変な人は外を出歩いていると変な出来事に出会う1 ~綿毛フィーバーと黒いモヤモヤ~

外出て歩いていると色んな事が起きるから飽きないんだよなぁ。


・・・ほら、歩道の床。コンクリートの割れ目からケセランパサランみたいな綿毛が沢山出てきた。


ゴマみたいな目と口。湾曲した歪な一線を書いたような細すぎる両腕両足。


(小学生の工作みたいだな)


しかしまあ、げんなりしているというか、元気が無いというか、覇気が無いというか。


毛もしおしおで重力に負けているし、足取りも重そう。


(・・・なんだこれ)


で結局なんなんだと言う話。


周囲の人々は気にしない。見えていないのだ、当然か。


誰かは俺の脳がバグっているだとか、幻覚を見ているだとか、エラーだとか仰いますが・・・そうなのかも知れないな。


見えない人からしたら可笑しい様にしか見えないもんな、俺が。


脳か何かが、あるかないかも分からない線を認識しているって事だもんな。


けれど、言わせて欲しいのは、自身にとってはそれが通常で当たり前。見えるモノは見える。変えられないのだ。


見えない人、見える人、どちらかがどちらかの世界に足を踏み入れて説得を試みても、互いに譲らなければ無意味な時間になるだろう。


お互いに、別世界、別人種として認識し、わざわざ接触しないのが穏便か。


ま、そんなことはさておいて。


彼ら綿毛軍団は喋らない。


けれど、俺の裾を引っ張り、俺を見上げて何かを訴えかけてくる。


話せないならジェスチャーをすれば良いじゃない。と言う事で、綿毛は細い腕を自分達が出てきたコンクリートの隙間に指す。


(隙間の中に何かあるって事か)


ナイスジェスチャー。


俺は人目も気にせず、その隙間に顔を覗かせる。


床に手を付け、腰を浮かし、隙間を覗く姿勢は仕方ないとはいえ、見るからに滑稽だ。


(にしてもめっちゃ綿毛おる)


その隙間、真っ暗であるのに、関係なく見える。目を凝らしすぎれば見える。


綿毛達が一生懸命何かを外に追い出そうとしていた。


それは、黒い毛玉のようで、毛先が蠢く・・・モヤモヤ?


モヤモヤしているし、何故かこちらの気持ちもモヤモヤするから黒いモヤモヤと呼ばせて頂こう。


しかし綿毛達の力ではそれを外に運ぶことは出来ない。


動いすらない。触れるのを拒否している潔癖症の子いるし、触れて「気持ち悪っ」と手を引く子も居る。


(成る程成る程)


俺は理解した。状況全部意味分かんないけど理解した。


あの黒いモヤモヤをどうにかすれば良いのだ!!


「よし、任せとけ!!」


胸をドンッと押してやる気を見せる。


(・・・何故か周りの人に変な目で・・・あ、俺変な人だったわ。何も可笑しいことは無かった)


当たり前ながら自分は変だと自認している。


俺は社会や世間が言う様な通常、正常ではない。


だからといってそれが悲観的で、マイナスポイントとは捉えない。


先程も言ったよう、俺は自負しているだけ。自分の行き方を。


納得をして、それで良いと。


「うし」


もう一度気合いを入れ直して、俺の今まで培った全ての経験を駆使して、対処してみよう。

自身は今まで誰かに何かを教わって来たのでは無い。自ら考え学んできたのだ。自分で善いと、納得できる方へと選択してきた。


自身の世界観の話でしか無い。それしか知らない。


つまり自分には自己流以外ない。


しかし!それが自身にとって最善である。


結局自分自身が方法を見つけ出すしか納得する術はないのである。


正解の道と言っているわけでは無い。


常に試行錯誤。


そんな自分が編み出した、なんか良くわからんモノをどうにかする方法はこれ。


背負ったリュックを床に置き、その中から薪を取り出し、隙間に突っ込む。そして、バーナーで薪を燃やす。


結局、燃やすのが一番なんよ。


「こらぁ!貴様ぁ!何やっとるだぁ!」


声でか。


おじいさんが唐突に薪と俺に水を掛けた。


「放火魔か!?貴様!?」


・・・確かに昼間の往来はやばいか。


この辺りに建物がない無いとは言えど、誰かは自身の都合と想像を駆使して、心配性である。


ふーむ。


「お、おーい、聞いとるか??」


おじいさんの声が離れていく。


それは俺がその場から考え事をして離れてるからだ!


「あれ?儂の姿見えとらん?」


自分の世界に入り過ぎて、おじいさんは確かに眼中になかった。


「お・・・おー」


「ごめん、また来る」


俺がズボンの裾に付く綿毛にそう言うと、綿毛はコクッと頷き、とぼとぼと隙間に帰って行く。


後ろ姿が哀愁を帯び過ぎている!!






