バケモノ・ハイスクール

緋櫻

第1話

 五月。出会いの季節に少し乗り遅れる形で、その少年はこれから母校となる高校に足を踏み入れた。

「ここが、あの楊ノ下やんのか高校か……」

 私立楊ノ下高校。国内有数の不良高校。

 彼が耳にしていたこの高校の評判、もとい悪評にたがわず、学校の正門にはおびただしい量の落書きがされており、校舎の窓のほとんどが割られている。どうやったのか校舎の壁にまでも大きく『喧嘩けんか上等じょうとう』の赤文字が塗られていた。

 外から見るだけで、この高校の異常性がよく分かる。

「か、帰りたい……」

 彼の名前は野間のま流人るひと。不良とは真反対の、至って普通の少年である。

「はぁ……」

 いっそのこと、このまま帰ってしまおうかという考えが流人の頭をよぎる。

 しかし、転校初日に逃げ出す程の度胸は、彼には無い。

 嫌々ながらも教室に向かう。その足はもちろん重い。

 校舎の入口も、下駄箱げたばこも、ゴミと落書きであふれている。更には、学ランを着崩した赤髪と青髪の生徒が流人を見ていた。

 その光景を目の当たりにして、流人の足取りは更に重くなる。

「確か、僕の教室は二年四組だったはず……」

 二年四組は校舎の二階に位置している。流人はガンを飛ばしてくる不良とは目を合わさず、速やかに階段へと向かった。

「ひっ」

 しかし、階段にも当然のように不良がたむろしている。油断していた流人は、その中の一人、紫色の髪をした不良と目が合ってしまった。

「あぁん? なに見てんだテメェ?」

「ナンデモナイデススミマセン」

 頭を下げる要領で、不良を視界に入れないようにして階段を駆け上がる。不良達の間をくぐり抜けていく。

 ずっとうつむいていれば、階段に腰掛けている不良達と目を合わせることなくのぼっていける。

 しかし、この方法には一つ欠点があった。

「うわっ!」

「きゃっ!」

 それは前が見えないこと。案の定、流人は階段を上りきった先で人とぶつかってしまった。

 その反動で流人の身体は後ろへ、階段の方へと倒れそうになる。

「落ち……」

「危ない!」

 まるで社交ダンスのように、階段から落ちそうになる流人の腕がつかまれ、腰が支えられる。そのおかげで流人が階段から転がり落ちることは無かった。

 それでも流人の頭の中は恐怖でいっぱいだった。

 それも当然である。この学校で誰かにぶつかるということは、すなわち喧嘩の始まりを意味する。

 だが、いつまでっても喧嘩は始まらない。流人の身体を支えている手が離されることもない。

 むしろ優しく流人の身体を抱きかかえている。

「大丈夫ですか?」

「あ、は、はい。ダイジョブです」

 流人は思っていたよりも優しい声色こわいろに驚きつつ、そういえば先ほど聞こえた声も高かったということを考えていた。

 支えられていた腕に引っ張られ、流人の身体が引き戻される。

 当然、自分がぶつかった相手を正面から見ることになった。

「ふぅ、危ないところでしたね」

 ぶつかったときに落とした流人のかばんを拾い上げる。その所作しょさのどこを取っても不良の要素は無い。

 サラサラとした長い黒髪は、動く度に良い匂いを周辺に振りまく。

 この学校にやって来てから、野間流人は髪が黒い人間を初めて見たのだった。

「どうかされましたか?」

「あ、いや……その……」

 汚れ一つ無い綺麗きれいなセーラー服に身を包み、黒髪と瞳とは真反対に真っ白な肌。

 そして口元を耳まで完全におおい隠す、不自然なほど大きなマスクをしている。

「私の顔に、何かついていますか?」

「いや! な、なんでもないです……」

 ジッと見つめているのは失礼だと思った流人は、すぐに頭を下げる。

「す、すみません! ぶつかってしまって……大丈夫ですか?」

「えぇ、大丈夫ですよ。それよりこちらの荷物」

「あ、ありがとうございます!」

 差し出された鞄を受け取る。そんな流人の一挙手一投足を観察する少女。

「失礼ですが、野間流人さんですか?」

「え、はい。そうですけど……」

 流人の言葉を聞いた少女は満足そうに微笑ほほえむ。

 マスクで口元を覆っているので、細めた目しか分からないが、少なくとも流人にはそう見えた。

「申し遅れました。わたくし、二年四組の学級委員長を務めております、切裂きりさき麗子れいこと言います。以後お見知りおきを」

「あ、どうも……二年四組?」

「はい。野間さんが転校するクラスです」

 柔らかい物腰で話をする彼女は、とても不良高校の生徒には見えない。

 こんな優しそうな少女と同じクラス。ほんの少しだけだが、流人はこれからの高校生活が楽しみになった。

「それでは二年四組にご案内しますね」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 歩き出す麗子と後を追う流人。彼女の後を一定の距離感で歩いていた流人だったが、すぐに異変に気づいた。

