第8話

等身大の鏡が置かれてある所まで歩き、側には小さなカラーボックスがある。



その上に髪を梳かす櫛を手に取る。



腰まで伸びている髪を丁寧に梳かし編み込みヘアーを作り上げていく。



“いかにもおとなしい高校生“



あの男からの提案だった。



私の存在は、あの世界の人達にとっては面白くないらしい。



はあ、そうですか、と言いたいけれど飲み込むしかない。



まあ仕方ないのかもしれない。



人間と吸血鬼の血が混ざっているだなんて。



私だって認めたくない。




でも、時々無性に欲しくなる。




血の臭いをどこかで欲しくなるんだ。




これは、私は覚えてはいないけど、小さい頃から無意識に求めていたらしい。





時々、あの夢も見る。





真っ赤な血の海の中に小さな女の子がいる。



その娘は楽しそうにはしゃいでいる。



普通では考えられない程のおびただしい血の海なのに、なんの躊躇いもなく片手で掬うんだ。



掬った掌の隙間からは、雫のように零れ落ちる血の雫。




それを、キラキラと瞳を輝かせて見る小さい女の子。



やがて、それを口の中に入れる。



惚けた顔で口を大きく開けて、味わうように少しずつ垂らしていく。



普通の飲み物のように、喉の動きが鮮明に見える。



掬った分だけ飲みほしたら、ちらりと視線を変えて私を見る。



その小さい女の子は、私の小さい頃の姿そのもの。




【美味しいよ?甘くて、甘くて、お菓子みたい!】


小さい女の子とは思えないような妖艶で綺麗に笑う。



【欲しいでしょ?】


誘うような目で私を見る、小さな女の子はクスクス、クスクス、鈴を鳴らしたような可愛い声で笑う。




それは今も見る夢だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る