と、言うわけで暇を潰して人が居ない深夜帯にまた来た。


綿毛達は相変わらず頑張っている。


「来たぞ!!」


その一言に綿毛達は拍手した。


「どいてて?」


そして、俺の言葉に従順に従い、全ての子達が外へ出た。


今日隙間に突っ込んだ水を掛けられた木は回収し昼間に干して来たのでもう一度使えるドン。


と言うことで、もう一度薪を隙間に刺していく。


全部刺し終え準備が出来たら、着火です。


ボゥッ!!



「うわぁー!一瞬でめっちゃ燃えたぁ!!!」


信じられないくらい一瞬で火が上がった。


キャンプファイヤー並みだぜ。


俺は気付いたのだ。


この世で、見知らぬ何かを退かす時、何かを消す時は燃やすのが一番手っ取り早いと。


消してしまえば何も残らないしね。


あの黒いモヤモヤが気になるのならば炎でどうにかしてしまえなのだ!


しかしそれだけでは不十分だ。


これは確かに有用だ。しかし炎は物理攻撃が過ぎている。


見えない世界のもの相手には少し物足りないと言うわけだ。


ではどうするか。


熱い想いを込めろ!


つまりは結局熱!炎とは違う熱さ、エネルギーを注ぎ込むのだ!


目に見えないモノには目に見えないモノで対抗するのだよ。


目に見えないモノって、精神に近しいモノだという自分の考察があってだな。


一部の幽霊とかは分かり易いだろうか?


思念体みたいな言い方をするが、言葉の通りだとすると思いと念や感情が身体。つまり、精神の次元に居ると言うこと。


精神が形として捉えられる世界?次元的な?


本当かは分からないけれど、今まで培った経験と直感で見ればそうと捉えられる。


勝手な見解ではあるが・・・確かな経験でもある。


またつまり、現実で捉えきれない様な、視認することが難しい存在のほとんどが精神を身体にしているのでは無いかという話。


だからこの黒いモヤモヤも同じなのであれば、念には思いをぶつけると言う事が一策として成り立つのではなかろうか。


気持ちには気持ちでって話。


この綿毛については何故か、直感では少し違うって感じた。何かマジで分からない。


さて、それで何を願っていくかという話だが。

消えて欲しいなんてのは俺の願いであって、綿毛からしたらどこかに行って欲しいだけかも知れないし、誰かからしたら必要となる存在かも知れないし、俺の願いで恨まれたり、牙が向いて傷つけられるのは嫌だし・・・結局想定でしか無いから何も分からない。


けど!何が起きても被害が誰にも被らないように!


こう願うのだ!


「なんとかなれぇ~!丸く収まれ~!!」


これはただの俺の気持ち。それを受け取ってどう思うかは、知らん!


誰のどこのモノでもそうだが、行動の結果は帰ってくる。


行動に対して行動としてだけで無く、気持ちや念としても帰ってくる。


誰かは見返りに合ってないという。違う。帰ってこないのでは無い。気付いていないだけだ。目には見えないから。


だから俺は思う。


自分で言葉も行動も選べる世界で良かった、と。


勿論責任は選択した自分。そうでないと何が悪かったから改善できないからね。


「もっえろー。燃えてどうにか収まれぇ~、皆が嫌と思うモノだけ燃えろ~」


なんかテンション上がってきた。


俺は踊る。盆踊りのように手をくねくねさせる。


「なんか存在だった場合、傷つかないように燃えろ~」


俺を見た人はワカメの様だと楽しんでくれるだろう。


気付かなかったが、俺の足下で綿毛達も楽しそうに踊っていた。


その間、一分。


突然炎がパッと消えた。


(あの猛火が一瞬で!?)


やはり全てが不思議。しかし、目の前に起きているという事実。


不意に綿毛と目が合った。


綿毛は顔がめっちゃ真顔だった。嬉しそうでも哀しそうでも無い、スンッとしたマジの真顔。


ニュートラル状態なのだろうか。


「おっ」


隙間を確認してみると、黒いモヤモヤは消えていた。


綿毛達も同じく確認をすると、俺の方に向き合って深々とお辞儀をした。


「君達がニュートラル状態に戻れて俺も嬉しい!戻ってくれてありがとう!!イェーイ!」


嬉しさのあまり手をハイタッチするかの様にハンズアップしてしまった。


すると。


イェーイ!


綿毛が全員パリピになった。


・・・盛り上がるぅ!!!


綿毛もハンズアップして顔ニコニコ、テンションぶち上げって感じ。


(め・・・めっちゃ楽しい、嬉しい!!)


何が無くても会うだけで盛り上がれる、こんな楽しさが好きだ!


「よし!」


満足したし、帰ろう。


最後、バイバーイとお互いに手を振って、綿毛は隙間に、俺は家に帰るのであった。






さて、次の日も様子が気になったので、例のあの場所に立ち寄ってみると・・・。


「戻っとるーーーー!!!」


あ、大声失礼しました。周りの目が凄い。


いや、そんなことはどうでもいい。


しおしお・・・。


昨日よりしおしおじゃないか!!