 どういうわけか廊下にたむろする不良達は、麗子と目を合わせることなく、次々と彼女に道をあけていく。

「おい、見ろよアレ……」

「あぁ、アイツが例の……」

 流人の耳に嫌でも入ってくる不良達の話し声。彼らの視線は間違いなく、麗子に、ひいては流人に集まっている。

「あれが二年四組の転校生なのか? どう見ても普通の奴にしか見えないぜ?」

 流人が声の聞こえた方向に目線をやると、窓のほとんどが割られ、壁や天井にまで落書きがされた教室が見えた。

 その中の何十人もの不良達が、流人に注目していた。

「ひっ……」

「ああ、ありゃあどう見ても雑魚ざこだ。雑魚」

「バカ! あの『死のクラス』に転校してくるような奴だぞ! 普通なわけないだろうが!」

 流石に聞き逃せない単語が、流人の耳に飛び込んでくる。

《死のクラスって何!》

 不良達が恐れる二年四組。そこは間違いなく流人が転校してきたクラスであり、これから向かう教室でもある。

 そして目の前を歩いているのは、そんな二年四組の学級委員長だ。

「あ、あの……切裂さん……」

「はい? どうかしましたか野間さん?」

「いや、その……さっきから視線が凄いというか、『死のクラス』って……」

「あぁ、この学校で流れている噂ですね」

 振り向いてそう微笑む麗子に、ただの噂だったかとほっと胸をなで下ろす。

「なんでも二年四組には魔物が巣くっているのだとか」

「ははは……でも、それって単なる噂というか、学校の怪談みたいなもの、なんですよね?」

「ふふっ……」

 流人の問に、麗子は目を細めて笑うだけで何も答えない。

 その仕草が、流人の不安を再び煽った。

「着きましたよ。野間さん」

 二年四組の教室は、流人の想像を超えるほど普通だった。

 通ってきたときに見えた他のクラスとは違い、廊下側の窓にはヒビ一つ入っておらず、教室の扉はしっかりと閉じられている。

 むしろ流人には教室の周辺が妙に小綺麗、ごくごく普通の教室に見えた。

「野間さん? 入らないんですか?」

「ちょっと、心の準備が」

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

 麗子に物理的に背中を押され、死のクラスへの扉に手をかける。

 いつまでもこのまま止まっているわけにはいかない。新しい高校生活のために、ここで一歩踏み出すしかない。

「し、失礼しま~す……」

 扉を抜けた先、死のクラス。しかし、流人の予想に反して、そこは暖かい光が差し込む普通の教室だった。

 楽しそうに談笑だんしょうをする少年と少女。黙々と読書をする少年。

 流人の見える限りにおいて、荒れている生徒なんて一人もいない。

 そこには死のクラスとは名ばかりの平和な空間が広がっていた。

「あ、あれ? あれ?」

 拍子抜け。混乱と言い換えてもいい。流人の脳内は極度の緊張と弛緩しかんから混乱状態に陥っている。

「皆さん、お待たせしました」

「お? おお?」

「おおおおお!」

 談笑していた二人の生徒が流人に気づき、瞳をキラキラさせて駆け寄ってくる。

「お前が新しいクラスメートか!」

「名前! 名前なんだっけ? ママくん?」

「あ……野間流人です」

「野間! 野間流人くん! じゃあ『るっぴー』だね!」

「る、るっぴー?」

 二人分の勢いと圧に押され、あっという間に生まれて初めてのあだ名をつけられた。

「オレ、くちきゅう太郎たろう! 皆からはキューって呼ばれてる! これからよろしくな!」

 金髪で両耳にピアスをいくつも開けている少年。学ランも着崩しており、いかにもチャラい雰囲気の生徒だが、どこか人懐ひとなつっこい笑顔を浮かべている。

 流人は差し出された手を、おずおずと握り返した。

「あたしは透堂とうどう明花めいか! めーちゃんって呼んでね、るっぴー?」

「あ、はい、よろしくお願いします……」

 中学生、もしかしたら小学生に見間違えられてしまうほど小柄な少女。決して高くない身長の流人でも見下ろせるほどだ。

 小動物を連想させるような雰囲気に、ぶかぶかのカーディガンを羽織はおった明花は、流人の前で華麗かれいなウィンクを決めてみせた。

