第2話:ジジイ、若返る?


 数分後、冷静になって来たからか何とか怯えなくなったシオンに対し、師匠はなんでこんなところに来たのだと質問を投げかける。シオンは恐る恐ると言った様子でここに来たわけを説明し始めた。


「それで?なぜお主ここに来たんじゃ」


「……。最近配信のネタがなくて……。近くのダンジョンは他の配信者たちが牛耳ってて入れないから……ここに来たの」


 :(最近のダンジョン配信者過激す)ぎぃ~~~~ッ

 :カメラ持ってる奴から金ふんだくって、隠しカメラとか持ち込むと罰金とか何様?って感じ。ダンジョン配信ってなんだよ(呆れ

 :マジでやめてほしいわあいつ等。この前入口に飛ばされたら装備根こそぎ奪われたし。


 どうやら巨大なダンジョンは配信者達の手によって牛耳られ、一種のビジネス化しているようである。そこ自体を師匠は咎める気はないが、顰蹙を買いそうなことを今の時代によくできるな、とは思った。


「……しかし何故そ奴らはダンジョンを牛耳っているのじゃ?」


 話を聞いて気になるポイントはそこである。わざわざダンジョンを牛耳らずとも、適当にダンジョンを練り歩くだけで動画のネタになるだろ?と質問する師匠に対し、シオンは答える。


「うーん……やっぱりお金なのかなぁ……。私は趣味で動画配信してるんだけど、今ダンジョン配信ってすっごいお金になるって言われてるみたいで……」


動画それに関しては知らんから何も言えんのぉ」


 :俺の友人はダンジョン配信だけで前月20万は稼いだって言ってたぞ

 :そりゃ増えるわけだわな……。俺も始めるかな?

 :まぁよっぽどバズらなきゃ無理っしょ。


「あとダンジョンの奥地には聖遺物アーティファクトって言う凄いものが置いてあって、それを使われちゃうとダンジョンが無くなっちゃうらしいから……それも理由かも?まぁ私、見たこと無いんだけど……」


「なるほど。そ奴らとしてはダンジョンを消されては死活問題、と言う事か。やっとる事はともかく、理には適っとる訳じゃな。やっとる事はともかく」


 つまり、『エサを取られたくないから他の動物を追い出す』ようなもんである。

 悪いとまでは言わないが、野生動物だって文句は出るだろう。まして人間相手でそれをすれば顰蹙を買うのは当然。


「なぜ戦わんのじゃ?」


「……そう言って戦った人は、みんな負けてるんです。確か1番近いところにいるのはですね。『火焔かえん』っていう人です。まぁ、正直マシな方ですけど……。東京は魔境って言われてるそうですよ、この世の悪意をミッチミチに詰め込んだみたいな……」


 だが、その牛耳ってる奴が意見を封殺できるほどに強ければ話は別。

 つまり無駄に強い奴がデカいダンジョンを牛耳っているのでここに来たと言う訳なのであった。一通り話を聞いた後、師匠はため息を吐きながら立ち上がる。


「ふむ……。まぁそれはいい、と言う事はここのダンジョンを消すには最下層に行く必要があると言う事じゃな?」


「あ、はい。そう言う事になります」


 話を聞いた師匠は火焔と言う人物に興味を持ちつつ、今はダンジョンを消すのが最優先だと立ち上がり早速下層へと向かっていく。


「よし。ではさっさと最下層に行ってダンジョンを消すぞ。……ついてくるか?」


「はい!」


 こうして二人はダンジョンの下へと向かったが、なんとこのダンジョンは地下4階しかないすっごく狭いダンジョンであった。これにはズッコケるしかないシオン。


「ってダンジョンにしては狭すぎませんかね?!4Fで終了ですか!?」


「なんじゃあーちふぁくととやらは見えんが……」


 :コレちっちゃスギィ!

