海上都市アルゴノート

 澄み切った風が吹く、どこまでも続く青い海に白波を立てながら二人の魔女が行く。

 2人の目的地は船団都市、アルゴノート。

 旧時代の遺物である超巨大母艦を中心に、大小様々な船が集まった船団がアルゴノートであり、数万人を超える人々がそこで暮らしている海上都市である。

 その都市の代表からの依頼を受け、二人はアルゴノートへと向かっていた。

「それにしても、依頼内容は会ってから話すって、一体なんなのかしらね。」

「さぁ……、意外と大したことないかもしれないわよ?」

「そうだといいけどね……、アルゴノートが見えてきたわよ。」

 プレリーがそう言って指を指す方向に巨大な船影が見えてきた。

 遠近感が狂ってしまいそうなほど大きな船影へとプレリー達は手持ちの通信機で通信を試みる。

「あー、こちらプレリー、プレリー・ソルノワール、アルゴノートへと合流を所望する。どうぞ」

 しかし、アルゴノートからの反応はない。

「シエル、アルゴノートの様子はどう?」

「うーん……これといって変わった様子はないみたいだけど……、ん?あれは……煙?」

 シエルがアルゴノートの中心部から煙が上がっていることを報告するとプレリーは

「なんか嫌な予感がするわね……シエル!アレ、やれる!?」

「整備もしてきたし、大丈夫よ!」

 シエルがそう言ってレバーを操作すると、アルタイルの下部から鳥類の脚部を模したアームが展開され、アルゴルを掴む。

「固定完了、バランサーアシスト最大!飛ぶわよプレリー!」

 掛け声と共にアルタイルはブースターによって加速し船団の上空へと舞い上がる。

 アルゴノート各部から火の手が上がっており、銃声や爆発音が絶え間なく響く。

「どうやら、中心部が襲撃されているようね……、行くわよ、シエル!」

「わかったわプレリー!」

 中心部に向かおうとする2人を対空機銃による攻撃が行く手を阻む。

「ちょっと!火器系統も掌握されてるの!?」

「これはかなり厄介な事になってるみたいね……。」

 二人は機銃による攻撃を避けるために、都市周縁を構成する船の一隻に着陸する。

「あら、お出迎えみたいよ、シエル。」

「お出迎えというにはちょっと人数が多すぎるわよ……!」

 着陸した二人を大勢の荒くれ者が取り囲む。

「ギャハハハハ!てめぇらが魔女か!どんな化物かと思ったら女かよ!拍子抜けだな!」

「だがよぉ、見てみろよ!素材はいいぜぇ!想像しただけでたまらねぇぜ!」

 荒くれ者たちは下卑た視線を2人に向けながらにじりよる。

「……プレリー、ちょっとぐらい壊しても許してもらえるかしら?」

「文句の一つぐらいは言われるかもね。」

 プレリーは銃を、シエルは鞭を構える。

「へっ!そんなオモチャでこの人数どうにか出来ると思ってんのかぁ!?かかれーー!!」

 飛びかかる男達を避けるように二手に別れるプレリーとシエル。

「へっ!二手に別れた所で何ができる!袋のネズミよぉ!」

「あら、窮鼠猫を嚙むということわざをご存知で?」

 その言葉通りに二人は荒くれ者たちを蹴散らしていく。

 シエルは鞭で荒くれ者を絡めとり、周りの男共を吹き飛ばす。プレリーは向かってくる男を舞うような動きで翻弄し、強烈な蹴りをお見舞いする。

「くっ!コイツラつえーぞ!?お前らここは一旦退くぞ!」

 仲間たちを蹴散らされた男達は撤退を試みるが

「逃がすわけないでしょう?」

 上空へと飛び立ったシエルが天空から光の矢を乱射して、男達を無力化していく。

 荒くれ者の殆どが無力化され、残っていた男達も散り散りに逃げていった。

「ふん、言うほどでもなかったわね。さて中央に向かうわよ!」

 荒くれを蹴散らした二人は中心部へと急ぐ。