「るっぴーはさ! どこの高校から転校してきたの? なんで転校してきたの? この町には慣れた? 好きな食べ物は? 今度皆で一緒にご飯行こうよ!」

「え、あ、あの……」

 明花はマシンガンのように質問を飛ばしてくる。流人は彼女とは違ってコミュニケーション能力は高くない。ただその物量にハチの巣にされるだけだ。

「明花さん。いろいろ気になるのは分かりますが、野間さんが困っていますよ」

「あ、ごめん、るっぴー。というか『めーちゃん』って呼んでっていつも言ってるじゃん! キリキリ!」

「き、キリキリ……」

 思わず麗子の方に振り向く。麗子は恥ずかしそうに微笑ほほえむだけだ。

「透堂さんは人にあだ名をつけるのがお好きなんです。ですがネーミングセンスは、その、独特と言いますか……」

「な、なるほど」

「あ! キリキリひっどーい!」

「オレは明花ちゃんのセンス嫌いじゃないよ?」

「だから『めーちゃん』って呼んで!」

 流人を中心に、明るい雰囲気が教室内を包んでいく。

 流人は安堵あんどしていた。

《よ、よかった……怖い人達ばかりじゃないみたいだ》

「おーい! マムも挨拶しなよお!」

 明花が教室の隅で読書を続ける少年に声をかける。

『マム』と呼ばれたその少年は、返事をすることなく立ち上がり、本のページを開いたまま大股で流人に近づいてくる。

 そのまま流人の顔をのぞき込むと、少年はゆっくり口を開いた。

「野間流人。るっぴー」

「ひっ……」

 流人の顔をのぞき込む。その目はくぼみ、まるで枯れ枝のように痩せた肌が見えている。

 何より、顔以外の見えるところ、腕や足、頭に至るまで、全身が包帯でグルグル巻きになっていたことが、流人の恐怖をかき立てた。

「るっぴー殿は人間と幽霊の間にできる子供についてどう思う?」

「え、は、幽霊、子供? え?」

 彼の血走った瞳には流人の困惑した顔が映っている。

「幽霊つまり妖怪や怪物といった存在は古来より人間の想像を超えた超能力を持っているとされ数々の超常現象を起こしてきたことがこのような文献にも記されている。そういう人知を超えた存在には必ずそれに見合った能力とエピソードがあるのだ。そんな彼らは時代が移り変わるにつれより人間らしく成長し人間社会に溶け込むようになりやがては家庭を持ち生活を形成するようになる。これが進めば人間と幽霊の間に子供ができその子供が更に幽霊もしくは別の存在と子を成しそしてまた別の種族と社会を形成してやがて人間社会は人知を超えた異能を引き継いだもの達であふれかえることに──」

 手入れのされていないボサボサの髪を振り乱し、せ細った手を上下に振りながら喋り続けるその姿は、さながらホラー映画の幽霊のようである。

 当然、流人はこの話について行けず、初めから思考は停止していた。

「あ……あ……」

「ディハマドさん、少し控えてください。野間さんが完全に放心状態ですよ」

「それに自己紹介もまだでしょ!」

「二人とも、こいつは話し出したら止まらないんだよ。知ってるだろ?」

「やがて世界は超能力を持った者を中心に回り始めその技術はこの星に留まらず空の向こうへと──」

 呆れる二年四組の生徒達。見かねて吸太郎が流人のフォローに入った。

「ごめんな。アイツの名前はマミィ=ディハマド。オレと明花ちゃんは『マム』って呼んでる。見ての通り変人だが、仲良くしてやってくれ」

《ハ、ハーフなのかな……》

 明らかに日本人離れした名前、そしてその体躯たいく

「……あの、鬼口くん」

「あー、名字で呼ぶのは止めてくれ。なんだかむずがゆくてな」

「じゃ、じゃあ吸太郎、くん。ディハマドくんの包帯って──」

 包帯というワードに反応したのか、マミィは再び流人に迫る。

「気になるのか! この包帯は裏に特殊な呪文が施されていて我が内に眠る力を制御し我の手となり足となるのだ! 術式の構築を変化させれば包帯の強度や伸縮性だけではなく防火防水絶縁など様々な効果を付与させることができる! 最も特徴的なのは神聖力を付与させた術式だ! 古来より銀でできた神聖な物は怪異の力を弱体化させる力があるがこれはそれと同等の効果を発揮することができる! これはかつて我が曾祖母から直接賜った──」