(なんで!?はっ・・・まさか・・・!)


昨日より人が多いが気にせず、隙間に頭を突っ込んだ。


「うわぁ!!」


飛び驚いてしまった。


(黒いモヤモヤが昨日よりでかくなってる!)


綿毛は今日も俺のズボンの裾を引っ張り、潤んだ目で俺を見上げた。


「・・・今日も?」


コクッと人頷く。


それに対して俺は、


「よし・・・任せとけ!」


と、断るという選択肢は無いのだ。


綿毛が、俺と同じくキリッとした顔立ちになったのはなんなのだろうか。


また夜・・・。


昨日同様、燃え上がり、ノリにノってバイバイだ。




ちゃんと寝て起きて、次の日もまた様子を見・・・「なんでぇ!?」


やっぱり何でぇ!?


・・・また人増えとる・・・。


モヤモヤに関しては隙間から漏れ出ている。


(人が多いと隙間を除く隙さえないな・・・)


「・・・これ俺が燃やしたからって可能性ある、か?」


やらかしたかぁ?


まあ、仕方ない。やった後の事を考えよう。


また同じ様に炎で対処が出来ないとなると・・・・。


(うーん・・・)


あ。


一つ思い当たる節がある。


「イェーイ!」


あ、昼間だった。


いやしかし!見てくれ!綿毛が・・・綿毛達が!


みんな元気に・・・パリピになってる!!


(何処から持ってきたんだろう、そのサングラスとDTM機材は・・・)


成る程。この場所を整理するより、彼らを元気づけた方が手っ取り早い。


彼らは初め、しょぼしょぼで、炎で消してニュートラルに戻った。そして俺の元気を受け、元気になった。


つまり・・・そういうことだ!!


おー、これで夜行かなくて済むー。意外に辛かった夜ともこれでおさらばだ。


よし、次の日だ。


(うぉおおおおおおぉぉぉぉ・・・・・)


黒いモヤモヤが昨日より凄まじい事に。


隙間から流れるどころか遙か上空までモクモクだよ。もう雲の様だよ。


見上げる首が痛い・・・。


ただ・・・綿毛の状態は・・・ニュートラルだ!


すっごい!普通の状態で保てるの凄い!


「イェーイ」


人の量も凄いけど更に凄い勢いとテンションで盛り上げると、彼らはミラーボールにダンス。もう、クラブです。俺より凄まじい元気とノリだった。


(よしよしよし!!!嬉しっ!楽しっ!ありがてぇ!その元気見るだけで俺も更に楽しくなるわぁ!)


今日で三日が過ぎ、更に四日が過ぎ、一週間が経った頃。


俺が来た瞬間から彼らは俺よりもノリノリになった。


まあ、いつしおしおに戻るか分からないから足を運んではいるが・・・。


そろそろ、大変だ。


人の量は日に日に増し、もう移動は窮屈と言って良いだろう。


黒いモヤモヤはもうその場の空気に感染しているかの如くだった。


付近からでもモヤモヤだと分かる程に上昇し、広がっている。隙間を覗く側だったのが、その空間に入る側になってしまった。


「もうちょっとキツいなぁ・・・」


そのちょっとした小言の様な文句に綿毛は眉間に皺を寄せ、頷いた。


「俺の家・・・住処にする?」


どうせ毎日顔を合わせに来るのだ。というか、遭いに行きたいのだ。楽しいから。


「ッ!!」


出ない声。しかし、綿毛全員のゴマのような目は俺を一点に見つめていた。


分かる、俺には分かるぜ、そのアイコンタクト。


「・・・のりな」


「!!」


そう言うと綿毛が全て俺の身体に引っ付いた。


(・・・重さを感じる)


しかしそれよりも物事が解決した事と、毎日彼らの楽しめる事を考えれば軽い軽い。


「やったぜ!」


その日はスキップで帰った。


彼らをずっと俺の身体に引っ付けとく訳にはいかないので、取り敢えず彼らを机の引き出しに棲まわせた。


開ける度パーティをしてたり、クラブになってたり、盛り上がれます。


取り敢えず陽気で楽しそうで俺も嬉しい。毎日楽しんで貰って、楽しいを貰って感謝でしかない。


知らなかったがあそこはパワースポットと呼ばれている場所だったらしい。


最近足を運ぶ人が増えたのは誰かが噂を流していたからなのだろうか。


まあもう行くことは無いと思いたい。


(俺からすればパワースポット?と言う感じだ)


まあ、その場に居る人からしたらそうなんだろうな。何かを感じているのかも知れない。波長が合っているのかも知れない。


一概に違うなどとは言えない。


それでいいか。


別の楽しいことを考えて、今日もまた机の引き出しを開ける。


「いぇーい!」


いぇええええええええええええええい!


(はっ、おもろ)


すげぇ楽しい。

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