第2話 沈黙

<殺してほしい奴らがいるの>


「自分でやれよ」


 その文章を見た瞬間、ほぼ無意識言い放っていた。


 言いようのない苛立ちが、俺の口を動かす。

 そんなことを頼むこの女に腹が立って仕方がない。


 人を殺せだと?

 この俺に、2度目の殺人を犯せというのか。

 ちょっと笑えない冗談だぜ。


「お前、幽霊なんだろ? 俺に嫌がらせする要領で、そいつらを呪い殺せば良いじゃねーか」


 返答は無い。


「あぁ。それができないから俺に頼んでるのか。幽霊って言っても殺せる力は無いのな。で、人任せにするってか?」


 返答は無い。


「つーか、そもそも何故、俺みたいなフツーの奴に頼むんだ? ヤクザっぽい人に頼んだ方が確実だろう」


 返答は無い。


「あと、殺してほしい<奴ら>って言ったか? 複数いるのか。そんな重労働、なんで会ったばかりのアンタのためにしなくちゃならない?」


 返答は無い。


「あのな。アンタは死んでるから、そいつらを恨むことくらいしかやることが無いのかもしれないが、俺は忙しいんだ。生活しなくちゃいけないんだ。分かるか?[生きるための活動]だ」


 返答は無い。


「何があったか知らんが、それを諦めた奴の言うことを叶えてやる暇なんて無い。明日も仕事なんだ。もう出てってくれ」


 返答は無い。


「勝手に入ってこれたんだ。勝手に出ていくこともできるだろ。俺はもう寝るから、好きにしてくれ」


 返答は無い。


 時間が必要なのかと1分ほど待ってやったが、やはり幽霊は何も行動を起こさない。

 もう知るか。

 俺はさっさと寝支度を整えることにした。


「おやすみ」


 いつもは言わない挨拶を、つい口にしてしまった。

 幽霊とはいえ、誰かが我が家にいることを気にしたのかもしれない。


 もちろん、返答は無かった。

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