「はいはい! 長くなるからマムはあっちで本でも読んでてね~!」

「この包帯の特別性というのは様々な点があるが中でもその強度と伸縮性が挙げられてな! これはかつて古代文明で開発されたとされる今は消滅した秘伝の──」

 自分より一回りも小さな明花に押し返されながら、少年は意気揚々いきようようと自分の身体に巻き付いている包帯について語っている。

 流人はこの空間に麻痺まひし始めていた。

「すみません野間さん。お恥ずかしいところをお見せしてしまって」

「だ、大丈夫です。に、にぎやかで良いと思います」

「まぁ、うるさいけど悪い奴らじゃないからさ! これから改めてよろしくな!」

 明るく背中を叩かれる。瞬間、流人の身体は緊張でこわばってしまう。

「は、はい。よろしくお願いします……」

「そんな緊張すんなよ! 他にも聞きたいことがあったら何でも答えるからさ!」

「そうですよ。これから私達は同じクラスのクラスメートなんですから」

 変人もいるが、こうして流人に優しく笑いかけてくる人間もいる。

 その事実が、流人の心を少しだけ軽くした。

「じゃ、じゃあ、早速質問を……」

「いいぜ、何でも聞いてくれ!」

 流人はおずおずと口を開く。

 この教室に入ってきたときから感じていた違和感。それについて。

「……他のクラスメートの皆さんは、どこにいるんですか?」

 おおよそ三十人は入れるであろう教室。そしてこの私立楊ノ下高校は全校生徒が五百人を超える学校であり、二年生は全部で五組まである。

 流人は考える。ここに来るまでに通ってきた教室には、声の数からして、確かに十人以上の生徒がいたはず。

 なのに、この二年四組の教室には切裂麗子、鬼口吸太郎、透堂明花、マミィ=ディハマドの四人しか見当たらない。

 埃一つ落ちていない教室に、机が綺麗に並んでいるその光景は、先ほど見えた他教室の様相ようそうとはまるで違った。

「他のクラスには生徒がいたのに、ここには四人しかいないなんて……なんかおかしいかなって……」

 麗子と吸太郎は互いに顔を見合わせて笑う。そこに悪意があるように見えないから、流人も安心してしまう。

「なんだ、そんなことを気にしてたのか」

「野間さん、それは簡単なことですよ」

 麗子は微笑みを絶やさず、流人に真実を告げる。

「ここに私達以外のクラスメートがいない理由、それは二年四組の生徒が私達だけだからです」

「……何ですって?」

 思わず聞き返してしまう。麗子は表情を変えることなく言い直した。

「ですから、二年四組は私、鬼口さん、透堂さん、マミィさん、そして野間さんの計五名ということです」

「へ?」

 あえてもう一度言おう。この私立楊ノ下高校は五百人以上の全校生徒で構成されている高校であり、決して廃校寸前の学校ではない。

 そして二年生は五組編成。だが、この二年四組には生徒が五人しかいない。

「ほ、他の人達は……?」

「他の奴らなんていねぇよ! 二年生に上がったときにはいたんだけどな。いろいろあって全員退学、もしくは休学中だ。戻ってくるわけないんだけどよ」

 流人は目の前が真っ白になった。



 進級してわずか一ヶ月。その間にほぼ全ての生徒が教室から姿を消している。

 流人は先ほどの不良達の話を思い出していた。

『二年四組には魔物が巣くっている』


「改めてようこそ。我らが二年四組へ」


 笑っているのだろうか。

 この日初めて、流人は切裂麗子の細められた目に、確かな恐怖を覚えた。

「──そして人間の時代は終わりを告げるのだ!」

 マミィの雄叫おたけびだけが、いつまでも流人の中にこだましていた。


「お昼だよ! るっぴー」

「るっぴー、飯食おうぜー」

 昼休み。朝に明かされた衝撃的な事実により、全く集中できなかった午前の授業を終えて、流人は昼食に誘われていた。

「吸太郎くん……透堂さん……」

「めーちゃん!」

「めーちゃん、さん」

「まぁ、よし!」

「いいのかよ」

 笑顔を振りまきながら机をくっ付けてくる明花と吸太郎。とても死のクラスと呼ばれる教室の一員とは思えない。

 しかし、もう流人には恐怖というフィルター越しでしか彼らを見ることができなくなっていた。

 半日という短い間ではあるが、流人はこのクラスがどんなものなのかを理解し始めていたのだ。

 鬼口吸太郎と透堂明花は明るく人付き合いが得意なタイプ。切裂麗子は真面目な優等生。そして変人、マミィ=ディハマド。

 こう見ると至って普通のクラスメート達で、普通のクラスである。たった四人であることを除けば、だが。

