星の光

くまだんご

第1話 水槽の星

ぶくっ…と気泡が立つ。

私の口から溢れた空気だ。


意識が起きて、始めに視界に写ったのは、バイオ液の中から見た、殺風景な景色。


よくわからない機械。そこから伸びたいくつものコード。

そして、そのコードが水槽の中まで伸びて、それと繋がれた私の手首。


ここは…。


「やぁお目覚めかい?」


誰かが、水槽の前まで近づいてきた。 

男の人だ。


誰?


「私か?私はベルゼル。君の産みの親さ。博士とでも呼びたまえ」


博士。

私はだれ?


「君は『RAN』。私が創った人型人口生命体」


そうなんだ。

じゃあなんで、私はこんなところにいるの?


「……何故?何を言っているんだい?君がここにいる理由…。そんなの、一つに決まっているじゃないか?――これから、君は究極の存在になるのだよ――」


究極…?

わからないが、博士は腕を広げ、踊っているかのように、何かを私に説明していた。


一通り説明したあと、落ち着いて博士は私に語りかける。


「――とまぁ、これから僕が君を育てる…と言った話さ…」


じゃあ、博士は私のお母さんなんだね。


「…そうだね?じゃあさっそく始めよう」


何を?


「――実験を――」




私は水槽から出て、ある部屋に連れてこられた。

一つの灯りしかない、さっきと同じように殺風景な部屋。

さっきと違うのは、いくつものシャッターが、四方に存在することだろうか。


「さぁ『RAN』。実験を始めるよ?」


その一言と共に、博士はタブレット端末を操作する。

ガタンッ!と大きな音が聞こえ、目の前のシャッターが上に上がる。


中から表れたのは、人型の機械。

私と違って、より無骨な空気だ。

銀色の身体がむき出しで、細かな配線がいくつも見える。

その腕には、小型のマシンガンが装着されていて、私を見るや否や私に向かって発砲してきた。


ダダダダッ!!と弾丸の雨が私を襲う。

いきなりの事に怯んだ私は、腕を顔の前にクロスさせ、防御の体制をとっていた。

痛っ、と反射的に身構えたが、その感覚は私の想像していた物とは違った。


弾丸がゴム弾のように、柔らかい。

地面に転がっているのは実弾だ。そんな筈は無い。

ならば何故?…なんて、その時の私に考える思考は無かった。


痛くない。なら、こいつは私の相手じゃない!


その次の瞬間には、私は背に生えた爬虫類の様な鱗を備えた羽を広げ、その機械目掛け飛び付いた。


頭を鷲掴みにして、そいつを一瞬で地面に叩きつけた。

強く叩きつけられた頭部は、その衝撃に耐えきれず、一瞬にしてぺちゃんこになって潰れた。

潰した時にオイルが私に掛かって、少し嫌な気分がした。


頭を潰された機械は、捨てられた蝋人形の様に反応を失った。

もう動かない。もうその銃口を私に向けてこない。

そう思った時の私は、一言「つまらない」と思った――。


「おぉ、いいねぇ…。ナノメタルで再現した、爬虫類人リザードマンの防御力は再現できている見たいだ…。さらに、あの羽の羽力……素晴らしいねぇ…。さぁ『RAN』!次のステップに進もうか!……次は、その装甲はどれ程の耐久力があるか?」


再びシャッターが上がる。

さっきの機械に似ているが、その腕には細かい刃のチェーンソーを装備した機械が表れる。


さっそくそいつは私に接近してきた。

いつの間にか私の間合いに入ったそいつは、そのチェーンソーを振り上げ私へ振り下ろした。


私はそれを左腕で受け止める。

ウィーーーンッ!!!!とチェーンソーは大きな音を出して、私の腕は火花を散らした。


「フムフム…」


みるみるとチェーンソーの刃が私の腕にめり込む。

内側に入れば入るほど火花は強くなり、バチッバチッ!!と小さな爆発の様な物が散り出した。


さっきと違い、痛みを感じた。

一瞬、微かな恐怖が私な脳裏に過る。


「……っ、助けっ」


そんな私の口を突いた言葉虚しく、その目の前で私の腕は切り落とされた。


「キャァァァァァ――…ッ!!!!あぁあぁ…っ!……ぁっ…!」


オイルが溢れる。

激痛に私は腕を抑え、悶えた。

だんご虫の様に地面に丸まり、呻く。


いくら呻いても、いくら叫んでも、その痛みが和らぐことは無い。

無骨な配線が飛び出た私の腕から血が流れることは無いが、バチバチッと火花を散らす私の血管導線が痛々しく、見ていられなかった。


「……17秒。思ったより速かったな…。やはり、もう少し調整が必要か……食人種オークの細胞を元とした再生力もまだまだ遅い……。ふむぅ…まだ、道は長いな。では、今日はお開きにしようか」


意識が薄れる最中、コツコツ…と私の側に近寄る博士の姿が見えた。

その表情が脳裏に焼き付く。

優しく微笑んだ、慈愛の眼差し……。


あぁ…私はこの人の為に――。


―――『彼が望む生命体にならなければ』―――



「…お母さん……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星の光 くまだんご @kumadango

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