プルトップに火花を想う

第1話

線香花火に火をつける。

咲いては消える、はかない光。

きれいだ。

両手で優しくすくって、ビンの中に閉じこめてしまいたい。


心がささくれて、固くなってしまったとき。

夕闇迫るワンルームで、ビン詰めの花火をぼうっと眺めたい。

そんな気分。


きみは火花のように明るくて、笑顔が素敵な女性だ。

泣き顔は似合わない。

僕がきみを守るから、僕の近くで輝いて欲しい。

お願いだよ。


僕は待っている。

きみが火をつけてくれるのを。

もうすぐだよ。

きみが僕なしではいられなくなり、ビンの中に入りたくなるのは。


きみの交友関係も、両親も、親戚も、全部把握している。

将来の夢も、苦手な食べ物も、暴かれたくない秘密だって、花火の材料でしかない。

ちょっとつつけば、きれいに燃えて僕のそばに堕ちてくる。

でも、それじゃあつまらないだろう?


僕はずるい大人になった。


発泡酒のプルトップに指先を添える。

上手く開かなくて、爪先が割れる。


いつか見た火花が、缶の上で弾けた。

そんな気がした。

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プルトップに火花を想う @hosihitotubu

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