「はぁ……」

「あ、るっぴーお弁当なんだ! 私もなんだよー」

 可愛らしい弁当を机に広げる明花。続けて流人も出した弁当箱を開ける。

「おー、るっぴーのお弁当おいしそうだねー」

「かなり上手そうだな。手作り?」

「う、うん。料理は得意なんだ……」

「へー、すごーい!」

 会話が成立している。この学校にまともな生徒などいないと思っていた流人には、それだけでかなり感動的だった。

「なぁ、るっぴー。一つ質問なんだけどさ」

 トマトジュースを吸い込みながら、吸太郎は流人に尋ねる。

「るっぴーはなんでこの学校に転校してきたんだ? お世辞にもここは良い学校とは言えないぜ?」

「確かにねー。校内は荒れてるし、生徒の素行も悪いし、おまけに制服もダサい。いろんな色のモヒカンが眺められることしか良いとこ無いよ?」

「は、はは……」

 その学校で最も恐れられているのが、まさにこの二年四組なのだが。

 流人は俯きながらも答える。

「お、親の、転勤で」

「ふーん、まぁ聞かれたくないなら聞かないけどさ」

 生じてしまった静寂せいじゃくをかき消すように、吸太郎がトマトジュースを飲み干す音が響く。

「とりあえずはクラスに慣れることから始めたらどうだ? まだまだ緊張してますって顔に出てるぞ?」

「ご、ごめん……」

「もう! 説教くさいよQちゃん!」

 ひっぱたかれる吸太郎。もちろん彼には悪意なんてものは無い。

 しかし、本人の意図が何であろうと、流人の顔は暗いままである。

「悪い、るっぴー」

「いや、僕は全然大丈夫ですよ」

 流人は笑ってしたつもりだったが、二人の様子を見る限り上手く笑顔を作れていないらしい。

 空気に耐えられなかった流人は、思わず立ち上がる。

「あ、あの! 僕、飲み物買ってきますね!」

「ちょ、待って!」

 自身を呼び止める声を振り切って、流人は全力疾走で教室から出て行った。

「行っちゃった。危ない目にわないといいけどね」

「どうする? 追いかけるか?」

「うーん」

 悩んだままとりあえずは教室に留まった二人。

 一方で勢いのまま教室を飛び出した流人だったが、すぐに思い出した。

 今、自分がどんな高校にいるのかを。

「おい、今朝二年四組に転校してきたってのはテメェのことだな?」

《終わった……》

 世紀末のようにそでの千切れた制服を身にまとい、色取り取りの髪をした大勢の不良達が、流人を取り囲んでいる。

 流人は忘れていたのだ。あの恐ろしくも平和な教室にいたことで、頭から抜け落ちてしまった。

 この私立楊ノ下高校は国内有数のヤンキー高校。治安など良いはずが無い。

「ツラ貸せや」

 不良達に囲まれながら、流人は目的の購買とは真逆の方向へ、上の階へと連れられていく。

 そうしてたどり着いた先は、三年一組の教室。

《さ、さささ、三年生!》

 言わずもがな、流人は怯えていた。

 三年生が自分に何の用なのか、これから自分が何をされるのか、考えるのも恐ろしかったが、考えないのも恐ろしいので、ただ黙って震えていた。

「オラ! さっさと入れや!」

「うわっ!」

 背中をられ、教室に倒れ込む流人。

 タバコの臭いが充満して薄暗い教室。そして人相の悪い三十人ほどの生徒達。そこは何もかもが二年四組と真逆だった。

「こいつもあの二年四組だ! 念のため椅子に縛っとけ!」

「な! ちょ、ちょっと待っ──」

 わけも分からずロープで椅子に固定される。なぜ学校にロープを持ってきているのか、それは普通の学生生活を送ってきた流人にはわかり得ないことである。

 気づけば流人は身動き一つ取れずに、椅子の上に座らされていた。

「あ、あの……僕に、な、何かご用です、か……」

「あぁん?」

「ひっ!」

 上級生に気圧けおされひるむ流人。そんな彼を見下ろす一人の不良。

 いかにも荒々しい男の足が、縛られた流人の肩に置かれた。

「テメェは聞かれたことにだけ答えてりゃいいんだよ。分かったか?」

「は、はひ……」

 従うほかない。彼らとの間に圧倒的な差があることくらい、流人でも分かっている。

 死という文字が、彼の脳内を埋め尽くしていた。

「テメェ、クラスと名前は?」

「に、にねんよんくみ……」

「もっと腹から声出せやゴラァ!」

「に! 二年四組! 野間流人ですぅ!」

『二年四組』というワードに教室内がざわつく。中にはその名前を聞いただけで、真っ青な顔をして震え出す者もいた。

「うるせぇぞテメェら! 静かにしろ!」

「まぁ落ち着けよ。そんな大声出してちゃお話もできねぇ。なぁ?」

