第2話~謎の郵便局員~

私〈美咲〉は毎日、謎の手紙で悩まされている。


それも毎日。


子の日々が一か月続いている。


手紙には何も書かれておらず、真っ白な一枚の紙だけが手元に残っている。


それもここはマンションであり、それも九階の角に部屋があるのだが、ドアポストに直接投函されているのだ。


マンションには集合ポストもあるというのに、わざわざドアポストに投函をしている。


とても不気味だ。


最寄りの郵便局に相談を持ち掛けたが、一切そんな配達をしていないとの一点張りであり、押し問答になっても仕方のないため、私は相談をやめた。


次に警察に相談をしたが「事件が起こらないと何も動けない」との一点張り。


この時の警察はかなり使えない、ただの相談窓口の感覚を覚えた。


だが、その手紙には郵便局のロゴがしっかりと記載されており、これを「知らない」と郵便局側が言うのがおかしなことだ。


しかし、証拠を提出しても「知らない」との一点張り。


何か不思議な世界に迷い込んだのかと思う始末。


とある日の夜。


私は恋人である〈雄二〉に相談をした。


雄二はなんでも素直に聞いてくれるため、とても頼れる存在の一人であるのだ。


「それで、その手紙はいつ投函されてるの?」


「分からない。深夜なのは確か」


「そうか。だったら確認してあげるよ。夜中でしょ」


「大丈夫? 深夜っていってもいつか分からないわよ」


「心配するな。明日休みだし」


「ならいいんだけど、変な人だったらすぐ言ってね。私警察呼ぶから」


「ありがとう」


雄二は本当に頼れる存在だ。


いつか男性にナンパをされたことがあった。


そんなときも彼はすぐに助けてくれて、その男性を追い払ってくれた。


彼女が危険な時こそ、男気を露わにしてくれる彼に、とても敬意と愛情を覚えた。


私は微笑みながらも


「コーヒー飲む?」


「じゃあ甘口で」


「了解」


そこはまだお子様だ。




夜中、私も心配になり本を読みながらも彼の動向を見守っていた。


彼からは「早く寝な」と優しい口調で言ってもらったのだが、私は彼の身に何か起こるのが嫌であるため、不安で余計に寝れない。


いつもは本を読んでいると、自然と睡魔に襲われるのだが、今日はなんだか睡魔も吹き飛んでしまった。


ただ近くにかけている時計の音が部屋を小刻みに鳴らしているだけだ。


すると廊下を誰かが歩いている音が聞こえて来た。


こんな時間に誰かが来るわけがない。


それもここは角部屋であるため、誰かが来るイコールこの部屋に用があるということだ。


私と彼は玄関の方向を注視した。


彼はいつでも駆け付けられるように、部屋のドア傍にいて様子を伺っている。


すると、玄関ポストに何かを入れる音が聞こえてきたため、彼が飛び出して玄関ドアを全速力で開けた。


しかし、何も声も聞こえてこず、玄関ドアだけを閉める音が聞こえて来た。


少し神妙な面持ちで戻って来た彼が、手元に例の手紙を持っており


「ダメだった」


「いなかったの?」


彼がゆっくりと頷く。


「その手紙、渡して」


「いや、俺が開く」


「じゃあ・・・お願い」


彼氏が手紙を開けて一枚の紙を見始める。


すると彼は目を見開きながらも、私に見せて来た。


今まで白紙だった紙が、一文字だけ書いてある。


「死」


この文字がはっきりと映し出しており、私は恐怖で唇を震わせながらも


「何、それ」


「これ危険かもな。明日警察に行ってくる」


「無駄よ。何も動いてくれないわ」


「流石にこの文字は危なすぎる。警察もきっと動いてくれるだろう」


「ならいいんだけど」


私も明日仕事があるのだが、休む決意をした。


こんな殺害予告とも言える文章が送り付けられた以上、安心して通期などできるはずがない。


私も彼と警察署に同行することにした。





翌日。

警察署の生活安全課にて刑事〈有本〉が対応してくれた。


以前はこの刑事が担当ではなかったため、少し不安の気持ちでいっぱいだったのだが、有本はしばらく紙を眺めて


「これはいつからですか?」


「手紙が来るようになったのは一か月前です」


私が説明をすると、有本は少し眉間にしわを寄せてから


「その時は白紙で」


「そうです。何度もこちらに相談をしたのですが、中々対応してくれなくて」


「うーん。確かにこれは殺害予告ともとれる文字です。警察官を二人ほど配置しておきましょう」


「ありがとうございます」


やっと警察が動いてくれた。


私の心は安心感で包まれており、同行をした彼も安堵の表情を浮かべている。


これで悩みは解決と思われていると


「一つよろしいでしょうか」


「なんですか?」


「この郵便局のマーク。ちょっとおかしな点があるのです」


「マーク?」


「よく見ると、このマーク。現在使用されてないんです」


「え?」


「現在使用されているのは、こちらです」


そう言って現在の郵便局マークを見せてくれた。


確かに微妙に違う印象を覚えた。


「これは、十年前で使われていたマークであり、当時国営だった頃のマークです」


国営時代のマークが、何故あの手紙に。


いたずらで付けているとは思えず、何か意味があるのかと思ったのだが、これといって浮かばない。


そうなると、現在の民営化になった郵便局員とはまた違う人間が配達をしているのだろうか。


かなり不気味さを覚えながらも有本に


