ようこそ不思議な街へ

水無月

第1話 






私は七瀬愛歩。28歳。

社会人になってもう5年目。我ながらに酷い人生だと思っている。

勤めている会社はブラック企業。一日中会社にいることもある。母親のつてなので断ることもできずノロノロと仕事をしているのだ。

今日は比較的早く帰れた気がする。まだ日付が変わっていない。

だが、歩いている道は真っ暗で街頭だけが頼りだ。いつもなら月がでているはずが、今夜は曇りで隠れている。

街頭も古臭くポツポツとした明かりが点滅しているのでたまに闇に包まれる。

闇に包まれた瞬間、私は完全にこの世界のどこかに飲み込まれてしまったんじゃないかと錯覚してしまう。

住んでいるマンシャンまであと数百メートルのところでやっと気がついた。

いつもの道じゃないことに……辺りを見渡すと古書店に喫茶店、ハサミ屋、帽子屋、ゴシックな店が立ち並んでいる。

しかし、どれも初めて見る。疲れているとはいえ、違う路地に入るはずはない。

「ここはどこ?」

その時だった。嬉しそうな悲しそうな不気味な笑いが闇の中から聞こえてきた。

「だ、誰かいるの!?」

私は闇雲に辺りを見る。すると前の方から帽子を被った青年が現れた。

その青年は整った顔をしているが、髪はまるで千切れた布切れのよう、唇に血色は無くまるで死人のようだ。目の下には星が描かれている。

「ようこそ!ダーライト街へ!お客さんは何のようで?あぁ、わかってます。喋らなくても私には分かりますから!!ふぅん、帽子を買いに来たと!!お目が高い!私の店は丁度帽子屋でね!」

1人で楽しそうに高笑いしながら喋っている様子はピエロ……道化師そのものだった。

「あの、違うんです。。自分の家に帰ろうとしたら気づいたら……こ、ここにいて!」

ここで自分の意見を主張しないと、この道化師みたいな人に飲み込まれてしまいそうだったから。

私が主張すると青年の首が180度回転した。喉の奥から悲鳴が聞こえてくる。

(に、人間じゃ……ない……)

「私はね、自分の話を遮られるのが一番嫌いなんだ!君なら分かってくれるよね?そうか、君はいい子だな!!それにしても迷子か…どうにかしてほしいものだよ、、迷った人の案内人は私じゃないんだからさぁ…。」

何やらぶつぶつと1人で呟いている。ひょうきんで掴みどころのない人物だ。

「よくいるんだよねぇ、迷い込んでくる人って」

「そ、それどういう事ですか?」

「ん?あぁ、いや何でもないよ!それと、このままじゃ君は帰れないね!あそこの迷い他人案内所に行くといいよ!」

偽りの笑顔を貼り付けた道化師の青年は目の前にある店を指差した。

「あ、ありがとう…ございます」

すると青年は満足したように満面の笑みになると鼻歌を歌い出した。下手な鼻歌だ。

歩き出して案内所の扉を開けようとすると、

「そうだ!一番大事なことを言ってなかった!君無理矢理逃げようとしたら駄目だよ。。元の場所に帰れないからね」

え?背筋が凍る。冷たい風が吹いたように思える。ヒューヒュー、どこかに風穴が開いているかのような。そんな音が何処からとも無く聞こえてくる。

「え?」

私は振り返ると、青年のお腹あたりがカッポリと開いていた。

「きゃあぁあ!!」

「おっと失礼!!こういうことがあっても逃げちゃ駄目だ、、じゃあ幸運を祈るよ。僕は仕事に行かなきゃ」

話しかけようとするといつのまにか青年は消えていた。1人知らない街で取り残された。

また恐怖が襲ってきて、勢いよく案内所の扉を開ける。そこにいたのは…大人の色気がある女の人だった。

「いらっしゃい、あら、人間さん。迷っちゃったのかしら?」

そうニッコリと笑う女の人の目からは血の涙が流れていた。。

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