 流人に声をかける一人の影。声を張り上げることなく、穏やかな顔と髪の色だったが、彼の一言で、再び教室が静寂と化す。

 流人は直感的に、この男がリーダーであることを理解した。

「悪ぃな。情けねぇことに、こいつら二年四組の奴らにボコられてからビビっちまってんだ」

「あ、いや……」

「ま、俺もあいつらにボコられた一人なんだけどよ。そんなわけで、先輩達は一人残らずテメェのクラスの連中を恨んでるってこと。分かるか?」

「え、あ、はい」

 流人に向けられる貼り付けた笑顔。流人はその顔を知っている。

《これは、悪意を覆い隠した笑顔だ》

 かつて、そんな笑顔を嫌というほど見てきた流人は、その顔が大嫌いだった。

「じゃ、じゃあ、僕は皆をおびき出すための、餌……ってことですか?」

「餌と言うより人質ひとじちだな。話が早くて助かるよ」

 悪意を秘めた笑顔が教室中に伝播していく。

 誰かをおとしめてやろうという悪意が広がるのに、言葉と時間は決して必要ではない。

 気づいたときには手遅れで、静かな悪意が絡まっていく。

「さ……」

「さ?」

「させません……そんなこと……」

 ほとんど無意識のうちに、そんな言葉が口をいていた。

「は? 何言ってんの? お前」

 男のてのひらが流人の喉をわしづかみにする。

 酸素が入ってこなくなった頭で、流人は思う。

《力も無ければ勇気も無い。あるのは自己満足にまみれた正義感だけ。何もできないくせに、僕って奴はどうしようもない》

 それは走馬灯にも似た独白。

《本当、何も変わらないな。僕は……》

「『そんなことさせない』だぁ? 勘違いしてんなら言っといてやる。テメェには決定権も何もねぇんだ。ここで黙って縛られてろよ!」

「は、はは……」

「あぁ? 何笑ってんだテメェ!」

 息も苦しいし涙が出るほど恐ろしい。それでも流人の口は勝手に動いていた。

「ぼく、なんかを、人質にして……そんな卑怯ひきょうな手を使わないと、皆に、一個下の下級生にすら立ち向かえないなんて──」

 十七年間で初めて直面する、自分が死ぬかもしれないという極限の状況。迫りくる恐怖を前に、流人は自ら飛び込んでいくことを選択した。

「──楊ノ下高校の三年生も、大したことないんですね……」

 つまりは、ヤケを起こしたのだ。

「あ?」

 リーダーの顔が怒りにゆがむ。明らかな図星。不愉快な笑顔を崩せたと喜ぶ前に、流人の顔面に拳がめり込んだ。

 椅子に縛られたままの流人は、そのまま床に倒れる。

「言ってくれんじゃねぇか! 何も知らない転校生の分際ぶんざいでよぉ!」

 殴られた痛みが少し間を置いて流人の脳内まで響く。初めは何も感じなかったが、今では心臓が跳ねる度にズキズキと痛覚を刺激している。

「がふ……」

 声を発そうとするが痛みで上手く話せない。流人は悔しさと共に鉄の味を噛みしめた。

 そして倒れた流人の腹に蹴りが入る。

「クソが! 二年のくせに! 雑魚のくせに! 舐めやがって!」

「やれ! やっちまえ!」

「そうだ! そんなガキ黙らせろ!」

 怒号が充満する教室。今にも集団で暴行が始まりそうだったが、そうはならなかった。

 ある程度流人を蹴った後、リーダーの男は倒れた流人の頭を踏みつける。

「いや、まだだ。こいつには二年四組への人質になってもらわなくちゃならないからな」

 周りの不良達が静まる。しかし、その目はギラついたままだ。

「決行は昼休みが終わった直後。こいつを引きずって二年四組に乗り込む。テメェら準備はいいかぁ!」

「うおおおおおおおおおおお!」

 リーダーの叫びに呼応して、教室内がビリビリと振動する。

 痛みで上手く思考が回らない流人だったが、現状が危険なものであることは理解していた。

《なんとかして、皆に危険が迫っていることを伝えないと……ん?》

 ぼやけた視界の隅に、この教室には似合わない、可愛らしいカーディガンが見えた。

「め……」

 思わず声を上げそうになる。しかし、人差し指を唇に当てるサインを見て、ギリギリのところで留まった。



 そのサインの主、透堂明花は、初めて出会ったときのように可愛らしくウィンクを決めると、軽やかな足取りでリーダーの男へと近づいてくる。

「ついにあのバケモノ達を……」

「んだよお前、ビビってんのか?」

「あぁん? んなわけねぇだろうが!」

「舐めてっと痛い目見るからな。準備は怠んじゃねぇぞ!」

「喧嘩じゃあああ!」

「ね、何してるの?」

「あぁ? これからこのガキ連れて二年四組にカチコミに行くんだよ!」

「ふーん」

