3 残されていたロボット

 場所によって通信が届かない事はよくある。まあいいかと思いゆっくりと扉を開けた。そこに広がっていたのは自分たちの宇宙船よりもかなり広い部屋だった。荷物はほとんどなく何かの研究室だという事はわかる。


「物々しいなあ。合成生物とか作ってないでくれよ。あ、水?」


 壁際にあったのは水の精製装置だった。あの型式は見たことがある、何せトップシェアを誇る有名なメーカーだ。電源が回復すれば水の精製ができるはずだ。廃液の浄化システムまで完備している、宝の山のようなものだ。その装置に向かって歩き出そうとした時だった。


「止まりなさい」


 突然声が聞こえた。条件反射ですぐに止まる。こういう時は絶対に動かないほうがいい、動いたら即殺されるのはこの世界では常識だ。

 薄暗いのでわからなかったが、よく見れば部屋の中央には一体のロボットがいた。ロボが壊れた設備内で動き回っているのもよくある話なのでこれといって驚きではない。


「侵入者」

「あ、はい」


 ポカンとしたまま思わずそう答えてしまった。


「ここから先は通しません」


 そう言って通せんぼをするように両手両足を広げる。完全な人型というわけではなく、いかにもロボットだとわかるようなフォルムである。球体に手足がついていて、関節が複数あるので細かい動きが得意なのだろう。

 形状からするとセキュリティロボットではなさそうだ。侵入者を排除するような戦闘行為ロボだったらもっと殺意の高い見た目をしている。


「ちょっとお邪魔します」

「あ、話聞いてました!?」

「聞いてた聞いてた」


 そう言ってアニタはロボットの上をひょいとまたいだ。何せこのロボットかなり小さい。子供であるアニタの膝より下の高さしかないのだ。


「あー、またいだ! 傷つきます!」

「そんなこと言われても。その、ちょっと邪魔だったし」

「き、傷つきました!」


 慌ててアニタにしがみついてきた。重いと言えば重いが無理矢理歩くことができる。足にしがみつかれたところで歩行を邪魔することはできない。


「止まってください、それ以上進まないでください!」

「ちょっとそっちに用事があるからさ」

「自爆しますよ!」

「こわ!?」


 思わず足を止めた。しかしほんの数秒考えてからポツリとアニタがつぶやく。


「あのさ、本当は自爆なんてできないでしょ」

「う!? なぜそう思うのですか!」

「いや、言っちゃなんだけど。君が自爆してもあまりメリットない気がして。施設を破壊できるわけでもないし、敵を完全に殺せるわけでもなさそうな」

「……」

「そもそも宇宙空間にある施設で自爆って、ロボットには絶対入れないシステムじゃん。旧世代の人類たちの考え方じゃないんだから」


 宇宙において火薬はもちろん爆発、銃でさえ御法度のところは多い。惑星では無いのだ、ほんの小さな亀裂があっという間に劣化して施設を破壊する原因になる。そのため相手を始末するのは麻酔銃と毒が主流になっている。

 すらすらとそんなことを言えばロボットは膝からゆっくりと降りてトコトコと歩いていくと、部屋の隅でコテンと横になった。


「とっても傷ついた……」

「あ、ごめん」


 その仕草が本当に人間のようで思わず謝ってしまった。その言葉を聞いてロボットはゆっくりと立ち上がる。


「馬鹿にするのではなく謝るのですか。あなたいい人ですね、もうちょっと空気を読んだ発言をしてもらえればもっと良い人になると思います」

「相手が何を感じるかって探りながら言葉を選ぶの苦手なんだよ。思った事は口にしないと相手に伝わらないから」

「真理です」


 突然ガス噴射してくるタイプもいるが、どうやら本当に戦闘用ロボットでは無いようだ。仕草も非常に人間に寄り添っている、こういうのはペットや人をサポートする役割の傾向が強いのでやはり産業用ロボットなのだろう。


「あの、俺水が欲しいだけなんだけと」

「水?」

「そっちにどんな大切なものがあるのか知らないけど、とりあえず近寄らないようにするから」


 びくりと体をふるわせる。そんな仕草までするあたり、このロボットの開発者は相当このロボを人間に寄せて作ったようだ。


「な、なな何故! この先に重要なものがあるとわかったのです!?」

「重要なものがあるっていうのはたった今教えてくれたからわかったけど」

「あ!」


 しまったという様子でご丁寧に手で口、にあたるスピーカーを押さえ込む仕草までした。


(ロボットが会話で相手のペースに乗せられるって、ありえるのか? いや実際に今起きてるけど)


 普通プログラム通り返答しているので、うっかり口を滑らすなどという事は無いはずなのだが。今までに見たことのないタイプのロボットだ。


「だって、近づくなっていうから。近づいて欲しくないなら大事なものがあるじゃん」

「う」

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