 :結構ちっちゃいみたいだけど……。部屋が広いんすかね?(精一杯のフォロー

 :なんだこのダンジョンは……たまげたなぁ


「なんじゃこのコメントは……そうなのか?」


「普通のダンジョンは低くても10Fまではありますよ……。まぁ、いいですけども」


 そんな最下層にやってきた二人の前あったのは、テニスボールサイズの球体装置と巨大な棺桶のような何か。これも聖遺物なのか?と近寄ろうとするシオンだったが、そんな二人にどこからか声が聞こえてくる。


【若さが欲しいか?】


「え!?何この声?!」


「……何?」


【欲しいのだろう?若い肉体が。何をしても疲れず、簡単に壊れることのない肉体が……】


 シオンからすれば何を言っているのだと言いたくなる言葉だったが、師匠は違った。


 もはや死が眼前に迫っているどころの騒ぎではなく、その上で自らの弟子もいない。もしも全盛期あのころに戻れたのならば……と、考えることは数えきれないほどである。


「……」


「ちょ、ちょっと!どう聞いても罠ですよ!」


 引き寄せられるように師匠が動いてしまうのも無理はなかった。


 :イカン罠や!

 :チョウチンアンコウだってもっと上等なワナ作るんですけどぉ~!?

 :止めろッシオン!止めるんだッ!


「だ、ダメですよ!!!うわっ力が強い!」


 師匠にタックルするシオンだが、ズルズルと引きずられていく。

 これが仮に罠だとしても、今の師匠には関係がなかった。どうせ放っておいてもそのうち死ぬ身、であれば少しでも可能性があるならそれに縋りたい。というか、すがる事しかできない。


「罠でもいい……」


 かつて自らの師をこの手で殺してから89年。ずーーーーーーーっと一人で生きてきた彼には、もう何も出来ず老いて死ぬと言う事実に耐えられなかったのだ。


「罠でもいいんじゃッ!」


 シオンの手を振り払うと、師匠はその球体に触れる。


 :あぁっ!

 :不味いシオンちゃん逃げろ!

 :なっ……なんだぁっ!?


 触れた瞬間、突如目を開けていられないほどの光が師匠を包み、シルエットで見える師匠の肉体がどんどん若返っていく。だがそれは若いと言うにはあまりに若すぎていた。


【ククク……確かにくれてやろう!若い肉体を!だがしかし……】


「だ、大丈夫ですか……ッ!?」


【あくまで子供の肉体と言う体だがなぁーーーーッ!!!】


 そこにいたのは、おおよそ5才くらいにまで若返ってしまった師匠であった。色素が死んでるのか白い髪は変わらずだが、それ以外の全て……見た目も内蔵も筋肉も骨もありとあらゆる全てが5歳程度の物へと変わってしまっていた。


「……若すぎませんか?!」


【ワーッハッハッハッハ!!!!バカが!この私が本気でただ若い肉体を与えると思っていたのか!お前ら人間は若くなりたいと思っているクセに……いざ若くなったらとんでもなく弱体化するのを知らないのか!?】


 ムクリと起き上がった師匠は自信の肉体を確認していく。しばらく確認を終えた後、どうやら自分が5歳になってしまったのだという事を認識したのかシオンの方を向く。


「ふむぅ……。ワシからすれば20歳くらいになると思っておったのじゃがな?」


「流石にそんなムシのいい話はないと思いますよ?!」


 :げぇっショタジジイじゃねぇか!

 :うーん……美少年過ぎる。ワシホモかもしれんわ

 :エッチだ……

 :↑帰れお前ら!


「とはいえ若返ったのは事実じゃな。全く面白いこともあるもんじゃわい」


「そんな悠長な……」


 二人がそんなことを話していると、球体の奥にあった棺桶がガタガタと震えだしたと思うと粉々に砕け散り中から黒い異形の肉体を持ったヴァンパイアのような生物が現れた。ソレはクックック……と笑うと師匠へ肉薄する。


【確かに若返らせたからな……。では対価として貴様の命をもらっていくぞッ!】


 若返ったという実感を浴びていた師匠はそれに反応する事もなく顔面に一撃叩き込まれ、そこから畳みかけるようにソレは黒い肉体を次々と武器に変え5歳になった師匠の体をボッコボコにしていく。


「ああっ!ひどい!」


【ひどいだと?!若返らせてやったのだ、このくらいは当然だろうが!何より私はな……自分より弱い奴をボッコボコにするのが大好きなんだよーーーーーーッ!!!】


 :と、とんでもねぇゲスだ……!

