第84話
「座ってからにする? それとも、このまま?」
「このまま‥‥で」
月宮さんは横になったまま、手をどかして胸をこちらに差し出す。いや、これはもう胸じゃない、おっぱいだ。
心臓とか、胸筋とかをいろいろ含めた胸じゃなくて、この柔らかなものただ二つ。そう、おっぱいだ。知らんけど。
「はい、どうぞ」
どうして月宮さんは普通に私の頼みごとを受け入れてくれるのだろう。
なにをどう考えても、私の「おっぱい、触っても良い?」という頼みは、変態を極めたなにかなのに。
私が女じゃなかったら、こんなことを口にした瞬間、即刑務所行きであまりの罪の重さに弁護士も諦めるレベルだ。別に、女でも普通に犯罪で死刑なので私は死ぬ。
でも、死ぬ前に、これを触っても良くはないだろうか。どうせ死ぬんだから、なんでもいいや理論で、どうにかならないだろうか。
正直、月宮さんのおっぱ‥‥というのはいい加減恥ずかしいからもう胸ということにするけれど、月宮さんの胸に興味がないかと言われたら嘘になる。
だって、柔らかいんだもん。良い匂いするし。
いつも抱き締められるとき、月宮さんは私の顔をその胸に埋めてくるから、感触は知っている。
でも、顔で感じるのと、手で感じるのとじゃ全然違う。
手は体全体で見ても特に敏感な部位で、他じゃ感じられない細かな部分まで感じられる。
手を繋ぐだけですら、いつも微かな心の揺れみたいなものを感じるんだ。もし、胸なんかを手で触ったらどうなってしまうのだろう。
なんかそれっぽいことで誤魔化しているけれど、結局私は月宮さんの胸に興奮しているだけだ。
興奮って、綺麗な意味じゃなくて、汚い‥‥包み隠さず表現すると、ただの性欲ってことだ。
だからこそ、欲が月宮さんの胸を触ることに強い興味をもたらしてくるけれど、同時に理性がブレーキをかけてくる。
そんなことをしたら、もう後戻りはできなくなる‥‥いや、もうそんなことはどうでも良い。というか、後戻りなんてしようとしたらまた月宮さんを泣かせてしまう。‥‥ん? 待って、それってどういう意味?
「はあ、夢野さんや」
急に月宮さんのため息が聞こえて、思考から引き戻される。
「いつになったら触るの?」
「あ‥‥う‥‥」
申し訳ない。本当に、ごめんなさい。
「ああ、それとも‥‥こういうこと?」
そう言って、月宮さんはパジャマのボタンを上から一つ二つと外していく。
すると、当たり前に服がはだけて、隙間から彼女の肌が少し見える。
「そ、そうじゃない!」
咄嗟に月宮さんの手を掴んで、それを止めさせる。
「違うの? じゃあ、早くしなよ。夢野が言ったんだよ」
「う、うん。わかった。わかったから」
そう、私が言ったのだ。
言ってしまったのだから、やらなければならない。
月宮さんに不誠実な人だとは思われたくない。——違う! そうやって月宮さんを使って胸を触る理由を作ろうとするな! この変態女め! ただの性欲だろうが!
息をゆっくり吸う、吐こうとする前に月宮さんの温かな匂いがしたことに気付いて余計に興奮してしまう。
本当に私はダメになってしまった。
もういろいろダメになっていることに気付いたら、変な勇気‥‥いやもうそれ勇気と呼べないなにかが出てきて、私は月宮さんの胸に手を伸ばした。
「‥‥んぅ」
触れた瞬間、変な声が聞こえる。
多くの息と淫猥な熱を含んだその声に、ぽっと私の顔が火照る。
恥ずかしいという感情は私だけではなかったようで、少し安心してしまう。いや、普通に考えて恥ずかしいのは月宮さんの方だ。なんで私は恥ずかしがってるんだ‥‥‥
とはいえ、恥ずかしいことを誤魔化すことはできないから、少し触れただけで終わらせようと思ったけれど、そこで私の欲が言うのだ。
もっと、触りたいと。
私は手を少し押し込んでいく。「ふう」というなまめかしい月宮さんの声に惑わされながらも。
想像以上に抵抗がなさすぎて、私の手はその胸に簡単に沈み込んでいく。服越しでもわかるその柔らかさに、私の内側にある変なものが湧き出て体内に充満して、息を詰まらせて荒くする。
ずーっと月宮さんの胸は柔軟性と弾力性が7:3だと思っていたけれど、こうやって手でしっかりと触ってみると、実際には柔軟性が9はあるような気がする。
弾力性はなくはないけれど、なんかもう、機能しているのか怪しい。
私が指を動かすと、それに合わせて月宮さんの胸も形を変えるのだ。服越しでも、それが鮮明に見える‥‥見える? 待って、なんで?
