三日前私を助けて意識不明になったオジサン、異世界転生してた。
@yamaha_kamemaru
第1話:おじさんと私
三日前。私、
轢かれかけただけで、実際には轢かれていない。
その代わり、私を助けた見知らぬおじさんがもう三日も意識不明である。
今日はおじさんのお見舞いにきた。
病室に行くと殺風景な病室にベットが一つあり、おじさんにはたくさんの点滴がつながれていた。
明かりはついておらず、心電図のモニターが怪しく光るだけだった。
酸素マスク越しに見えるおじさんの顔は、あの日雨の中救急車で運ばれていくのがみえた、その人だった。
私は罪悪感でいっぱいだった。このままこのおじさんが死んだらどうしようとずっと不安だった。
看護師さんにきいた話では、おじさんに連絡がとれる家族はいないらしく、この三日間私以外のお見舞いはないらしい。そして、お医者さん曰く今晩が峠らしい。
このままおじさんが死んだらあまりにかわいそうだ…。
おじさんに死んで欲しくない…。
私はおじさんが死なないために自分が何かできないか考えた。
一生懸命考えたが、私にできそうなことはなかった。
高校二年生の私にできることなんて何もない…。
そう思ったとき、ふと「眠りの森の美女」を思い出した。
王子様のキスでお姫様が目を覚ます子供向けの物語。
そんなものはただの童話で作り話。そんなことは分かっていた。でも、もう私にできることはそれくらいしかないと思った。
私はベットに横たわるおじさんに近づく。
「おじさん。死なないで…」
私はおじさんのマスクを外し、代わりに自分の唇を重ねた。
一秒、二秒、三秒…時がゆっくり流れていく。
「うまく行くわけないよね…」
おじさんはやっぱり目を覚まさなかった。物語のようにうまくはいかない。
私が酸素マスクを戻し帰ろうとしたその時、いきなり心電図がアラームを鳴らし始めた。
おじさんの心臓が今まさにとまろうとしてるのかもしれない。
「おじさん!」
私は急いでナースコールを押す。
私がマスクを外しちゃったから…?どうしよう。そう考えてると、アラームがぴたりと止まった。
「え…?」
驚いておじさんの方を見ると、おじさんは目がうっすらと目を開けていた。
「おじさん!おじさん分かりますか!」
おじさんの目が少しづつ、でも確実に開いていく。
「おじさん!ここ病院ですよ!」
そう言うとおじさんは周りをきょろきょろして、身体を起こそうとするが痛みで身体が起こせないようだ。
「大丈夫ですか!どこが痛いですか!」
私が必死に質問すると、おじさんが口を開いた。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
「え?なんですか、もう一回お願いします!」
「■■■■■■■■■■■■■■■」
おじさんはもう一回なにかを言ったようだが、私には聞き取れなった。
日本語じゃなかった気がする。
するとおじさんはまた周りをきょろきょろみてこう言った。
「そうか、俺帰ってきたのか…」
「え?どういことですか?」
「いや、どうもこうもないというか…。ア、イタタタ…。それより、あなたはどなたでしょうか?」
おじさんは身体の痛みを確認しながら、私に質問してきた。
「私、佐藤小夜と申します。高校二年生です。三日前トラックに轢かれそうになったところをおじさんに助けていただきました。なんとお礼を言っていいやら…」
「あーあの時の。そうかもう随分昔な気がするな…。だから身体が痛いのか…」
「大丈夫ですか…?もうすぐお医者さん来るはずなのでもう少し待っててください」
もうナースコールを鳴らして1分は経っている。そろそろ来てもおかしくない。
するとおじさんが小声なにか言い始めた。
「…精神と記憶が保たれている以上、こっちでも使えてもおかしくないよなあ…。試してみるか」
「どうしたんですか?」
「■■■■■」
おじさんがまた何か知らない言語を発したその瞬間、おじさんの身体がまばゆい光につつまれ暗かった病室に一気に光があふれた。
光が収まると、おじさんは点滴を外し始めた。
私はあっけにとられてしばらく眺めるだけだったが、我に返っておじさんを止めた。
「ちょちょっ!何やってるんですか!」
「いや治したから、帰ろうと…」
「何言ってるんですか!おじさんトラックに轢かれて全身骨折、頭蓋骨陥没に内臓もめちゃくちゃで助かる見込みはほとんどないってお医者さんに言われてたんですよ!そんなすぐに治るわけ…」
必死に止めるが、おじさんは心電図も外し帰り支度を始めていた。
「言っても信じないと思うから言うけど、僕トラックに轢かれて異世界に行ってたんだよ。そこで色んな能力を手に入れてね。だからこの通り傷もすぐ治せるわけ」
「やっぱり頭打っておかしくなってますよ!精密検査しましょう!」
「いやおかしくなってないから。めんどうだな…。オーク撒いた時みたいに眠ってもらおうかな…」
今なんか小声で失礼なこと言われた気がする。
そんな感じでお医者さんが来るまでおじさんと私の問答が続いた。
これが私とおじさんとの出会い。
おじさんとの奇妙な関係が続くきっかけの物語。
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