世界観訪問

「うおっと」


「ッチ」


スーツ姿のサラリーマンに睨まれ、舌打ちを打ったことにより発生した。


だからどうと言うことは無く、寧ろ疲れているところに追い打ちをかけてしまい申し訳ない気持ちが表れる。


誰しもに起こりうること、ただの日常の一コマ、ただの環境音。


気にする程度のことは無かった筈なのだが、久しぶりに聞いた舌打ちに気を一瞬、ほんのたった一瞬だが囚われてしまった。


その刹那、自身の全方向に地面からビルが生えてきた。


うわお・・・袋小路。


ビルに囲まれ閉鎖的な空間なのに、ビルの内側から五月蠅いくらい人の雑踏が聞こえる。


なんだこれ・・・。


少し歩いて道を探すが何が何だか分からない。


これはつまり迷子という奴か。


ビルの圧迫感はとても異常で心が押しつぶされそうになる。雑踏には焦らされ、焦燥感という必死に脳味噌を奪われると思考が消える。


・・・ま、そう言う状況にあるだけで、別段自身がそうは為ることは無いし、為る必要は無いんだけどね。


自身はただ落ち着いて、ゆったりとマイペースで物事を思考する。


余裕があれば世界は広がる。


と言うことで状況整理だ。


この現状は何だ?と自身は考える。


この現状を見るに社会に縮図のようにも思える。

自身がそれを違和感や異物のように捉えるのは、ある種自身が自身という個性で歩き、言い方を変えれば社会不適合者であるからだろう。


であればこれは自身の世界観でない誰かの世界。

誰の世界化と言われれば思い浮かぶ睥睨をむき出したストレスを抱えた舌打ちのサラリーマンか。

周囲からの声や人々から受けたストレスは、感情として表に現れ、自身の所持したモノでは無い『不快の気持ち』という精神的影響に支配された。


つまりこの世界は社会に抑圧された結果。


理性が瓦解し、牙をむきだし、思考をする余裕を失うほど憔悴している姿か。


これが、包み隠せない、本能か、本性か。


で在れば理性とは一体何なのかと言う話だが。


本性を隠す為の演技か、本能を抑制する為の薬か。


選択は辛いのか、だから人に任せるのか。


抑制はしんどいか、だから暴発するのか。


であれば、そのままで、獣の様で、欲望に忠実で構わない。


それで自身という存在が納得出来るのなら。認められるのなら。


誰からも獣という認識をされて良いのなら。


今日からサラリーマンは獣である。


偽る事が良いなどと言っているわけでは無い。


ただ自分が人に牙を向け傷つける輩で自己満足かどうかという話。


思考と理性は本能、本性を柔軟に表現させる。


さてそんなお気持ちは置いておいて。


世界観が分かったところで自身の対策を一つ。


方法は簡単。


この場がサラリーマンの世界であるならば、世界観を構築しているのならば、ここに自身の世界観を構築していくだけなので在る。


構築と言うより、再設計?


帰宅の方が正しい表現か。


と、言うかもう戻ってきているんだが・・・。


自身はいつも自身で居るから本当に一瞬のサラリーマンとの外交だったのだろう。


にしても自分の世界は・・・。


見晴らしの良い草原に数百人は乗れるだろう巨大で寝心地の良いベッドが置いてある。


青空に心地よい風がそよぐ。


意識はしていなかったがこれは中々、幸せそうで。


これが世界観、基、心の現れと呼ぶのなら、言葉にすれば自由の広場とマイペースに平和か。


(よしよし)


自身は良く自身として意志が持てているみたいだ。


幸せこの上ないなここ。


じゃ、と言うことで現実に帰ろう。


「お疲れの所、失礼しました!いつもお仕事ありがとうございます」


「あ・・・え、と・・・こちらこそすみません」


舌打ちをどこに忘れてきたのだろうか。


俺の世界観に丸く収められたのだろうか。


お辞儀をされてしまった。


誰かが誰かを見て疲れるのなら、誰かが誰かを見て平和に感じることもあるだろう。


であれば俺は平和人間になりたい。


ま、人に左右される前に自分の言動に責任にと意識を持て、と言う話ではあるが。

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