第6話 - 窮策
冷静に、これまでの施策とその結果を思い起こす。
「当初の想定が間違っていたと考えにくい。実際、水を当てると多少の成果は得られた。しかし...」
行き詰まりである。こういう場合は、一晩ぐっすり眠り、頭をリフレッシュすると次の案が出てくるものだが、今回はそうもいかない。
先ほど力を加えたため、便意はさらに強くなりつつあり、すでに体力も尽き、気持ち悪くなってきている。
脳の旋回も止まり始めた。
「駄目だ、策がない...。」
実質的な敗北宣言である。
ただ、今回は白旗を上げれば良いという話ではない。結局、便意は強くなるも、便が出ない状態なので、何らかの方法でこの状態を打開する必要がある。
「代償を払ってでも、この状態から抜け出さねば。」
便意が続いてすでに"1時間45分"、これほど長く不快感が続いたことはなく、もはや限界である。呼吸も粗くなってきた。いよいよ追い込まれていることを実感できる。
「どうする?」
脳の旋回は、まだ止まり切っていない。
「もはや外側から対処する方法は思いつかない。となると、内側から対処するしかない。が、内側からとなると...」
もはや最後の手段である。この案は、実は前からマサヒロの頭にあったが、敢えて考えないようにしていた。何故ならば、この手だけは何としても使いたくなかったからだ。
「まさか、自身の人生で、このようなことをする必要に迫られれるとは...。」
マサヒロはつぶやいた、そして自身の右手の人差し指を静かに見つめた。
「これだけはやりたくなかった…。でも、やるしかない。」
マサヒロは決心した。
便座にあるお尻の片側を上げ、空いたスペースから静かに手を入れた。そして、局部を指で探る。
「本当にやるのか?」
マサヒロはこう自問自答しつつ、
「覚悟を決めろ!」
と自身に言い聞かせ、静かに指を入れた。
「ぎゅもさにちょぬちゃむにゅぺとにゅぬぐっ...。」
硬いんだか柔らかいんだか、なんとも言えない感覚である。
繊維質に油分を含んだ何かがまとわりついた塊を、指で押しつぶしている感覚である。
決して心地良い感覚ではない。
「こんなに油分が多いものなのか!滑りやすくするためとはいえ、人の身体は本当に良くできてる。」
このいまだかつてない状況下でも、冷静さを失わないために、研究者として客観的な状況把握に全力で努めていると、ある考えがマサヒロに浮かんだ。
「キッチンにあるナイロン手袋すればよかった...。」
が、後の祭りである。
いつもの冷静なマサヒロであったならば、容易に思いついたであろう。しかし、この状況では、さすがに無理な話である。
「なんでこんな羽目に会うんだろう...。」
と思いつつ、ここまで来てしまうと、後はやり切るしかない。
人差し指の第一関節を90度に曲げ、指をL型にする。
そして、塞いでいたものを掻き出すように、静かに抜いた。
が、結果は空振りだった。
「くそっ、思ったより出ない。もっと奥まで入れて、しっかりとグリップしないと駄目だ。」
もはや、直接接触の極みである。そして、これ以上の策はない。
「もう一度、あの感覚を味わうのか...。」
と、マサヒロは失望というべき気持ちで一杯になったが、やはりここはやり切るしかないと考え、いよいよ覚悟を決めた。
「もう自身の指は穢れてしまった。こうなれば、徹底的にやってやる!」
強い意志と共に、マサヒロは再び指を入れた。これで本当に終わらせるために、先ほどより奥に入れる。
「ぎゅもさにちょぬちゃむにゅぺとにゅぬぐっううぅ...。」
あの嫌な感覚が指に走る。
しかもそれだけではない。そこにあってはならない異物感が、身体全身を駆け巡る。
「3度目はない。ここで決める!」
マサヒロは意を決して第一関節を曲げた。そして指先に意識を集中した。
「俺の清純無垢は完全に失われてしまった...。」
マサヒロは自身の現状を改めて思った。が、
「所詮、自身の体内にあるものである。実質的には自身のモノである。汚いとかそういう話ではない。」
と研究者としての冷静さで自身をごまかしながら、曲げた指先にしっかりとモノが引っ掛かっていることを確認した。
「爪は、いつ切ったけ?」
と余計な雑念が浮かぶ。
が、それを無理やり振り払い、指をゆっくりと慎重に引き抜いた。
底に片がぽろぽろと落ちると共に、指に多くのモノがまとわりついていることが分かる。が、これは凸の下部分がかなり削れたことを意味する。
「今なら勝てる!」
マサヒロは力んだ。
蓋の一部がはがされ、そこをから崩れ落ちるように、ゆっくりゆっくりと大物が出始めたのが分かる。
「柔軟性が確保されていない状態で急くと、組織が傷付く。ここは焦らず、あくまでゆっくりとだ。」
マサヒロは慎重にゆっくりと力んだ。
巨大な敵が徐々に排出されていくのが分かる。
想定通り、凸の下部分さえ突破してしまえば、後は自動的に、敵に敗北を与えることができる。
「勝った!」
マサヒロは、勝利の雄たけびを心の中で叫んだ。
が、大物感はまだ振り払われない。
「どれだけ巨大なんだ!?しかし、ここで焦ってはならない。大事な場面こそじっくりと攻め、勝ちを確実にする。」
マサヒロは急がずゆっくりと力んだ。
巨大な巨大な敵が、徐々に徐々に、その姿を露わにしているのが分かる。
そして、いよいよ敵がこと切れたのが分かった。
「勝ったぁぁぁ!」
マサヒロは達成感に満たされながら、座っている陶器の底を見た。
いまだかつて見たことのないものすごい量のモノが、戸愚呂を巻いている。
「なんじゃ、こりゃ!」
量だけではない。色も層状に異なっている。最大の難敵であった凸の下部分はどす黒い色なのに対して、自身のより内部にあったであろう箇所は新鮮な色をしている。
見ようによっては自身の体内の浄化作用を目で見える形で観察できる格好の研究対象であり、その観点からは「美しい」とも表現できそうである。
が、そのような幻想は、次に降りかかる現実にすぐにかき消された。
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