第7話 - 鎮座

「果たして、流れるのか?」


全容を明らかにした敵はあまりに巨大であり、トイレの流水ごときで退治できるかは全く不明である。


仮に流れなかった場合、最悪の事態である。この難敵を体外へ放出後も再度対峙し、死闘を繰り返さなければいけない。


「それだけは避けたい...。」


もう、こりごりである。ほぼ"2時間"格闘し、さらにこの狭い空間で再度死闘を繰り返さなければならない。しかも、「詰まる」という最悪の状況が起きた場合、他人に自身の浄化作用の集大成という醜態をさらけ出す必要がある。


「どうする?」


どうしようもない。流すことを試みるしかないのである。


「せめて、トイレットペーパーと一緒に流すのはやめよう。」


マサヒロは、激闘を制した指が何かに当たらないよう、慎重に空中に浮かせた。


「もう、自身はこの指と共に汚れてしまった...。」


そんなことを思いながら、もう片方の腕を反対側に回し、その腕にある穢れなき指で流水のボタンを押した。


「流れろ!流れろ!流れろ!」


マサヒロは祈るように経過を見守った。


初めはそこに鎮座し、微動だにしないように見えたが、流水の勢いに徐々に根負けし、ゆっくりとだが界に近づいてるのを認識できた。


が、ここで水の勢いが弱まる。1度の流水では撃退できなかった。


「なんの、これしき。」


今一度、流水を試みる。間を置くと、向こうが勢いを取り戻すので、間髪入れずにだ。


「ここまでくると、もはや封印作業だな。」


先ほどの勢いがあるため、界までは難なく移動させることができたが、そこで再び敵は鎮座した。


最後のあがきである。


「何度でもやってやる!」


再々度、流水ボタンを押す。その間、穢れてしまった指は宙に浮かせたままである。


流水のため、非常にゆっくりだが、徐々にその形が小さくなっていくのが分かる。


「南無阿弥陀仏っっっー!」


思わずマサヒロは大きな声を上げた。


その咆哮が決め手となったのか、小さくなりつつあった敵は、最終的に「コポッ!」という断末魔ともに地中深くへ葬り去られた。


マサヒロは今まで味わったことのない達成感と共に、トイレにおけるいつもの所作を、いつもと異なる手で行い、ズボンを下したまま、手を洗うため、洗面所にゆっくりと向かった。

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Rest Room, Hard Battle 凛太郎 @rintarotakenaka

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