第5話:帰ってきたおじさん
朝、小夜は目を覚ました瞬間、胸がざわついた。
(……なんだろう、この違和感)
時計を見ると、もう登校ぎりぎりの時間。
慌てて制服に着替え、キッチンに駆け込むと、母が朝食の片付けをしていた。
「お母さん、おじさん見なかった?」
「ああ、尾路さん? 朝早くに出ていったわよ。テーブルにお礼ってお金置いて」
「……え?」
あまりにあっさりした答えに、小夜は思わず固まった。
(え……何それ、そんな簡単に消える!?)
祖父の和室を覗くと、布団はきれいに畳まれ、荷物もない。
玄関にも靴がない。
(やっぱりいない……)
学校では一日中ぼんやりしていた。
授業中はノートを取る手も止まり、友達に「小夜、顔色悪いよ?」と心配されても、「う、うん……なんでもない」と笑うしかない。
(昨日まで一緒に唐揚げ食べて、普通にしゃべってたのに……
もしかして……なんか気になること言っちゃったかな……)
帰り道、空を見上げると夕焼けが広がっていた。
家の前まで戻ってきても、心のもやもやは晴れなかった。
(はぁ……)
「……ただいま」
靴を脱いで、なんとなく重い足取りでリビングの扉を開ける。
その瞬間、小夜の頭が真っ白になった。
そこには、ドラマの中から出てきたようなスーツ姿の細マッチョのイケメンが座っていた。
きれいな顔立ち、爽やかな短髪、広い肩幅、引き締まった胸板。
まるで雑誌の表紙から抜け出してきたような男。
「おかえり、小夜ちゃん」
「……だ、誰?」
混乱する小夜の横から、母がすぐに飛び込んできた。
「何言ってるの、小夜! 尾路さんよ!!」
「いやいやいやいや!?!?!?」
小夜は慌てておじさんの袖を引っ張り、母に聞こえないよう小声で詰め寄る
「……ど、どうなってるんですか!? 尾路さん!!」
「ん? 魔法で時間の流れいじって、筋トレしてきたんだよ」
「……は?」
「向こうの時間で三ヶ月分くらい鍛えたから結構引きしまったでしょ?」
「いや、簡単に言わないでくださいよ!!」
そんな小夜の混乱をよそに、母は頬を赤らめ、キラキラした目で尾路さんを見つめていた。
「あ、あのっ、尾路さんっ、今夜も、よかったらご飯どうですかっ?」
「い、いえ……そんな昨日までお世話になったばかりで、これ以上ご迷惑を——」
「もうっ!そんなの気にしなくていいんです! お肉ありますし、ステーキ焼けますよ!?ね、小夜!」
「いや昨日までそんなの出たことないのに!?!?」
小夜は頭を抱えた。
(な、なんでこんなことになってるの……!)
昨日までのお腹ぽよぽよおじさんはどこに行ったのか。
魔法で筋トレして細マッチョ化なんて意味がわからない。
そのうえ母が、完全にテンションおかしくなってる。
「ステーキ、何グラムくらいがいいかしら……やっぱり男性だと300グラムくらい……?」
「いやいや、なんでお母さんノリノリなの!!」
結局おじさんは断りきれなくてステーキを食べることになった。
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