第4話 いざ外へ



 がんばってダンジョンの魔物を倒しまくった。

 おかげで持ち帰った魔石やらなんやらが大量になったので、魔石と薬草はいつも通りに資材管理課に預けて、残りは宝物庫に放り込む。

 この中にあるものを引っ張り出せば、冒険者案内所に来る依頼を何年分もこなせるだろう。

 ていうか、こなせる。

 でも、どうせその時にはまたダンジョンに潜らないといけないのだから、わざわざ宝物庫の中身をひっくり返す必要なんてない。

 というわけで、ここにあるもののほとんどは二度と表に出ることはない。

 そんな宝物庫が先祖代々続いて並んでいる。

 一個開けて中身を大放出すれば、それだけで何代も遊んで暮らせるらしいんだけど、そもそも遊んで暮らしたいのかというとそういうのでもない。


 特に俺は、ダンジョンに潜っていることがすでに遊んで暮らしているようなものだったりする。

 その上でダンジョン街で暮らしている人たちの役に立てているのだから、いまの生活はすでに最高だ。

 なんとしてもこの生活を維持するために、俺と結婚してくれる貴族の女性を見つけないといけない。


「というわけで、行ってくる」

「はい。行ってらっしゃい」


 念の為に、ヴァスカールには宝物庫から掘り出した呼び寄せの魔道具を渡した。

 これは、対象になった人物を使用者の側に転移させる魔道具だ。

 予定の七日間以内で問題が起こって俺が必要になった時に、これで呼び戻してもらうことになる。


「本当に、お願いしますよ」

「まぁ、がんばってみる」


 ヴァスカールの顔は真剣だ。

 俺もがんばりたい。

 だけど、女性ってどうやって口説けばいいんだ?

 しかも貴族のお嬢様。

 謎だな。


「ところで、女性の口説き方ってヴァスカールは知ってるか?」

「……がんばってください」


 あ、ヴァスカールも知らないんだな。

 そういえば、こいつも独身だった。

 こんなことなら、受け付けのお姉さんにでも相談しておけばよかったかも。


「まぁ、とにかく行ってみればいいか。当たって砕けろだ」

「あなたの場合、砕けるのは女性の方になるので気をつけてください。国際問題ですよ」

「へぇい」


 難しいことを言う。

 けど、これから挑戦することも難しいことなんだから、仕方ないか。


 まぁとにかく、そんな感じで出発した。









 ハロンが地上へと至るポータルを潜り抜けるのを見送り、ヴァスカールはその先を思った。


「不安だ」


 長年ダンジョン街ハウディールの領主を見守ってきたが、あそこまで政治と常識に疎い者も珍しい。

 だが、それも仕方がない。

 ハロンは次男だったし、丈夫さがなにより取り柄のこの一族において、長子が倒れることなどほとんどなかったので、貴族教育をまったくされずに好きに成長させてきたというのが原因でもある。

 そして、なによりの問題は、その次男だったハロンが代々のどの領主よりもダンジョン攻略にのめり込んでいることだろう。

 このまま長男の手伝いでダンジョンの魔物を狩り続けることになるのだろうと思って、教育を怠ったのは失敗だった。


 まさか今代のセイダシーバ王が、ここまでダンジョン街の排除に本腰を入れるとは思っていなかった。


「無心に流れ作業を行ってはいけませんね。油断です」


 ヴァスカールは反省し、今後はそうならないように気をつけようと静かに決心する。

 しかし、いまはそれよりも……。


 そんなダンジョンの申し子のようなハロンを外に出してしまった。

 住民とは問題なく接することができているようだが、ここの住人のほとんどは小さい頃から領主一族と接しているので、その異常を受け入れてしまっている。

 さて、地上の人間は、彼を受け入れることができるのだろうか?


「ヴァスカール様!」


 見送りを終えて役所に戻ってくると、私財管理課の職員が駆け寄ってくる。


「どうしました?」

「若様が持って帰られた魔石なんですけど」

「はい」

「資材管理課の倉庫に入りきらないんですけど、どうしましょう?」


 ……。

 ……。

 ダンジョン街の動力源を保管する資材管理課の倉庫はかなり大きく造られているはずなのに、それに入りきらない?

 一体、どれだけの魔物を狩ったのか。

 倉庫に入りきらない魔石を放置するのは危険だ。

 盗まれるだけならまだいいが、扱いを知らない連中がバカな使い方をして爆発など起こされたら……。

 ハロンがいないので領主用の宝物庫を開けることもできない。


「……アイテムボックス持ちの職員に特別手当を出すので預かっていてもらいましょう。私も引き受けます」

「よろしくお願いします」

「それと、今後もこのようなことがあるかもしれませんので、保管庫の拡張をします。計画書の作成をお願いします」

「うう、がんばります」


 街の広さには限度がある。

 ダンジョンの中にあるという関係上、どうやっても既存以上に空間を広げることができないのだ。

 その限られた空間をうまく使い回さなければならないのだから、保管庫の拡張計画が大変なことだと職員も理解している。

 ヴァスカールも頭を捻らねばならないと、こめかみを揉んだ。

 やれやれ、これでなんとかなればいいが。


 ダンジョン街の魔物が溢れる危険よりも、ハロンが外にいる方が危険ではないかと思ってしまうヴァスカールだった。

 国王は、危険物をダンジョン街の外に出そうとしていることを理解するべきだ。


 無理かもしれないが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る