第三話 聖騎士の誕生


 謁見の間に整列させられた全裸の少年と少女は、玉座に座るライベンの異形に明らかにおびえていた。

 縄で繋がれた十名の男児と女児がライベンによって吟味される。

 謁見の間に列席を許された『かつての体制の人々』はほとんどいない。多くが騎士団でライベンに忠誠を誓っていた『ご加護』のある者たちだった。

 ロルフ・エクスナ―も、幸運ながら列席を許された者のひとりとなっていた。

 神官アレクシス・フォーンが使っていたテーブルをロルフが主席書記官として使っている。

 ライベンは古い体制を司っていた者を容赦なく処分していった。

 強さこそが正義であり、守護天使による加護が国を統べると信じられている王国では――ライベンを止める者は、もはや誰もいなかった。

 二週間ほどで政治的な体制は流血と恐怖と一方的な信仰の名のもとに、ライベンが掌握するまでになっていた。

 公式記録として『都合のいい真実』を書き続けているロルフは、この恐怖政治の一翼を担っていると後世から批難されても抗弁が出来ない。もし『真実』を書きつけたとすれば、それはライベンの怒りを買い、命を奪われることが明白だった。

 座り心地が悪いと不平を述べていた玉座に、ライベンは慣れてきている様子だった。

 彼は新たなる『チカラ』を手に入れようとしていた。

 それは『最強の軍団』であった。

 既存の騎士団を刷新し、新たなる『聖騎士団』を作る。

 東国から西国に至る広大な地域を『守護天使イゼル・ア・ムーナ』の加護による統治を広めようとしている。

 そのための実働部隊を……育てなくてはならない。


「そいつと、その娘、あとひとつ飛ばしてその娘。その三人で良い。連れていけ」


 ライベンが指示を出すと腰縄が繋ぎなおされ、全裸の少年少女が選別される。

 選ばれなかった子どもたちは王都再建のために働くことになる。

 そして選ばれた子どもたちは――ライベンの手によって光の魔素が注ぎ込まれ、聖騎士となる資格があるかどうか……本格的に試される。

 数百年をかけて人体の魔素を『変更』する体質改善を数日のうちに行ってしまうという強引なもの。火属性の者を風属性に『変換』するのではない。水属性の者を地属性に『反転』させるのでもない。

 魔素の適性が薄いにもかかわらず、強制的に『光』の魔素を肉体に注ぎ込む荒業だ。


 もはや禁忌の儀式と言ってもいい。


 ロルフは、この儀式が百名に一名ほどの確率でしか成功しない事を知っていた。

 多くの少年と少女が苦しみのなかで死んでいくのだが……ライベンの述べる『神のご加護』とは、この確率を運命的に獲得したものを指すようだった。選ばれし聖騎士の卵こそが、生きる資格を持っている。

 すでに郊外の墓地に掘られた大穴には、昨日までに六百名近い子どもたちが葬られた。

 ロルフは思い出すだけでも気分が悪くなったし、自分が書きつけた『聖なる犠牲と美しき骸の景色――』という非道な文言に眼を背けたくなった。

 運よく光の魔素に適性を見出したのは子どもは四名ほど……。明らかに少なかったが、ライベンは満足そうであった。


「聖騎士団を作り、俺は世界を手に入れる……」


 ふっ、ふふふっ……とライベンが小さく笑ったとき、ひとりの兵士が玉座に駆け込んできた。


「閣下ッ、失礼を致します! 手配中のヴァルターを……郊外の教会で見つけました!」

「なにっ、見つけたか!」


 ライベンは立ち上がる。

 このチカラ……守護天使のチカラを得た今ならば、ヴァルターを確実に葬ることができる。


「よおし、出撃の支度をしろ! こちらが先に攻撃を仕掛けて、あの陰気くさい男の首をもぎ取ってやる!」


 ライベンはそう述べて、大きな声で笑った。

 天使のチカラを得て、愉快そうな笑いだった。

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