 リーダーの答えを聞くと、明花はつまらなさそうな答えを返し、ゆったりとした動作でポケットから何かを取り出す。

 ペンケースのように細長く、キラキラ光るシールやビーズといった装飾がこれでもかとほどこされた、何か。

「ふっふ~ん~♪」

 上機嫌な鼻歌交じりに、それを開く。

「え?」

 透堂明花の手に握られているそれは、キラリと光るそれは、誰がどう見てもナイフだった。

「えい♪」

「……あ?」

 そして明花は、リーダーの脇腹わきばらにナイフを突き刺した。

「えええええええええええええええええええええええええ!」

「あああああああああああああああああああああああああ!」

 流人とリーダーの絶叫ぜっきょうが教室中に響き渡る。

 当然、刺されたリーダーは痛みに耐えきれず、地面でのたうち回っていた。

「は、あ、おま、なん、あぁ?」

 状況を飲み込めないまま、悶絶もんぜつする男。

 周りの不良達も何が起こったのかを理解できず、呆然ぼうぜんとその場に立ち尽くしている。

「随分と楽しそうにしてるね、センパイ?」

 子供のように愛らしい笑顔を浮かべる明花の目には、どこまでもんだ闇があった。

「めーちゃんのクラスメートに、友達に手を出して、タダで済むなんて思ってないよね? ね?」

 彼女の笑顔の透明感が、どんどん上がっていく。

 笑顔だけではない。腕が、足が、向こう側の景色が透き通るくらいに。

「全員、血祭りだよ♪」

 その一言を最後に、視界から明花が完全に消失した。

 同時に、放心状態だった周りの不良達がざわめき出す。

 誰かが言った。

「と、透明人間の、透堂明花だあ!」

 絶叫と恐怖が連鎖していく。

 あれだけ勇ましく雄叫びを上げていた男達が、悲鳴を上げながら逃げ惑う。見るも耐えない様相だった。

「何が、どうなって……」

『透明人間』という単語と、目の前で次々と血を流して倒れていく不良達が、流人の目の前で踊り出す。

「クソ! あの女どこに──ごふっ!」

「速く教室の外にで──がぁ!」

「お前ら一旦落ち──あぁ!」

 目の前で繰り広げられる地獄絵図。逃げ惑う不良達は、わけも分からず腹や足から血を流して倒れていく。

 流人は理解していた。理屈は分からないが、この地獄絵図を作り出しているのは透堂明花であると。

 ふと、流人は自分の身体の自由が戻っていることに気づいた。

「あ、あれ? ロープが切れてる?」

「るっぴー」

 耳元で聞こえたささやき声に思わず叫びそうになったが、何かに口を塞がれる。

「るっぴーは見てて。これからここで起こることを。あたし達のことを」

「と──」

 その少女の名を呼ぶよりも前に、窓から赤くて速い何かが教室に飛び込んできた。

「赤い、ボール?」

「オレの血だよ」

 赤い球体は自転しながら教室の中央で浮遊ふゆうし続けている。その赤と対照的に、不良達の顔ははどんどん真っ青になっていった。

「よっ、るっぴー。大丈夫か?」

「きゅ、吸太郎くん? 血?」

 教室の入口に立っていた吸太郎は、愛想の良い笑顔を浮かべながら流人に手を振っている。

 まるで教室内で起こっている惨事なんか目に入らないと言ったように。

「あー……説明面倒くさいし後にしようぜ、それより今は明花ちゃんの言った通りにしてくれ。その後の判断はるっぴーに任せる」

「任せるって……」

 流人に向かって振る掌を、吸太郎は握り込む。

 すると、教室内に浮遊していた球体から、真っ赤な木の枝のようなものが飛び出してきた。

 深紅しんくの枝が、天井や壁、教室の至る所に突き刺さる。

「んだこれはぁ!」

 不良達はそれぞれ、すんでの所で避け、あるいは避けきれず枝に足や肩をつらぬかれていく。

 明らかに人知を超えた力だ。

「まぁ、それはそれとして、るっぴーは二年四組の生徒なんだけど?」

 冷たい瞳で不良を見下ろす吸太郎。そんな彼を、ナイフを構える一人の不良が狙っていた。

「こ、この野郎……」

「きゅ、吸太郎くん!」

それに気づいた吸太郎は、別段何もしなかった。

「死ねやあああ!」

「危ない!」

 走った勢いを殺さず放たれるナイフの一撃を、吸太郎は抵抗せず受け入れる。

 そして深々と、彼の横腹にナイフが突き刺さった。

「うそ……そんな……」

「はっ、やってやったぜ……?」

 曇り始める不良の顔。対照的に刺されたはずの吸太郎は、顔色一つ変えずに立っている。

「こんなナイフ一本でオレがれると思ってんなら、随分おめでたいな」

「な、なんだと?」

 脇腹からナイフを引き抜く。すると、一瞬のうちに傷口が塞がってしまった。

