第3話 決別
ワクワクとした足取りで階段を駆け降りる。
食卓には、怪訝そうな顔の両親
「いただきます」
最初の五分は静かに箸を動かす
「で、どうだったんだ」
父が重い口を開く
「合格してた!」
皮肉混じりの満面の笑顔で報告する。
「そうなのか」
驚く父を想像していたが、思いの外の返事だ
しかし、ここから父のペースに呑まれる
「俺は、金は一切出さん」
「引っ越しも手伝わん」
「困った事があっても、帰ってくんなよ」
何となく察していた
しかし、いざ言われるとかなり傷つく
「私からは、最低限の事しか出来ないけど」
「学費とかは援助できないわよ」
母が追い討ちをかけるように言う
両親からここまで言われたらしんどい
でも、一人暮らしの喜びを考えれば屁でもない
親のペースを打ち砕くために俺には秘策があった
あの時必死に貯めた通帳だ
額にして百万円
一人暮らしで学費を払うとなると心許ない金額だ
しかし、覚悟を示すには十分な金額ともいえる
バンッ
机に通帳を叩きつける
「これが俺の覚悟だ、あんた達に手を借りたいなんかしない」
言い切ったという達成感
その裏にはもう引けないという不安感も残る
「好きにしろ」
父の捨て台詞を最後に晩餐は幕を閉じる
部屋に戻るとすぐに猛烈な脱力感が襲ってきた
一人暮らしをしたいと啖呵を切ったあの日
紡いできた緊張の糸が解けたように横たわる
長きに渡った戦いにピリオドを打つ
新しいスタートラインに足をかけはじめた
二月になり、高校に行く頻度もぐっと減り自由な時間も増えた
もちろん、上京費用を稼ぐためのアルバイトがある
シフトも倍以上に増やしたのでぼちぼちというわけだ
一人暮らしの家も何とか決めた
東京の区内で家賃四万
贅沢な暮らしは出来ないことは十も承知
正直安さだけで決めたので多少ボロくても構わない
家具や寝具も最低限のもので揃えた
日に日に時間が過ぎるのが早く感じる
三月に入り高校の卒業式を迎えた
周りは色んな別れを惜しみ涙を流している
しかし俺は涙どころか笑顔を見せていた
憧れの東京への引っ越し
大嫌いな両親との別れ
こんなにも楽しみなことがあるのに泣く方がおかしい
形式的な式を終えて帰路に就く
家に帰り両親からは「おめでとう」の一言も無かった
愛が底をついたんだろう
自分にとっても好都合な話である
それからというものアルバイトを必死にやりギリギリまでお金を貯めた
そして、上京前日を迎えた
駅に行き東京行きの新幹線のチケットを買う
片田舎なもんだから交通費が万を超えてくる
家に帰りバックパックに必需品を詰め込む
色々と持っていきたいものがあり過ぎてパンパンになった
夢中で荷造りをしていたら夕方になっていた
これがこの家での最後の晩餐
両親と向き合い改めて言う
「明日この家、出ていくから」
茶碗を置いて父が話し始めた
「行くのは勝手だが、泣いて帰ってきたり助けてーなんて言ってきたりしてもなんもしないぞ」
「こっちこそあんた達の手なんか借りたくないし、願い下げだ」
最後だから言いたいことを俺はどんどん吐き出した
その間、母は何一つ口を出すことはなかった
精々した俺は足早に自室に行き明日に備え床に就く
上京前日だ興奮して眠れるわけがない
色々東京での生活を妄想しながら目をつむる
そして迎える、引っ越し当日
全く眠れなかったがドーパミンが出ているのだろうか眠気はない
重たいバックパックを背負い下に降りる
「じゃあ行ってくるわ、やっとこの家出ていけて嬉しい」
嫌味しかない言葉を母にかけた
「行ってらしゃい、向こうでも上手くやるのよ」
母の言葉に立ち止まりそうになったが足を止めず駅に向かう
駅に着き改札を抜け東京行きの新幹線に乗る
俺の新しい人生が始まる
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