偶像の心は誰も知らない

ぐりーなー

像の心、知らず

舗装されていない険しい山道、木々に行く手を阻まれながら登った先に廃れた神社あった。


立地も天候も悪いけれど沢山の人が集まっている。


自分もその中の一人だ。


そうなのだが。


自分はもう帰ろうかと悩んでいた。


人間の数という面に於いてもそうだが、それ以上に気になるのは・・・。


なんか五月蠅い、だ。


いや、人の声では無いのだ。人の声みたいなではあるが。


けれど耳には届いている『声』ではない。


なんというか脳味噌に直接語りかけてくる系の奴だ。


心なのか?


まあどちらでも良いが。


(こんな事初めてなんだけど・・・)


霊感はない・・・筈。


そして五月蠅いのは、今言った通り心の声ではあるが、人の声では無く・・・。


自分が今、並んでいるその先にある、像。


皆がここに来る理由。


神像へのお祈りだ。


願いを何でも叶えてくれるという噂の像。


自分はその用途目的でここを訪れたわけでは無い。この土地の住民だし。


で。


(その像が五月蠅いのなんの!!)


自分の番が回ってくるまであと数名。皆の願いと像の声を聞いてみようと思う。


現在。先頭のかたは、像台に五円を於いて祈りを捧げた。


(いや、神。お金使えないねん。嬉しくは無い。気持ちは貰うけど。なんか見栄え悪くない?お金あって品無くならないかい?てかまあ、自分神じゃ無いんですけどね)


祈っていないのにもう五月蠅い。


しかもこの像、神じゃ無いぞ。じゃあ一体なんなんだ。


(これからも健やかに過ごせますように。敵わなければ呪います、神様。よろしくお願いします)


(怖っ。ええ?でも健康って自分の生活習慣次第じゃ無いのかい?あ、行っちゃった)


一人が捌けて皆が一歩前に詰める。


(お願いします!皆が泣いています!戦争を止めてください!)


(・・・君達が勝手に始めた物語じゃん。人間同士の尻拭いは神様の責任なの、か?自分達でお尻は拭こうよ・・・)


そして次。


(神様は視ているだけで何もしてくれませんよね・・・。お願いします!この世を僕を幸せにしてください!)


(まだ求めるの!?身体があるだけ幽霊よりずっといいじゃん!環境と言う生きる舞台まで用意して貰ってこれ以上望むの!?甘え過ぎなんじゃ無いの?自分達次第なんじゃないの?全部。強欲だねぇ・・・。羨ましいわぁ)


そしてまた一人。


(この世界が平和になりますように・・・)


(自分達で自分達の首絞めてるだけだけどね?)


またまた一人。


(受験が受かりますように)


(それは・・・君の頑張り次第じゃないか。努力の方向性を間違えなければ結果が出るよ)


自分の前にはあと一人だ。


(地震や温暖化をどうにか・・・お願いします!)


(自分達が自然を軽視して貪った結果じゃん!自然だって、いや、地球だって生命よ?有限よ?時間の長さが違うだけで。人間。生きる上で大切なモノの優先順位を間違えちゃいけないよ?)


そして自分の番だ。


(偶像に何願ってんねん。てかまず像が神って何?神様ならどこにでも居るやろ。万物、神なんだから。どこで願っても届くんじゃないの?違うの?なんでずっとその定位置に居ると思ってんのよ。いやそしたら可哀想だろ。いや、俺みたいに。身動きとれないの辛すぎるんだけど。)


(えっとあの・・・)


やっぱり帰れば良かったのかもしれない。


(ああ、ごめんごめん!って喋れてるぅ!?)


(はい、声届いてます)


(え、あ。なんか恥ずかしい愚痴いっぱいだったね?幻滅した?願い叶えられなくて。ただの偶像で)


(いえ、自分は別に叶えて貰いに来たわけじゃ無いので)


(じゃあ、なによ)


(いや、感謝をしに来たのですが。自分はこの近くに棲まわせて貰ってるので。先程言っていましたが、この環境を壊してきたのは自分達だと思います。山の近くに住んで土砂崩れ。当たり前だと思います。人が棲まう地域では無いだろうから。けれど、自分の身にはまだそう言った事が起きてません。幸い地震も起きていません。地球の惨状がひどくなる中、この土地がある事に心から感謝をしたく。でも、確かにあなた様の言う通り、わざわざここに来なくとも土地に感謝するなら、今まで歩いてきた土、空、どこからでもどの様にでも感謝出来ますよね。すみません。お邪魔しました。でも、本当にこの場所がある事、環境が継続している事。心から感謝しています。ありがとうございます)


(・・・珍しい。なんか、こちらこそ、有意義に使ってくれているみたいでありがとう。いや、全然神じゃ無いし、幽霊なんだけどね?なんか、荒んだ心、一気に晴れた気がする。皆なんか、一方的な願いやらなんやらでさ。疲れたよ。要望は凄いは、皆不安だからこっちもなんか不安になってくるし・・・。願い叶わなかったら俺の所為。責任転嫁は辛いって・・・。神は居ないなんて良いながら、一番よく分からない像に願うし。理由無く不謹慎っていうし・・・。欲望や願い、感情を押しつける方も大概不謹慎だと思うんだけどな。人間が創った身勝手の結集。極み、集合体。怖いよ、俺は。結局、俺、何のために創られたの?創設理由を教えて・・・。俺じゃ無いけど)


愚痴が凄いな。


(いや、分からないですけど。というか、貴方は一体何物・・・)


(ただの幽霊だよ。身体欲しさに入ったのか、入れられたのか忘れちゃったけど。とっても後悔してる)


人形に宿るのと同じなのか?


