その後も同じような話を聞いたメディシアは目撃情報を整理してクジラが出現した海域と出現しそうな海域を洗い出し、その海域はなるべく避けて航行するように指示を出す。
こうして噂話を聞いてから数日がたったある日。
突如、アルゴノートに危険を知らせサイレンが鳴り響く。
「なにがあったんだい!?」
「そ、それが未確認の巨大な物体が本艦に接近してきており、こ、このままだと衝突します!!」
「ちぃっ、出現しそうな海域は避けてきたんだけどね……!各船に通達!分離して散開!ヤツを避けるよ!」
「イエス、マム!」
『第一種警戒態勢。第一種警戒態勢。近くのシェルターに避難し、衝撃に備えてください。繰り返します。近くのシェルターに避難し────。』
『アルゴノート各船に通告!散開し、前方から迫る影を回避せよ!分離作業、急げ!』
「どうにかなりそうか、メディシア。」
「う~ん、あれが唯のクジラならギリギリ避けれるとは思うんだけど……。なんか嫌な予感がするんだよねぇ。」
怪訝な顔をしているメディシアに声を掛けたのはアルゴノートの
「女の勘か?」
「いんや、船乗りの勘。」
二人の会話を切り裂く様に船員の報告が響く。
「未確認物体、さらに加速!このままでは回避が間に合いません!」
「やはりか、では駆逐艦ヘラクレスを分離させろ!俺が出る!」
「イアソン!?奴がなんなのか分かってないんだよ!?」
「ここで全滅するよりマシだ。それに、俺はこんな所で死にはしねぇよ。」
「ハァ……、イアソン!」
メディシアはイアソンの襟を掴み引き寄せ、そのまま唇を重ねた。
「はっ!女神のキスまで貰っちまったら、余計に死ねねぇな!」
イアソンはそのまま数人の部下を引き連れて操舵室を出ていく。
「本当にバカなんだから……。無事に帰ってきなさいよ。」
メディシアはそんな漢の背中を見送りつつ、船員に檄を飛ばす。
「船長が身体張ってんだ!アンタらも気張りな!」
「イエス、マム!」
◆
「最大船速!目標はあのクソッタレだ!」
「イエッサー!」
駆逐艦ヘラクレスは白波をあげながら未確認物体へと迫っていく。
「艦長!目標まで1000を切りました!」
「よし!対潜水魚雷発射用意!」
「魚雷発射管用意!」
「続けて連装砲準備!!」
「全砲門装填急げ!」
「目標まで700!」
「オールレディ!セット」
「発射ぁ!」
ヘラクレスから魚雷が発射され、未確認物体に向かってまっすぐ進んでいく。
発射の数十秒後、鈍い爆発音と共に水柱が上がる。
「目標命中!!……目標の速度変わりません!」
「クソッタレが!全砲門を集中しろ!魚雷も喰らわしてやれ!」
イアソンの号令と共にヘラクレスの全火力が未確認物体に集中する。
おびただしい数の砲弾と数回の魚雷による攻撃によってソレは失速していき進行方向を変え始めた。
艦内は安堵の空気に包まれる。だがしかし
「未確認物体から何かが発射されました!!これは……魚雷!?」
「ちぃ!やっぱりかよ!最大船速!」
「無理です!直撃します!」
「総員衝撃に備え!」
次の瞬間、ヘラクレスの右舷に魚雷が突き刺さり爆発した。
「右舷に被弾!下部に浸水!航行不能!」
「総員退避!アルゴノートに救助要請!」
頭から血を流しながら激を飛ばすイアソンは去っていく敵影を見つめ叫ぶ。
「今度会ったときは覚えていやがれ!!」
イアソンの怒号は敵影へと届くことはなく大海原に溶けていくのであった。
◆
「とまぁその時の傷が要因で
メディシアは忌々しそうにぼやきながら足元で伸びている海賊を足で小突く。
「それは災難だったわね……、でもコイツらの装備、そこいらの海賊にしては装備が豪勢じゃなかった?」
「そこなんだよねぇ……、今までこんなことはなかったのに……。」
「そういえばメディシアさん、依頼って海賊の退治だったんですの?」
後ろで2人の話を聞いていたシエルがメディシアに問う。
「いんや、あの海賊共は別件さ。それで依頼のことなんだが、ちょっと付いて来てくれるかい?話したい事があるんだ。」
二人は操舵室を出ていくメディシアの後を追う。
「とりあえず何から話そうかね……、さっきも言った通り今回の襲撃と依頼は別件ではあるんだけど、無関係とは言えなさそうでね……。」
「どういうこと?」
「さっきも言った通りあの
メディシアの発言に話を聞いていた二人は目を丸くする。
「い、今、アナタ
「まぁ見つかったのはつい最近なんだけどね?この
「それで?それが依頼と何の関係が?」
「まぁそれは見た方が早いさね。」
メディシアはそう言うと閉じた扉の前で立ち止まり、胸元からカードキーを取り出し扉のロックを解除する。
「この先に
少し埃が溜まっている薄暗い通路を抜けた先のエレベーターでさらに下に降りる。
特徴的な駆動音を鳴らしながらエレベーターは降下していき、目的の階層に止まり扉が開かれる。
扉が開いたその先にあったのは巨大な空母にしてはこじんまりとした格納庫で、そこには2台のジェットスキーのような物が置かれていた。
「アレが……
「そう、水陸両用の
メディシアから飛び出したまさかの依頼に吃驚し、その場で固まる2人。
しかしプレリーはすぐに笑みを浮かべ、
「いいわ、受けてあげるわ、その依頼。アナタのことなんだから何かを考えもあるんでしょう?」
「勿論!とっておきのモノがね。」
メディシアは不敵に笑って見せるのだった。
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