 中心部に向かう道中に襲い来る海賊共を撃退しながらも進んでいき、中心部が目と鼻の先のまで迫った2人に巨大な影が立ちふさがる。

「ガハハハッ!よく来たな!だがここから先は通さん!このガルガンディアに叩き潰されるが良い!」

 プレリーの2.5倍はあるアーマーを身にまとった男は、巨腕を2人に向かって振り下ろす。

 甲板を打ち砕く強烈な一撃を避けた2人は銃撃と光の矢による反撃に転じるが

「ちょっと!装甲が厚すぎるでしょ!?」

「アルタイルアローも弾かれるなんて……!!」

 まったく攻撃が通じない。

「フルパワーの射撃ならあの装甲ぐらい貫けるけど……そんな暇なんて……!」

「おやぁ?なにかしたかね?何も無いならこっちから行くぞ!!」

 男は甲板を砕くほどの力で暴れまわり、逃げ回る2人を追い詰めていく。

「ガハハハッ!逃げることしかできないだろう!だがもう終わりだ!」

 男は砕いた甲板の一部をシエルに向かって投げ付ける。

 突如投げつけられた巨大な障害物をシエルは避けきれず、地面へと墜落してしまう。

「シエル!大丈夫!?」

「プレリー……私は大丈夫、それよりも銃を構えて。私に考えがあるの。」

「シエル、何を……。」

「話は終わったか?2人纏めて叩き潰してやろう!」

 そう言って向かってくる男をシエルは冷静に見つめ、小声でカウントを開始する。

 そうして男が目の鼻の先まで迫ってきた時にシエルが声を上げた。

「プレリー、アイツの足元を撃って!」

 プレリーは正確な射撃で男の足元を撃ち抜く。

「そんな脅しで俺が止まると思って……!?」

 男がもう一歩踏み出したとき足元が崩れ落ちた。

 滅多打ちにされた甲板は所々穴が開き、脆くなっていたのだ。

 バランスを崩して転倒したアーマーは立ち上がろうとするが足元が不安定なために上手く立ち上がれない。

「クソ!片足がハマっちまって動けねぇ!!」

「ふぅ、やっとおとなしくなったわね。これでチェックメイトよ。」

「落とし穴にはめたぐらいで調子に乗るんじゃねぇぞ!てめぇらの射撃はガルガンディアに効かないのは思い知っただろ!」

「そうね、でも今から撃つのはトクベツな一撃よ?」

 そう言うとプレリーの手元の銃が展開し、銃身が露になり、バチバチと光を漏らす。

『インジケーターMAX、システムオールグリーン、発射準備完了。』

「オイオイオイオイ!待て待て待て!!そんなんぶっ放したらどうなっちまうかわかるか!?」

 男は穴から抜け出そう必死にもがくが片足に力が入らず失敗する。

「そうだ!俺を助けたら金を山分けしてやるよ!!どうだ?」

「……私はいまかなり頭に来てるのよ?そんなんでは許してあげないわよ?」

「な、なににそんなにキレて……。分かった!金か!?金の量なら増やす!」

「残念、時間切れ。答えを教えてあげる、それはね……シエルに甲板をぶつけたことよ!!」

 プレリーがトリガーを引くと、光の奔流が解き放たれ、男に向かって突き進む。

「そ、それだけのことで────!?」

 男は叫びながらも防御姿勢をとり、バリアを張って耐えるも、バリアは砕け散り、余りの熱量に装甲が溶けていく。

 数秒後、光の奔流が消えてそこに残されていたのは、装甲が溶け落ち、腕部は崩壊しフレームだけになった見るも無残なアーマーの姿があった。

 プレリーが近づくとアーマーの胸部が開かれ、中から男が転がり落ちる。

「どんだけ頑丈なのよこのアーマー……。」

 プレリーは気絶している男を縛り上げると、シエルに駆け寄る。

「シエル、動けそう?」

「結構強い衝撃だったけど大丈夫みたい。問題ないわ。」

「そう……、ならさっさと終わらせるわよ。」

 2人中心部に向かって再び駆けだした。

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