第4話 - 水当

「幸い、自身の体内で起きている現象であり、ある程度自身でコントロール可能だ。よって、時間はまだまだある。」


マサヒロは、現状分析を改めて行った。


「初めの想定と何が違う...?」


分析、分析、分析。


想像、想像、想像。


修正、修正、修正。


「筒状の構造体から出ないという現象を鑑みて、凸という形は間違っていないだろう。形のイメージは間違っていない、であれば硬さか...。」


分析が進むと、冷静さを取り戻すのが研究者の性である。


「凸の下側が想像以上に硬く、よって出ないのであろう。硬い理由は、敵が大腸にとどまっていたこと考えると、水分が足りないと考えるのが合理的である。ならば、逆に水分を足せばよい。」


「が、今から水分補給を行って、数分でそれが出口に行き渡るわけではない。では、どうする?」


マサヒロは周りを見渡した。脳の旋回が加速する。


「これだ!」


マサヒロはウォシュレットのボタンを注視した。


「下から直接、水分を与えればよい!」


マサヒロはウォシュレットの設定をいつもより3段階強くして、ONボタンを押した。


そして、気張った。気張るというより、門をできるだけ大きく開けることを意識する。そして、そこに直接水鉄砲を照射した。


水分を直接敵に注入し、やわらかくする作戦である。


お尻の位置を微妙に変えつつ、水鉄砲が標的をロックオンしたのをマサヒロは感じた。


「勝つのは俺だ!いけー。」


ウォシュレットから放射される水にそう叫びながら、標的に水が当たり、肛門の中で敵が揺れる感覚をマサヒロは楽しんだ。


水を当てること"3分"。


「そろそろ柔らかくなったかな?」


門付近の筋肉を硬直させ、敵の切り取りを再度開始する。


「コロン...」


劣勢になって以来、初めてほんの小さな欠片が奥に落ちた。


「よし!このままいけば、やはり俺の勝ちだ。」


マサヒロは勝利を確信し、再び門を大きく開き、水鉄砲を照射した。


水を当てること"3分"。


「そろそろ柔らかくなったかな?」


と思い、気張り、閉めた。


「コロン...」


再び、ほんの小さい欠片がトイレの奥に落ちる。


さらに、水を当てる。"3分"後、小さな小さな欠片がトイレの奥に落ちる。


当てる、落ちる、


当てる、落ちる、


当てる、落ちる、


"15分"。


「埒が明かない...」


切り取れる欠片が小さすぎて、進捗が遅すぎるのである。


「勝てるまで何分、水を当てないといけないんだ?」


「相手が目視で確認できないので想像するしかないのだが、少なくともあと15分は継続して水を当てなければならない。もしかすると30分以上かかるかもしれない。」


そう考えると、マサヒロはぞっとした。


「さらに30分、合わせて1時間も、この勢いの水を肛門に当て続けて大丈夫なのか!?」


大丈夫とは思えない。


マサヒロの定義する"勝ち"とは、自陣のダメージを最小にして、敵を完膚なきまでに叩き潰すことである。


仮に、この戦法を継続した場合、敵を打ち負かすことはできるであろうが、こちらもかなりのダメージを被る。これは、勝ちではなく引き分けである。


「戦略の変更を余儀なくされている。が、戦闘開始からすでに"1時間30分"。こちらの体力も限りが見え始めた。そろそろ、強硬な手段に出なければ...。」

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