魔力無しで村から追放された少女エアの、毒舌AIと始めるまったり機械革命

エプソン

第一章・追放編

第1話・まさかこんなことになるなんて

「エア・ブラウジング」

「はい」


 肌がピリピリするほどの厳粛げんしゅくな雰囲気の中。


 対面する国王に名前を呼ばれた少女は、見知らぬ大臣達の注目のもと堂々と――。

 それでいて控えめな口調で応答した。


なんじ、エアよ。本日をもってに任命する。国と民の繁栄のため、全力を尽くすがよい」

つつしんで拝命致します」


 震える息を必死に抑え込み、何度も練習した言葉を吐き出す。

 今もなおエアの心臓は大きく高鳴っており、頭の中は雪が降っているように真っ白である。


(ちゃんと言えて良かったぁ)


 周囲に悟られないように小さく安堵の息を吐く。


 そしてエアが応えてから数秒後。

 彼女の周囲から拍手の渦が巻き起こった。


(何か照れる……)


 ひざまずいた姿勢のまま、喝采かっさいの波を全身で感じ取る。

 形だけのやる気の無い拍手とはいえ、人生で初めて認められたエアにとっては恐ろしく甘美な音色だった。


(ん……?)


 右斜め後方から一際大きい拍手が聞こえる。

 周りに同調すること無く、自身が思うがままの行動を取る人間には心当たりがある。


(ありがとう、師匠)


 心の中で感謝を伝えた瞬間、ふと瞳に熱が宿った。


(ダメだよ、アタシ! 泣いちゃ駄目!)


 第二の人生のスタートを切っただけだというのに、気を抜いてしまえば号泣してしまいそうだった。

 それだけエアの胸は嬉しさで一杯だった。


(まさかこんなことになるなんて、あの時はちっとも考えられなかったなぁ)


 拍手の余韻よいんに包まれながら、エアは十年前の夜を思い出しかけていた。

 あの日、世界が終わったと思ったあの瞬間を――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る