「オレを殺したきゃ、十字架でも持って来いよ!」

 そのまま引き抜いたナイフをへし折る。

 同時に刺した男の心も折れたらしく、膝をガタガタ震わせてへたり込んでしまった。

「ふむ、Q殿の弱点はやはり十字架か。記録しておかねば」

 声がした方向には、流人の見覚えがある包帯の塊があった。

 まるでまゆのようなそれがいくつも倒れている中で、彼は呑気に本を読んでいる。

「ディハマドくん?」



「吸血鬼には様々な弱点があるというのは様々な文献からも読み解けるがその中でも人間との混血である半吸血鬼のQ殿には日光は効かずニンニクは少し苦手といったくらいだと思っていた。だがやはり十字架が弱点というのは変わらないのか。純粋な吸血鬼の弱点と人間としての身体の境界、これは実に興味深い……」

「何をごちゃごちゃと──!」

 いつもの調子でブツブツ呟くマミィに、数名の不良が殴りかかる。それでもマミィが本から一切目を離すことない。

「あ、あぁ? なんじゃこりゃあ?」

 マミィの射程しゃてい範囲はんいに不良達が踏み込んだ直後、彼の身体に巻かれている包帯がまるでタコの足のように動き出した。

「丁度良かった。新しく書き換えた術式が正常に作用するかどうかを試したかったんだ。サンプルは多いに越したことはない」

「な、何を──」

 言い終わらないうちに、不良達は動き出した包帯に全身を絡め取られ、そのまま教室に繭が増えた。

「やはり攻撃の自動化についてはまだまだ課題が残るか。反応速度と対応できる人間の数は及第点だが敵と味方の区別をつけることと力を押さえることにはまだまだ改良が必要……」

「おーいマム、って聞こえてないなアイツ」

「仕方ないよ、だってマムだよ?」

「それもそうか!」

 笑い合う吸太郎と明花。まるでそこだけ二年四組の教室のように、穏やかな雰囲気に包まれていた。

 対して流人はもう全身の力が抜けてしまい、椅子にへたり込んで呆然と教室を眺めるだけ。

 彼の頭はもう状況に追いつくことができなかった。

「このバケモノ共が……テメェら! 一旦ずらかるぞ!」

 リーダーの号令でまだ動ける不良達は教室からの脱出を図る。

 しかし、そんな彼らの前に立ち塞がる者が一人。

「ご機嫌いかがですか、先輩方」

「お、おおお、お前はぁ!」

 リーダーを始め、出口を目指していた不良達全員が大きく後ずさった。

 その怯え方も、今までのとは比にならない。冷や汗をダラダラ流し、腰を抜かして半泣きになっている者までいる。

 教室の入口に立つその人は、この学校には似つかわしくない、清廉潔白せいれんけっぱくそうな雰囲気ふんいきかもし出しながら、溜め息を吐いて頭を抱えている。

「切裂さん……」

「野間さん、無事……ではないようですね」

 切裂麗子の目には憂いがにじみ出ている。

 彼女の手にはなぜか銀色に光るハサミが握られていた。

「やれやれ……薄々こうなることは予想していましたが、どうやら最悪の状況のようですね」

「キリキリー、『最悪』は言い過ぎなんじゃない? 怪我はしてるけど、るっぴーはここにいるしさ!」

「透堂さん、お静かに」

 明花を冷たい視線でにらみつける。気づけば教室内の空気は完全に凍り付いていた。

「野間さんが怪我をしている。それだけで十分に問題なんですよ。それにこの惨状さんじょう……」

 不良達だけではない。吸太郎も明花もマミィも、姿勢を正して麗子の言葉に耳をかたむけている。

 そんな彼らと教室を見渡し、また一段と深い溜め息を、口元を覆っているマスクの下で吐いた。

「……まぁ、野間さんにしたことを考えれば、この辺りで手打ちにするのが妥当だと思いますが、いかがでしょう? 三年一組四番、小山おやま大将だいすけさん?」

「な、なんで俺の名前……」

「当然ですよ。同じ学校に通っているんですから」

 名を呼ばれたリーダーの男、大将はガタガタと歯を鳴らしながら、その場にへたり込んだ。

 そんな彼を見下ろす麗子。そんな彼女の瞳には全くと言って良いほど光が宿っていない。

「もしも不満でしたら、こちらとしても手荒な手段を取るしかありませんが──」

 麗子はゆっくりと自分のマスクを取る。

 口元を覆うほど大きな白いマスクが、ハラリと地面に落ちた。

「いかがしますか?」

 目を細めてニッコリ笑う切裂麗子。

 このとき、流人は初めて彼女の笑顔を目撃した。

 耳まで裂けた真っ赤な口の、不気味な笑顔を。


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