「どういうことですか」


「そうですね」


しばらく私の顔をじっと見つめてから


「あなた、口固いですか?」


「はい」


「実はここだけの話。このマークをつけて白紙の手紙が来る事案が続出してます。その被害者の女性や男性は、次々と謎の死を遂げています」


「え?」


「それもその場に残されていた手紙には「死」という文字が」


「嘘・・・」


「失礼ですが、あなた今年で何歳に」


「三十二です」


「実は被害者全員、三十二歳なのです」


「・・・」


思わず言葉を失ってしまった。


私にそんな捜査機密を教えるということは、まだ犯人は捕まっていないのだろう。


しかし、このことを聞いた私にとっては不安がさらに高まってきた。


「あの、警察官の方を増やすことは」


「本来は無理というしかないのですが、ここまで被害者が出てるため、私の責任ですがそうしましょう。一応先ほどは二人と言いましたが、五人ほど警察官を増やします。それで安全を確保します」


「ありがとうございます」


これは運がいいと言っても良いものなのか。


被害者の方々には申し訳ないが、私は助かりたい気持ちがあるため、有本の提案に甘えさせてもらうことにした。




その日の夜。

私はあまりにも眠れずに、コーヒーを飲みながらリビングでじっと待機していた。


流石にこんな状況で安心して眠れるはずがない。


彼も寄り添ってくれているのだが、それでも安心はできないのだ。


対面の席に彼が座り、コーヒーを飲みながら


「大丈夫か?」


「うん。大丈夫」


「そうか。無理するなよ。俺が付いているか寝ても良いからな」


「うん・・・」


自分の命がかかっているのに、そんな簡単に寝てはいられない。


すると携帯が鳴り響いた。


私はすぐに出ると、相手は有本だった。


「もしもし、有本ですが、現在どうですか?」


「まだ何も」


「こちらも現在マンション玄関を見ていますが、特に怪しいものは確認できません。ですが、いつ入って来るか分からないため、見張りは続けます」


「よろしくお願いいたします」


そう言って電話を切った。


頼れる刑事に当たったことに凄く喜びを感じながらも、ふと気になり玄関の方を向くと、ドアポストに何かを入れる音が聞こえた。


それと同時にインターホンが鳴り響いた。


恐らく警察の目を盗んで入ったのだろう。


恐怖心が蘇りながらも、玄関ドアの方を見ると、彼が


「ちょっと出てくる」


「ねぇ危ないわよ」


「大丈夫。こう見えて空手三段だから」


そう微笑んでから、玄関の方に向かって行った。


玄関ドアを彼が開けると、目の前に誰かが立っている。


服装は暗くてよく分からないが、彼は冷静に話をしている。


すると突然彼が動揺し始めて、すぐに扉を閉めようとしたが、中々閉まらずに再びドアが開かれて、彼がこちらに走ってきた。


「美咲、逃げろ」


「え?」


「分からない。郵便局員なんだが「迎えに来た」とかわけわからないこと言ってるんだよ」


「え?どういうこと」


「だから・・・」


すると彼は呆然と立ち始めて、口から出血をし始めた。


後ろには完全に郵便局員の恰好をした人間が立っており、そのまま包丁を彼の背中から抜き始めていた。


彼はその場で倒れ込み、郵便局員だけが私に近づいてくる。


服装的には完全に今の郵便局員の恰好ではない。


顔は帽子と部屋の微妙な明るさに隠れており、ただゆっくりと近づいてきた。


「誰なの。私に何の用なの」


すると郵便局員は声を低くしながらも


「迎えに来た」


「どういうことよ」


「忘れたのか。十年前の約束を」


「約束?十年前?」


その時、何かを思い出した。


十年前、大学に通っていた際、仲間内でオカルト系の噂に乗っかり、十年後の手紙を出した。


三十枚は白紙の手紙、そして最後の一枚には「死」と書いた手紙。


この「死」が届けば、確実に死ぬという噂を誰かが耳にし、これを実行したのだが、まさか今回の事件の被害者は私の大学の仲間なのか。


そうなると郵便局マークの辻褄も合っている。


そう思った瞬間、背筋に冷や汗が出始めていた。


「違う、あれは噂よ」


「噂じゃない。あれは本当だ」


「やめて」


私はあまりにも恐怖に、すぐに郵便局員を振りほどき、玄関ドアを開けて廊下を全速力で逃げた。


すぐにエレベーターに乗り、一階ボタンを押した。


すぐにエレベーターのドアが閉まり、動き始めた。


恐怖のあまり、耳の中にはあの郵便局員の声だけが残っている。


あれは単なる噂を元にした遊びであり、本当に現実であるとは思ってなかった。


それも被害者で死んでいったのは、仲間だと思うと、足がガタガタと震え始めていた。


エレベーターが停まり、扉が開くとそこにはあの郵便局員の姿があった。


私はつい腰を抜かしてしまい


「やめて、やめてよ」


「ダメだ」


「でも玄関には警察がいるのよ。私が叫べば助けが来る」


「無駄だ」


「え?」


「俺の姿は誰にも見えない」


そう言って持っている包丁を振り上げた。


私は叫び声を上げたが、誰も助けに来ず、その包丁はそのまま私の胸に目掛けて振り下ろされた。


その後の記憶はない。


目を覚ますと、そこは真っ暗な世界だった。



~終~

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