個人的にはどうかと思う

hiromin%2

 青年は不気味な絵を描いていた。


 黒いべた塗りの背景で、一匹のネズミが横たわっていた。

 ネズミは腹を引き裂かれ、骨と内臓がむき出しになっていた。

 ひん剥いた片目は、釘のようなもので潰され、

 眼球は割れて赤っぽい汁が漏れ出ている。

 肉は既に腐敗しかけていて、

 ドロドロと液状になっていた。

 そこに数匹ものハエがたかっている。

 溶けかかった内臓に卵を産み付けたようで、

 おびただしい数の蛆虫が膿のようにニュッと生えた。


 青年は完成した作品を見て、満足そうに唸った。

 最後に小筆を取り出し、白い絵の具でこのように書いた。

――Ars mea est hoc

 これは私の芸術だ、という意味だった。

「傑作だ!」

 青年は高らかに笑い、アトリエを後にした。




 青年は喜び疲れて、普段よりも早くに眠った。すると奇妙な夢を見た。

 青年はチューリップの花畑の中にいた。イーゼルを立て、美しい花々を描いていた。

 赤、青、黄と、カラフルな色を使った。とても幻想的な絵に仕上がった。

 あとは空を仕上げるだけだった。青年は天を眩しそうに見上げた。


 すると空から、黒い塊のようなものが花畑に落ちてきた。

 静かな花畑に、ドシンという鈍い音が響いた。

 その塊はどうも生物らしく、ゆっくりこちらへ向かってきた。

 チューリップをぐしゃりと踏みつぶしながら。

 青年は不意の来訪者に恐怖を覚えた。小鹿のように身震いした。


 その生物は巨大なネズミだった。サイのような大きな体をしていた。

 ネズミはドスの利いた声で青年に言った。

「よう、あんさんにはうちの連れがお世話になったからのう、挨拶に来たんじゃあ」

 ネズミはこう述べたが、青年にはどうも見当がつかなかった。

「はい、何のことでしょう?」

 青年は上ずった声で答えた。しかしネズミは声色一つ変えず、

「ほれ、昨晩、お前さんのところへせがれが来たじゃろう?」

「何でしょうか、知りません」

 青年は何も分からない。しかしネズミはお構いなしに続け、

「うちのかわいい息子でのお、今度、向町の娘のところへ嫁ぐところじゃったんじゃあ」

「突然どこかへ行ってしまったんじゃが、何があったのかのう?」

「まさかこんなところまで足を伸ばしているとは思わなかったがな」

「優れた嗅覚を持っていて良かったなあ」


 青年は俯き、顔面蒼白で身体をぶるぶる震わせた。

 いつの間にか、彼の手には腹が切り開かれ、ハエがたかったネズミの死骸が握られていた。

「知らないです、僕はただ絵を描いていただけです」

 青年は死骸を両手でそっと包み込み、隠した。

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個人的にはどうかと思う hiromin%2 @AC112

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