そこで気付いた。
今の月宮さんはパジャマだ。
普通、パジャマのときって下着を着けない‥‥はず。
そのことに気付いた瞬間、全身にぐわっと血が巡る。特に目は充血どころか血が吹き出そうなぐらいだった。そのせいか、視力が急激に良くなったような気がして、視線を彼女の胸元に移す。
先ほど、月宮さんの勘違いで第二ボタンまで開かれてしまったから、少しではあるけれど、二つの膨らみと、それが作る影が見える。
‥‥これを覆うものはなにもない。
強いて言えば、今着ているパジャマだけが月宮さんの胸を隠しているのだけれど、パジャマは通気性を重視していて薄いものだから、少々どころかだいぶ心もとない。
これはもう、見えていないだけでほとんど直接触っているようなものだ。
そう思ってしまうと、考えるよりも先に私の手はその胸をぐっと握っていた。
「ちょ、夢野。それは流石に痛いから」
そう言われて、すぐに手を離した。
すると、月宮さんの胸は綺麗に元の形を取り戻す。もしかしたら、弾力性も6ぐらいはあるかもしれない。つまり、月宮さんの胸は柔軟性と弾力性が9:6なのだ。全体を10として、余分な5はどこから出てきたのかときかれても、知らない。
私の手汗なのか、それとも月宮さん自身の汗なのか、少し濡れたパジャマが彼女の胸にぴたりとくっついている。ぼかすことなくその形を示していて、思わず目を上に逸らす。すると、月宮さんがこちらをじーっと見ていた。
「なんか‥‥えっちなことしてるみたいだね」
「はぐっ!?」
なにを言ってるんですかこの人。
流石にそれは月宮さんがおかしいと思う。
「サイズを確かめてただけだもんね」
「‥‥え?」
「サイズ。触ったのって、それを確かめるためでしょ?」
それ本気で言ってるの? と思ったけれど、流石に誤魔化しているだけのようだった。
でも、そんな良い感じの言い訳を提供されたら、私は簡単に乗ってしまう。
「そ、そう‥‥です」
「だよね。‥‥で、どうだった?」
「どう‥‥って?」
「わかるでしょ」
答えないといけないのだろうか。
いや、これはもう罰だ。おっぱい触ってしまった罪の罰なのだ。なに考えてんだ死ね!
「‥‥大きい、です」
大きかった。私が想像していたよりも、つまり夢で月宮さんの胸を触ったときよりも明らかに。
普段のそれは服に、その下には下着にと、二重で覆われているから曖昧だったけれど、実際のそれとは大きく差があった。それこそ、夢と現実ぐらいの大きな差が。
「そっか」
なにを納得されたのだろうか。
とりあえず、ごめんなさいと言わせて欲しいです。
「もう一回、確かめる?」
ごめんなさい。
「‥‥うん」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
こんな性欲まみれの、最低ド変態女でごめんなさい。
とか思いながらも、私の手はまた月宮さんの胸に伸びていってるのだから、もう取り返しのつかないド変態だ。これはもうドドド変態と言っていい。
初めて月宮さんが私の家にお泊りしたときみたいに、「えっち」と言われても、もう言い逃れできないほど、最低えっち女です。ごめんなさい。
「やっぱり、やめとこっか」
そう言われて、月宮さんの胸に伸びていた私の手が被せるように握られる。
流石に呆れられたかと思った。というか、もう呆れて欲しい。罵ってくれた方が、まだ気持ちを保てそうだ。
「夢野、もうこれ以上にないぐらい顔真っ赤だし。流石になんかもう、夢野がおかしくなっちゃいそうで怖い」
そんなことを同じく顔を真っ赤にして言わないで欲しい。
「月宮さんも顔真っ赤だよ」なんて言う権利はないし、そのことを月宮さんは自覚していなさそうだから、言わないでおく。
言わないでおくってなんだ‥‥そんな上から目線をできる立場にはないんだぞ。
「ごめんなさい」
ようやく口で言えた。もう遅すぎる。
「別に良いけど。‥‥キスして良い?」
「‥‥なんで!?」
「いや‥‥まあ‥‥」
月宮さんは視線を迷子にさせながらも言葉をこちらに向けてくる。
「夢野の頼み聞いてあげたし、こっちのもダメかなって」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
さっき、私がおかしくなっちゃいそうで怖いとか言ってたくせに、なんで私を更におかしくしようとするのだろうか。
でも、おっぱい触った私に断る権利なんてないので、
「わかった」
「ん」
一言で頷いて、月宮さんがキスをしてくる。
そもそも抱き枕になれるぐらい至近距離だったから、逃げる隙もないし、抵抗する気力もなかったから、されるがままだった。
数秒、本当はどれぐらい経ったのかはわからないけれど、唇が離れてから私は物申す。
「これ‥‥えっち、だよ」
「そう? 胸のサイズを確かめたあとに、友愛のキスをしただけだけど」
もう、意味がわからなかった。
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