影四つ〜森のため〜

静寂の森を風が駆け抜け、月明かりが優しく降り注いでいた。その静けさの中で、森は密やかに何事かを訴えるかのようにざわめいていたが、楓にはその声が届くことはなかった。彼女はただ自然を守るという一心で、自らの選んだ道を歩み続けていた。


幼い頃から森に親しんできた楓にとって、この自然を守ることは生涯を賭けた使命だった。都市化の波に抗うように、彼女は環境保護活動に全力を注いだ。地域の人々を巻き込んで清掃活動やプラスチック反対運動を企画し、環境教育にも力を入れた。

周囲はその情熱を一目置きながらも、どこか冷ややかに彼女の活動を見ていた。しかし、楓は静かな批判を顧みることなく、自分の信念をひたすら追い求めた。


楓は新しいプロジェクトとして森林療法リトリートを開始した。彼女は、そのリトリートを通じて多くの人々に森の価値を伝えようとした。訪問者用の歩道や施設を整備し、そこで過ごす人々に自然の素晴らしさを感じてもらうことを目指した。

楓は成功に酔い、自分こそが自然を救っていると信じ込んでいた。しかし、その裏で自然の秩序は静かに崩れ始めていた。


ある日、かつてない規模の嵐が森を襲い、彼女の整備した地域を中心に甚大な被害をもたらした。森の木々は無残に倒れ、土砂が流れ出す惨状を目の当たりにした楓は、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。嵐が去り、破壊された風景がそのまま残された。


破壊の中で、楓は自分の活動がもたらした結果を目の当たりにしながらも、彼女の心にはまだ救いがあったと信じていた。彼女は自然のために尽くしたと何度も自分に言い聞かせ、災厄はただの偶然だと自らを納得させようとした。

しかし、周囲の視線は冷たく、彼女の考えを共有する者は誰もいなかった。楓は孤立し、自分の抱える責任を感じながらも、その真実を理解することなく、それが自らの行いの結果であることに最後まで気づくことはなかった。彼女はより一層、環境破壊を批判することに注力するのであった。彼女は今日も、声を荒げる。

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