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 2003.09.15(月) 20:47  廃屋

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 柳ヶ瀬露亜やながせろあ綺羅雫季きらしずきのお腹の上へ射精した。


 何の達成感も満足感もない射精。ただそこに身体があったから交わった、それだけのこと。


 露亜は感情の欠片も浮かべず、無言でベッドから降りて床に散らばった服を拾いはじめた。一拍遅れて、雫季も身を起こす。ウェットティッシュでお腹の上の精液を淡々と拭き取る仕草に、恥じらいや戸惑いはなかった。


 月明かりの差し込む部屋の中、雫季の輪郭が淡く浮かび上がる。細い手足に、透けるような肌。長く伸びたまま手入れのされていない黒髪が背中を滑り落ちる。目元には微かなくま。疲れているようにも、何かを諦めきったようにも見える。


 ――それでも、その顔立ちは人目を引く美しさをしていた。


 露亜と雫季は、街の外れにある廃屋で二人きりで暮らしている。だがそれは恋人同士の同棲でもなければ、友人同士の同居でもない。互いに帰る場所もなく、行き場もなく、ただ流れ着いた先が同じだっただけ。


 そんな男女が同じ屋根の下にいれば、身体を重ねるようになるまでそれほど時間はかからなかった。


 だがそれは、恋ではなく、愛でもなく、日々のなかに沈んだ惰性の一部。気づけばそういう関係になってから、もう3ヶ月が経っていた。


 「ちょっと、街ぶらついてくるわ」

 「ん……夜、冷えるわよ」


 服を着ながら雫季はポツリと呟いた。声色に感情は薄いが、それでも完全に無関心というわけではない。


 「ああ、そうだな」


 露亜は素直に、朽ちかけたタンスから、使い古してやや傷んだジャンパーを取り出した。


 この朽ちかけたタンスは元々この廃屋にあったものだった。この廃屋は以前は地元の人に親しまれたパン屋だったのだが、近くの街にできた大型スーパーのパン屋に客を取られて倒産した。


 倒産前後からオーナーが行方不明になっており、そのまま誰にも管理されず放置されていたところに、露亜が無断で住み着き、その後雫季も加わることとなったのだ。


 ジャンパーを着込んだ露亜は、ヒビの入った洗面台の鏡でやや長くなってきた黒髪の跳ね具合を確認すると、出かけるために玄関へと向かった。


 「柳ヶ瀬くん……できれば、夜明け前までには帰ってきてね」


 その言葉の最後だけ、ほんの少しだけ――少しだけ、息が震えていた。


 けれど露亜は振り返らない。ただ、何も言わずに玄関のドアを開けて、廃屋の中に冷たい夜風を流し込む。


 そしていつも通りに、夜の街へと出ていった。

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