ルミナフラウの夜をめざして
翌朝。
気がつけば、すっかりこの街での生活にも慣れてきていた。
宿屋の食堂で軽い朝食をとって、支度を整えたところで、店主が声をかけてきた。
「おはよう、お二人さん。
今日はお祭りだよ。
そっちは行かないのかい?」
「……お祭り?」
思わずレインと顔を見合わせる。
「ルミナフラウの祭りだよ。知らないかい?
西区の大木に咲く花でね、一年のうち数日しか咲かない珍しいものなんだ。」
「ルミナフラウ……?」
どこかで聞いたことがある名前だ。
「ねえ、それってハルトの盾の紋章になっている奴じゃない?」
レインが僕の盾を指さして言った。
そういえばそうだった、確か縁起が良いとかなんとか言っていた気がする。
「ほぅ、確かにそんな形をしてるね。」
店主も僕の盾を見て言った。
「それで、その花が満開の頃に、西区の広場で露店が出るんだよ。
祭りって言っても何か大きな催しがあるわけじゃないけど、いい雰囲気でね。
夜には魔導灯で花を照らすんだ。月明かりに輝くみたいで綺麗だよ。」
「わあ……見てみたい!」
レインが目を輝かせた。
「ルミナフラウは祭りの翌日には教会の人達が採取してしまうんだよ。
なんでも女神の癒しの力が込められた花らしくて、薬の原料になるそうだよ。
だから、採取してしまう前に、せっかくだからみんなで見ようって趣旨のお祭りだね」
「じゃあ、今日しか見れないってこと?
急いで見に行かなきゃ!」
レインが今にも飛び出しそうな勢いで言った。
「まあまあ、落ち着いて。
まだ準備中だからね。
夕方ぐらいから賑やかになるよ。
そんなに慌てなくても大丈夫。」
「なるほど、じゃあダンジョンに行ってからで良さそうだね。
でも、念のためちょっと早めに切り上げようか?」
「そうね、でも、露店がでるなら色々食べたいし……6〜7体は倒したいかも」
先ほど朝食を食べたばかりなのにお腹をさすりながらレインは言った
「無理は禁物だね」
教えてくれた店主に礼を言って、そのままダンジョンに向かった。
ダンジョンへ向かう途中も祭りの話題が絶えない。
「お祭りの露店って何が売ってるのかしら?
私の村の祭りって、小麦の収穫後の収穫祭くらいで、
小さな村だから露店なんてなかったし……」
「うーん、僕が想像する露店のイメージだとたこ焼きとかかな。
でも、こっちでたこ焼きがあるとは思えないけど・・・」
「たこ焼きってなに?」
レインが興味深々という様子で聞いてきた。
「うーんと、小さく切ったタコを小麦の生地で包んで、丸く焼いた食べ物かな…?」
自分で言ってて、これ多分伝わらないなって思った
「タコってなに?」
「え!?
えーと、海に居て足が8本ある、赤いグネグネした生き物かな…?」
「………」
レインの方を見ると、完全に足が止まっている。
「私、たこ焼きが売ってても食べないわ・・・」
すごく微妙そうな顔をしている。
「いや、多分こっちにはないと思うから大丈夫だよ」
お祭りの興奮に水を差してしまったようで申し訳なくなる。
そんな会話をしていたら、ダンジョンの入り口が見えてくる。
今日もまた、命がけの仕事が始まる。
でも、その先に“夜のお祭り”というご褒美があるだけで、ほんの少し気持ちが軽くなる。
「よし、行こうか、レイン」
「うん!」
そして、僕たちは今日もまた、ダンジョンの闇へと足を踏み入れた――。
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