(それでさ)


未だ喋る!


後ろの人の目つきが怖いんですけど。足のつま先で地面トントンしてるんですけど。


(めっちゃ適当な軽い奴もいるんだよ。なんか凄い形式だけ整えて、中身の無い奴。意味がゼロだよ。思い優先だろ、この場では流石に。嫌な思いもあるけどさ。我が儘なんだよなぁ。てか、この像ない方が皆頼るところないから自分でもっと頑張ったんじゃない?ちょっと人の足止めちゃってるかも、ごめん。縋って、頼りすぎよな。それで彼らはすっきりして帰っていくじゃん?荷物押しつけられたこっちも大変よね。行動の結果が将来になるだけなのに!)


長ぇーーーーーーーーーーーー。


(うわごめん、こんなに愚痴っちゃって。後ろの奴とか、余裕なさ過ぎて、こっちに怒りの感情ぶちまけてるよ。この場でそれ、失礼って事に気付かないのか?気付かないわな。やってるんだもん、本能のまま。嫌な思いしてるのはどっちかというとこっちなんよな。幽霊とか土地側。大変大変、あ、また喋ろうとしちゃってるよ。で、最後に一つお願いがあるんだけどさ。俺の像、壊してくんない?辛すぎるわ)


(わかりました)


(即答!?それでいいの!?)


(それで楽になるのであれば)


「早くしろよ・・・」


(願う奴の態度じゃ無いだろ!!)


また言ってるわ。


「すみません」


自分は像から離れ、家からハンマーを持ってきた。


「君!何をする気だね!!」


おじいさんがぎょっとしている。


おじいさんだけではない、周りの人たちもだ。自分はそんなことも気にせず、像の裏に回り込み、ハンマーを像にぶち当てた。


「な。なんとぉ!罰当たりな!!」


(おっ。さんきゅー。あ、でもあれ?別に壊れたからと言って出られないんだ・・・。あー、そうなんだなぁ・・・。まあ、でもこれで変な輩が祈ってくることは無くなるか!サンキュー!!)


嬉しそうな幽霊さん。


しかし、そこに自分の姿はない。


取り押さえられ、逮捕された。


この御時世、社会では当然だった。





「うわぁ。きれー!」


どこかの少年がまたこの山にやって来た。


あれから時間はそこまで経っていないが、人々はほとんど居らず閑散としている。


(結局、俺の身体目的だったと言うことか)


言い方に語弊があるがそういうことだ。


少年は、キラキラ光る尖った石の破片をそっとポッケに忍ばせた。


彼はどうなったのだろうか、そう考える幽霊は、石の破片として一家庭のリビングに飾られていた。


タイムリーな事に、彼が捕まったというニュースをテレビでキャッチした。


「許せないですよね。神への冒涜ですよ」


と言う街頭インタビュー。


(一体どちらが神の冒涜かという話だ。こんな狭い空間に閉じ込めて。象り形を作っただけの人間が・・・)


「罰当たりですよね。何か天罰でも下るんじゃ無いですか?」


(与えようとしているのは君達人間だろう。彼の行動が気に食わないと言う理由で。その権利がどこにあるのだろうか。・・・なぜ彼らは断言するのだ。神のこと事も、幽霊の事情も何も知らないのに)


世間の目は彼を敵視するモノばかり。


「なんでこの人が悪いの?」


「モノを壊しちゃいけないんだよ?」


「なんで?」


「誰かに取って大切なモノだからよ」


「じゃあこの人にとってこれは大切じゃ無いものだったって事?なんか嫌だったのかな?」


「そ。そうかもしれないわね」


「なんか、事情があったのかなぁ・・・」


(私がお願いしたからだ・・・。それを望んだのだ。そして彼が恨まれた)


誰かに縋らないと、誰かを恨まないとこの世では生きていけないのか。





幽霊が楽になれたのなら良かった。


自分は随分と痩せこけてしまったけれど。


「うっ・・・」


血反吐が出る毎日だ。


あの像を誰が良い物だと言い始めたのだろう。


神様がそう宣ったのならそうかも知れない。


けれど誰もそんなことは言っていない。


現に、幽霊は苦しんでいた。


まあ、幽霊の自業自得な部分もあったけれど。自分は誰かに何を聞かれたっていつも答える。


「像が願っていたからやった。後悔はしていない」と。


幻覚だ狂人だと言われても仕方ない。


皆は偶像の内情を知らないのだから。


けれど疑問は持てたとも思う。


何を言われても気にはしない。けれど、人の感情というのは、身体への影響が大きい。


死にそうな状況だ。


人間の固定概念、価値観。理屈の無い道徳や倫理観。誰が創ったのだ。人が作ったのだ。


真理などではない。


それこそ偶像。


創り崇拝する。


妄想で人は人を貶し、首を絞めていく。

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