第13話

しかし、子供達の話している内容が聞こえてしまい、動きが止まってしまう。



『そういえば新しく赴任した先生超可愛い先生だったよな!』


『副担任になるらしく、めちゃくちゃ緊張していたよな!』


『本当に可愛いなーーー、如月夏穂先生!!』



‥‥‥‥‥‥え?



身体が固まってしまい思わず鞄を落としそうになる。


なんとか冷静を取り戻すように頑張ってみよう。



心臓の音がやけに煩くて顔も強張っているのがわかる。


他人から見たら怪しい人物にしか見えないかもしれない。


かなりぎこちない動きをしているもの。


崩れ落ちていきそうな心に歯を食いしばる。


落ち着け、私!!!



あの夏穂ちゃんじゃないわよね。


同姓同名だってありえるよね?


絶対に違う人だと信じたい。



もう、どれぐらい月日が流れたんだろう。


私が、この選択をしてから彼女からは離れてしまった。



楽しそうに歩いていく小学生の後ろ姿をぼんやりと眺める。



足を止めて、小さく頭を振りそれでもなんとか冷静を保とうと頑張ってみる。



ふと、思い出す夏穂ちゃんの面影。



高校の制服を着た夏穂ちゃんは、確かにめちゃくちゃ可愛い。


太陽みたいに明るい性格でそれでいて優しく、隣にいればいつでも安心出来た。



目を伏せれば、いまにも夏穂ちゃんが走ってきて私の名前を呼ぶ。



なんて光景は私から手放した。


彼女は普通の女の子だもの。



私には、絶対に忘れらない無二の友達で幼馴染で、大切な人。



もし夏穂ちゃんだとしたら、先生になったんだね。


あの時の願いが叶ったんだ。


頑張ったんだね、良かった!


思い出に浸りながら思わず安心する。



出来たら見てみたいな夏穂ちゃんの先生姿。


そっと見るだけでも駄目かな?



「随分ゆっくりですね?神無月さん。」


深くて、どこか優しい声のする呼び掛けに我に変わった。



身体の向きを変えて立っている人物へ視線を向ける。



「………………げっ。」


思わず出た声に目の前にいた人物の顔が引き攣っていた。

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