第2話 自分だけで拓く道
大学に進学したいと母に打ち明けた俺
母は、思いもよらなかっただろう言動に戸惑う
「と、とりあえず下でお父さんも入れて話しましょう」
階段を降りるときの母の足取りは生まれたての小鹿を彷彿させるものだった。
リビングで父と母と向き合い大学進学について俺は口を開いた
「さっきの夕食の時は誤魔化してたけど東京の大学に行きたいんだ」
「いつから、そんなことを考えるようになったんだ」
父が、否定的なことを言ってくるのは十も承知であった。
俺は、ありのままの理由を述べた。
「東京の大学に行って新しい可能性を見つけたい。そして、二人と離れて一人暮らしがしたい」
高二の時からずっと言いたかった事を伝えることができ心持ちはとても晴れ晴れしていた。
父も、かなり戸惑いを見せるような顔つきを見せ
額には冷や汗を搔いてる
三十秒ほどの沈黙がリビングに続きようやく父が口を開く
「俺は進学なんて許さんからな」
眉間にシワを寄せ俺のほうを鋭い眼光で見つめる
とても説得しようとは考えさせられないくらいの父の威厳を目の当たりにして俺は声が出なかった。
俺が何も言い返さないのを見て父は自室に戻る。
残された俺と母は、目を合わせることもなく自分の部屋に戻った。
五分も経たないあっという間の出来事だった。
ベットで横になり目を閉じて考える
俺は、自分の夢を正直に話した
でも、父はそんな俺に向き合おうとしてくれなかった
母も何も言ってくれなかった
あぁ家族なんて大嫌いだ
考えているうちに目の周りが熱くなった
悔しい・・・
自分がずっと夢に見てたことをあんなにも酷く否定された
俺は自分の気が済むまで泣いた
深夜一時 静寂の街中に一人の男の涙がこだまする
いつまで泣いていたのだろうか気づけば陽が昇っている
照り付けた朝日の光が差し込む
赤く腫れた目を擦り学校の支度をする
昨日のことがあったので階段を降りるのは気が引けたが勇気を出し降りた
「おはよう、今日は早く起きれたのね」
母の言葉は予想しなかったものだった
俺は、困惑を見せつつ朝食を食べる
「昨日言ったこと俺、本気だから」
トーストを噛みしめながら独り言のように母に伝える
「あの時言えなかったけど私も、父さんと同じで反対よ」
母は、分かってくれるなんて少しでも考えていた自分が馬鹿みたいだ
俺の味方をしてくれる人なんていないんだ
心に大きな空白を抱えた俺は、足取りこそ重かった
親に頼ろうとせず自分で生きてやるそう思えた
そこから俺は死に物狂いで、バイトをし勉強にも打ち込んだ。
辛かった
逃げたかった
でも、親と離れる喜びを考えたらやる気が出る
一心不乱にやり遂げた半年
父親とは口も聞かず
母親には業務的な会話しかせず
ただ必死に自分を追い込んだ
迎えた一般入試当日
両親から何も言葉をかけられることなく会場へと足を運ぶ
緊張もあり体の震えがすごい
開始の合図が鳴る
汗ばんだ手で問題用紙をめくる
難しいもんだいもあったが解ける問題もボチボチあった
苦戦しつつも一教科、二教科、三教科
何とか試験を乗り越えた
明確に手ごたえがあるとは言えない
後悔先に立たず
結果を待つのみ
合格発表の時が来るまでアルバイトをビッシリ詰め込み貯金する
バイト中も寝るときも胸がドキドキで堪らなかった
自分の事を信じて前に進もうと躍起になっている
時の流れというのはどうも早いようだ
屋根に積もる雪も解け始め春がこちらを覗くような温かさを感じる
合格発表の日になってしまったようだ
自分の人生の大きなターニングポイント
流石に一睡もできなかった
定刻を迎えゆっくりとスマホを開く
発表サイトで過呼吸になりながら受験番号を打つ
決定ボタンを何とかクリックする
数秒の読み込みを経て画面が切り替わった
過呼吸を抑え込み息をのむ
ゆっくりと画面を下にスクロールする
❝合格❞
一人で大学に行くと誓ったあの時からずっと追いかけた二文字
今このスマホの目の前にある
感情が抑えきれず涙が止まらない
あの日悔しくて泣いたベッド
今はうれし涙で濡れている
やっと両親と別れることができる
嬉しさを隠しながら両親がいる夕食のテーブルへと向かう
大嫌いな両親との別れはもうすぐだ
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