第3話~廃墟の女の子~
深夜二時。
私〈和葉〉は、仲間と四人で廃墟にいる。
大学サークル内の仲間なのだが、心霊スポットと呼ばれる廃墟に来るのは実は二回目だ。
前回は心霊トンネルと呼ばれるスポットに行ったのだが、何も起こらずに、今回はバージョンアップとして、四人で廃病院に訪れることになった。
四階建ての病院であり、噂では院長が実の孫娘を殺害し、自ら院長室で自害を遂げており、その女の子と院長の霊が彷徨っていると聞いたことがある。
結局、霊の噂を聞きつけた患者が次々に他の病院に転院をし、経営難に陥ったため、廃業したと言われている。
私は決してオカルト系を信じているわけではない。
むしろ霊という存在は科学では証明されていないため、ただの妄想ではないかと思っている。
しかし、他の三人は霊という存在を信じているため、廃墟に着いた途端からかなり怖がっている。
こんな存在もしない者に何を怖がっているのか。
私には分からないが、ライトを照らしながらも前を進んでいく。
やはり廃墟化しているのもあり、待合室はかなり椅子やカルテなどが荒れ放題となっていた。
「おい、ここかなり荒れてるな」
そう言ったのはリーダー格の〈智之〉という男性だ。
大学でもムードメーカーとして、立場を確立しており、彼の周りにはかなりの仲間がいる。
少しインドアの雰囲気をまとっている私にとっては、羨ましい限りだ。
「ちょっと怖くない」
今度は〈里香〉が喋り出した。
里香も女子の中ではかなりアウトドアの域に入っており、〈里香派〉という派閥があるなど、かなりの仲間と地位に恵まれている。
「やっぱり帰らない?」
そう言ったのは〈絵里〉だ。
絵里は私に似てインドア系の女子であり、私とは親友同士でもある。
絵里の紹介で〈里香〉と〈智之〉と友達になってからは、かなり有意義な時間を過ごしていたが、心霊スポットとなると、また話は別だ。
別に心霊スポットに行くために仲良くなったわけではない。
一緒に有意義な時間を過ごせると思ったからである。
まぁそんなことをこの二人に言ったところで何もならないため、仕方なくついてきている。
何をそんなに怖がっているのか分からずに前を進んでいると
「ねぇ、和葉」
「どうしたの絵里」
「ここの噂気を付けた方が良いわよ」
「どういうこと?」
「女の子出るって言ったじゃん?」
「うん」
「その女の子。憑りつかれたら一生離れないみたいだよ」
「何それ、冗談やめてよ」
「本当よ」
「どうせ作り話だよ。一生離れないんだったら逆に出ないから安心だね」
そう言って前を進み続けた。
絵里までオカルト系を信じているとは思わなかった。
しかも、かなり怯えており、目線がうろついている。
まぁ半分はこの子が心配でついてきたのもあるのだが、それにしても怖がりすぎである。
最初に訪れたのは手術室だ。
二階にあるのだが、メスや器具などが散乱しており、とても危険な状況だ。
「こんなところにメスを落とすなんて、危機管理がなってないわね」
「しょうがないじゃん。廃墟なんだし」
そう言って里香が周りをライトで照らした。
「廃墟でも、なんで建て壊ししないのかしら。廃墟になって結構経つって聞いたわよ」
「どうやら、建設業者がここに近寄りたくないみたいよ。ほら、廃墟ってさ。事故多いじゃない」
「それは迷信よ。さっさと壊せばいいのに」
「でも、壊したところで怨念とかは残るじゃない。だったらあった方がさ。こうやって探索にも来られるじゃない」
「バカバカしい」
私はそう言って手術室を出た。
建設業者が入らない理由も今一つ納得が出来ない。
こうして放っておくからこそ、こんな勝手に侵入する奴らが増えるのだ。
私も人のことは言えないが、今後の事を考えて、違和感がかなり感じていたのだった。
次は四階の院長室に入ることにした。
中は賞状やトロフィーなど、いかにもトップの部屋の雰囲気を覚えたのだが、一枚の写真が目に入った。
そこには恐らく院長と思われる男性と、一人の少女が笑顔で写っていた。
「それが院長か」
智之が顔を覗かせた。
「そうね。恐らく少女が例の女の子だと思う」
「笑顔で写ってるなぁ」
「でも、なんか変だと思わない?」
「何が?」
「こんな二人揃って笑顔なのに、何故そんな事件が起きたんだろう」
「まぁ、笑顔の裏にも何が隠れてるか分からないからな」
「そうかな」
確かにそれもそうか。
だが、病院が経営難だったという話ではないし、噂によると突発的な犯行だったと聞く。
一体何が起きたのだろうと思い、しばらく探索していると
