第5話 入り口町



 ポータルを抜けて地上に出ると、入り口町になる。

 ダンジョンの出入り口を無防備にするわけにもいかないし、ダンジョン街はそこまで広くないから外に出せるものは外に出してしまおうということで入り口町ができた。

 一応、俺の領地ではある。

 実際に管理しているのは任命している町長一族なので、ここのことはほとんど知らない。

 報告書が来てるはずだけどね。

 でも、俺はヴァスカールの確認が終わった書類にサインするだけだからね。

 よくわからない。

 領主になった時にいまの町長に挨拶されたぐらいだ。


 まぁでも、今回の嫁探しの旅について知ってるかどうかは……知らない。

 きっと、ヴァスカールがうまくしてくれてるはずだよ。


「町を出入りする通行証はもらってるし、このまま外に出てもいいんだよな?」


 町の外は……このまま道なりに進んでいればよさそうだし……。


「ちょっと待ってよ!」

「おっと」


 さあ行くかと思ったところで、そんな大声に足止めされた。

 なにかと思えば、ポータル側にできた馬車の列の前で女性と男たちが揉めている。


「こんなところでいきなり仕事を放棄するとか、訳がわからないんですけど⁉︎」

「だから、悪いと思って違約金も払うって言ってるじゃないか」

「そういう問題じゃない!」

「こっちにも事情があるんだよ」

「事情ならこっちにだってあるわよ!」

「それなら、こっちの申し出を受けてくれればいいんじゃないの?」

「なんでそうなるのよ!」


 怒っているのは女性の方みたいだ。

 俺よりはちょっと年上かも?

 冒険者案内所のお姉さんよりは年下かも?

 男たちはニヤニヤとしている。

 なんか、感じ悪いな。

 男たちは俺みたいに武器を持っている。

 けど、統一感がないから兵士とか衛兵とかじゃないな。

 冒険者……じゃない、地上だといまは傭兵なんだっけ?

 傭兵ならよそ者なわけで、困っている女の人の方がうちの住民だな。

 困っている住民の味方をしないのは領主じゃないだろうな。

 うん。


「どったの、困りごと?」

「あっ」

「なんだお前?」


 割って入った俺に、傭兵たちが揃って睨んできた。

 うんうん。

 怒ったゴブリンみたいな顔だね。

 ゴブリン相手に会話しても仕方ない。

 俺は女の人の方を見た。茶色の髪を大きな三つ編みにしている。

 茶髪お姉さんと呼ぼう。


「お姉さん、なにか、俺にできることある?」

「……なに、あな……た」


 最初は怒りに任せた嫌悪感を浮かべていた茶髪お姉さんは、途中で言葉を引っ込めた。


「ええと、こっちの傭兵が、契約以上のお金を要求してきて」

「傭兵なのに?」


 ええと、傭兵って冒険者ギルドがなくなった後にできた傭兵ギルドってところが契約を取り仕切っているんだったよな?


「契約後の勝手な値上げって許されるのかい?」

「許される訳ないじゃない!」


 うん、茶髪お姉さんはぷりぷりに怒ってる。


「おいおい、その値段で応じてくれたら、うちの傭兵団『灰色の牙』が専属契約してやるって言ってるんだぜ? ありがたいだろうが?」

「はんっ、そういうのは一回でも依頼を成功させてから言いなさいよ!」

「だけど、専属契約に移行してくれないのなら、うちも他の専属契約先を優先しないといけないわけで、ここの依頼は無しにするしかないんだよ」

「だから、そんなのは予定を調整できないそっちの問題でしょうが! うちは関係ないわよ!」


 そして再び言い合いが始まる。

 どうやら、ここに並んでいる馬車の列は、俺がこの前こなした依頼品を載せているようだ。

 で、これらの依頼品を運ぶ馬車隊の護衛として、この傭兵たちはいる。

 だけど、いつもは別の傭兵団に専属でお願いしていたのだけれど、今回、その傭兵団が別の用事で来れなかったため、急遽、ここにいる『灰色の牙』とやらが傭兵ギルドから紹介されてやってきた。

 それなのに『灰色の牙』は一度きりじゃなくて専属契約に格上げすることを望んでいる。

 しかも、すでに専属契約している方の傭兵団よりも高値を求めていると。

 まだ、一度もこちらの依頼をこなしたこともないのに。


 と、うん。

 なるほど。

 よくわからんけど、『灰色の牙』とやらが無茶を言っているのはわかった。


「悪いのはあいつらだな」

「そうでしょう! ……っと、そうですよね」

「お前、なんなんだよ!」


 傭兵の一人が突っかかってきた。


「ガキがっ! 関係ないくせに口を出してくるんじゃ……」


 腕を伸ばしてきた。

 触れさせる?

 いや、ないなぁ。

 あっ、でもたしか。

 なら、ちょっとだけ。

 ちょっとだけ。

 よし、肩に当たったな。

 指先が。


「はへ?」


 途中で変な声を上げる余裕があるぐらいには、強かったみたいだ。

 怒り顔はゴブリンだけど、実力はゴブリンよりあったかもしれない。

 傭兵は、指先が触れたところで宙に舞い上がって、落ちた。


「喧嘩を売ってきたのはそっち。ってことでいいんだよな?」


 たしか、ヴァスカールが言ってた。


『いいですか。人間と喧嘩をする時は、絶対に先に、一度は相手に殴らせなさい。その後なら殺し以外はなにしてもいいですから!』


「ちゃんと、先に殴ってきたもんな! ね?」

「え? ええ……と…………そうですね!」


 茶髪お姉さんの同意も得た。

 よしこれで、殴り放題だ!

 あ、剣はやめとこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る