 :ゲスなんてレベルじゃねぇ……!ドゲスだ!クッソ~!

 :フレイ○ードかな?

 :おうやめろやめろそういうB○N○A○ブーレベルのことを言うのは


 ボコボコと殴り続ける事で土煙が巻き上がり、次第に二人の体が見えなくなっていく。そして先に土煙から出てきたのはソレのほうであった。ソレはシオンをチラ見すると、肉体を刀に変えて襲い掛かろうとする。


【フゥ……。さて次はお前……】


「く、来るなら来なさい!私だって……!……って、アイテムも武器も使えない……!?」


一応抵抗の意思を見せるシオンだが、その際アイテムや武器などが使えなくなっているということに気が付いた。この状態で死ねばどうなるのだろうか?今ダンジョンの復活する機能はついているのだろうか?と、シオンは考える。


【……と、思ったが弱すぎてボコボコにしても楽しくないな。ちょっくらダンジョンから出て町の一つでも滅ぼすとするか】


 そんなシオンを見て、あまりにも彼女が弱すぎる為か興味を失ったのか彼女を無視し地上へと飛ぼうとし始める。だがそれに待ったをかけたのがシオンであった。


「ちょ、ちょっと!ダンジョン外に出るって……いいの!?」


【ん?なんだ知らないのかザコ。このダンジョンって場所で人が死ぬとな……確かに無傷で外に出はする。だが……その代わり、我々のような者たちの封印が解かれていくのさ】


「な、なに……?」


 :え!?じゃダンジョン内で死ぬのってノーデメリットじゃない訳?!

 :そんなぁ……。ダンジョンの外にモンスターが出てきたら終わりじゃないか……

 :あわわ、終わりだよダンジョン。


【死んだ人間が一定数たまった瞬間、我々は解き放たれてダンジョンの外へ出る事が出来る!特に5大都市に出来た巨大なダンジョンは……クックック。我々ですら武者震いを起こすバケモノ揃いだ……。簡単に星など滅ぼせるぞ?ククッ、人間は愚かにも……アイテムとか配信とかその他もろもろにうつつを抜かし、我々のようなバケモノを起こす手伝いをしてると言う訳だ!】


「そ、そんな……」


【まぁお前のようなザコはいたぶる価値も無い。そこで……近くの町が消し飛ぶのを見ておけばいいさ!ハーッハッハッ】


 と、高笑いを上げ飛ぼうとしたが、その瞬間ソレの肉体は地面へとたたきつけられる。何事だと起き上がろうとし顔を上げると、そこには切断されパーツごとに分けられたソレの肉体があった。


【ハ?】


「……え?」


【な、なんだ……これは?!】


 シオン達の前には小指だけで黒い肉体を切断しまくる師匠の姿があった。先ほどまでの攻撃はかすり傷にすらなっておらず、土埃を掃うと先ほどまでの冷静沈着な姿はどこへやら、爆笑しながらソレの頭部をミシミシと押しつぶそうとしていた。


「ふむ。やはり……若い肉体は良い!腰の痛みも!目の疲れも!慢性的な疲労も何もかもが無い!!!神なぞに祈ったことなど今までないが……今日だけは祈ってやろう!!!ありがとう神様!!!」


 頭部を思い切り握りつぶすと、強烈な圧力によりパンと破裂する頭部。それを投げ捨て師匠は高笑いを上げるのであった。もはやどっちが悪役なのかさっぱり分からない。


 :……ヤバ

 :あれ?俺らバケモノよりヤバい何かを解き放っちゃったんじゃないの?

 :……どうしよう、ヤバい発言は沢山あったのにコイツ一人で全部吹き飛びそうなんですが……。


 ___________________

 一言メモ

 師匠:御年105歳だった老人。その生涯を全て自身の肉体の研鑽に費やし、その生涯に敗北の二文字はない。積み上げられた技術と思考はそのままに肉体だけ5歳にまで若返り、ハイになっている。


 感想高評価ハートブクマ待ってます!!!

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