「ねぇ、これを見て」
里香がいきなり棚の中から何かを発見した。
それはどうやら遺書らしきものだった。
「これ、院長のものじゃない?」
「確かにそうだな」
そう言って智之が勝手に封を開けて読み始めた。
私は慌てながらも
「それダメだよ。勝手に開けたら犯罪よ」
「良いんだよ。バレなければなんでもOKなんだよ」
そう言って読もうとするが、夜中でもあるため
「何も見えないな。なんか書いているんだけどな」
そう言うと、里香がライトで照らし始めた。
「全ては恨みを晴らすため。全ては両親に・・・」
そう書かれており、なんだか不気味さを感じたため、智之はその紙を破り始めた。
封を勝手に開けて破り捨てたことに、私は不安を覚えた。
「これバレたら捕まるわよ」
「廃墟に警察は来ねぇよ」
そう言って部屋を出て行った。
まず勝手に入っている時点で、ばれたら大目玉を食らう。
私はそれが一番の不安材料に思いながらも、部屋を出てからライトを照らし、ゆっくりと進んでいくと、智之の声で
「おい、誰か通り過ぎなかったか?」
「え?」
四人は一斉に奥の廊下に目線を向けた。
ライトを奥まで照らす。
すると確かに女の子らしき小さな影が立ち尽くしていた。
「誰なのかしら」
里香がそう言うと、智之が
「ちょっと近づいて行こうぜ」
「やめてよ。襲ってきたらどうするのよ」
「大丈夫だよ。ちょっと声をかけるだけだよ」
そう言って智之は奥まで進んでいく。
ただ先ほどまで何も音がせずに静かだった周りが、なんだかざわめきに変わったのが分かった。
他に誰かいるのではないか。
そう思い、ライトを他に照らすがやはり誰もいない。
気のせいかと思いつつも、智之の方について行くと、確かに女の子がうずくまっていた。
この時間に女の子がいるはずがない。
家出か。それとも迷子なのか。
まずい、あまりにも非現実的な光景を目にしているせいか、普通の危機管理の能力が働かない。
だが、これは恐らくまずい状況なのは確かだ。
私は智之に
「ねぇ、これまずいかもよ」
「何がだよ」
「こんな時間に女の子がいるの、変よ」
「だから、霊なんだってば」
「いや、違うと思う」
「いいじゃん。話のいいネタになるんだからさ」
そう言って智之は少女の隣にしゃがみ込み
「ねぇどうしたの?」
すると少女がゆっくりと顔を上げた。
丁度私の方に目線が行くと、少女は涙を流しており、こちらをじっと見ていた。
やはり家出のしたのかもしれないと思い、私もしゃがみ込んで
「どうしたの? お家はどこ?」
すると少女は薄っすらと微笑んでいていた。
一体何故微笑んだのだろうか。
不気味さが一気に心を突かれた瞬間。
「あなたに決めた」
そう女の子が言うと、勝手に腕が動き始めた。
すると近くに落ちていたメスを拾い上げて、智之目掛けて振り下ろした。
智之はそのまま倒れ込んで血を流し始めた。
そのまま今度は里香の腹部にメスを刺し込んだ。
一体どういうことだ。
手が勝手に動いており、勝手に友達を刺し殺していく。
これはまずいと思い、手を止めようとするがダメだ。
すると腰を抜かしている絵里に近づいており、怖がりながらも
「何よ。どうしたの和葉」
「私も分からない。勝手に手が動くの」
「何言ってるのよ」
そのまま手は動き始めて、絵里に向けて振り下ろした。
私の目の前では絵里が血を流して倒れている。
一体どういうことなのか。
理解が追い付いていないまま、女の子が目の前にやってきて。
「ダメだよ。こんなところに来ちゃ」
「すいません。今から反省します」
私はカタコトで言っている。
この言葉は何。
反省をするって、そんなこと頭では想像していないし、勝手に言っているのだ。
すると、持っていたメスが次第に自分の首目掛けて近づけてくる。
私はあまりにも恐怖になり
「なんだって言うこと聞くから、私だけはやめて」
そう言うと、手が止まり、メスが手から落ちた。
その瞬間、手も自分で動かせるように戻り、女の子が抱きついてきた。
「だったら一緒にいて」
「え?」
そこから女の子が離れなくなり、私はすぐに察した。
これはもしかしたら、一生ここから出られないかも・・・
しばらくして通報を受けたのか、警察がやってきた。
だが、三人の死体は見えているのだが、私のことは一切見えていない。
私は死ぬまで・・・いや、永遠にこの場所にいるのだ。
オカルト系を信じない私が、体験した今現在の向こうの世界からの話です。
~終~
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